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双焔の魔女の旅路  作者: かおぴこ
第12章 それぞれの道中
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第159話 ヒイロと街のそばで

 翌朝、男達と別れたヒイロとウイユベールは街を目指す。聞いた話が本当なら今日中には街に着くというとこもありウイユベールの足取りは軽かった。


「ウイ様、街に着く前にご相談が」

「いいわ。何かしら?」


 ヒイロは昨晩の男からのアドバイスを踏まえて、ウイユベールが周りに貴族だとバレないようにすべきだと進言する。


「王都へ着くまではウイ様はごく普通の平民だと思われていたほうが面倒ごとや危険に巻き込まれる可能性が少なくなると思います」

「なるほど、分かったわ。具体的にはどうしたら良いかしら?」

「まず街に着いたら服を買いましょう。それまではこのマントを羽織っておいてください」

「準備がいいわね」

「所作や言葉遣いは……まあ、あまり人前に出ないでくださいとしか」

「それは、ヒイロの真似をすればいいんじゃないかしら」

「私の?」

「例えばそうね、貴女がアカに接する時のように私に接してくれたら私はそれを見本に「平民の所作や言葉遣い」を学ぶわ」

「そ、そんなものわざわざ学ばなくてもっ!」


 ヒイロは慌てて手を振った。


 別にウイユベールが平民の所作を学ぶのは構わない。だが「アカに接する時のように」ウイユベールに接するというのは勘弁して欲しい。貴族相手にまるで平民のような扱いをするなど、無事に王都へ辿り着いたところで不敬だと切り捨てられかねない。


「あら。だって二人きりで旅をしているのに、片方が人前に出ずにいるなんてできないでしょう? それにずっと黙っているのも不自然だし。だったら私が平民らしく振る舞えたほうがいいと思うわ」

「それはそうですが、」

「安心しなさい。仮にお父様やお母様の前でヒイロが私を呼び捨てにして気安く肩を叩いても、この緊急事態を乗り切るための処置だと言えば貴女が罰せられる事はないわ。お父様もお母様もそこまで狭量ではないもの」

「はぁ……」


 こういうのって当事者が許したらいいのか? 例えばウイユベールの婚約者が――居るかどうかは知らないが――「この平民風情が! よくも私のウイユベールに!」とか言って問答無用で斬りかかってきたりしないよね?


 まだ渋るヒイロだったが、ウイユベールは決まりね! と手を叩いた。


「そういうわけだから、ここからは私に対して敬語や様付け禁止ね! わかった?」

「はぁ……でも本当に大丈夫ですか?」

「早速違う!」

「はいはい、分かったよ」


 強引に決定して、頬を膨らませるウイユベールに面倒になったヒイロは諦めることにした。もしも問答無用で斬りかかられたら悪いけど炎で迎撃させてもらおうそうしよう。平民が貴族を燃やして正当防衛が成立するかも怪しいけれど、その時はウイユベールが許可したと言い張ろう。


「じゃあ、名前を呼んで」

「はいはい。行くよ、ウイ」


 呼び捨てにされることの何がそんなに嬉しいのか、ウイユベールはぱあっと明るく笑うとうん! と言ってヒイロに並び歩き始めた。


◇ ◇ ◇


「ヒイロ、街だわ!」

「意外と早く着いたね。まだ四の鐘(午後三時)の前ぐらいなのに」

「早く行きましょ! 今日こそベッドで眠りたいわ!」


 嬉しそうに門へ駆け出そうとするウイだが、ヒイロが待ったをかけた。


「待って、昨日あった冒険者達のこと忘れてない?」

「もちろん覚えるわよ。街が近いことを教えてくれたのは有難いけど、私達を臭いって……あ」

「思い出してくれて良かった。東の方に川があるって言ってたから服と身体を洗いに行くよ」

「そうね……せっかく平民として紛れ込もうとしているのに目立っては良くないものね」


 貴族バレ云々以前に、臭すぎて街中から注目されるとか嫌すぎる。言いづらいことをきちんと言ってくれた昨日の男達に、ヒイロは改めて心の中で感謝した。


 ……。


 …………。


 ………………。


 川は街の東にあるって言われたからてっきり歩いて数分くらいのところにあると思うじゃん? 


「だがしかし、川まで歩いて小一時間と」

「小一時間?」

鐘ひとつ(三時間)の三分の一ぐらいっていう私の故郷の……方言かな?」

「そんな言葉があるのね。なんだか素敵な表現。じゃあちなみに三分の二だと小二時間?」

「それは言わないんだなぁ」


 やべ、アカと話してる感覚でとか言うせいでうっかり日本語を口走ったじゃないか。……うまく誤魔化せたみたいだしまあいいか。ウイに適当に日本の言葉を教えながらもヒイロは周囲を警戒する。


 よし、自分達の他に人は居なさそうだ。


「じゃあ身体と服を洗おうか」

「どうやって?」

「幸い先客は居ないし、川岸の近くなら深さもないし。スッポンポンになって川に入っていくしかないでしょ」

「スッ……!」


 顔を真っ赤にして小さくなるウイ。ウブかよ。とはいえヒイロだって同性とはいえ他人に裸を見られるのはよく思わないが、この世界では一々そこまで気にしていられないシーンも多いのですっかり慣れてしまっている。


「石鹸は無いから川の中で身体を擦るしかないかなあ。適当な軽石でもあれば良いんだけど」


 言いながらもヒイロはさっさと川に入る。服も洗って乾かしてとか考えると日没まで時間に余裕があるわけでもない。


「冷たっ。……ちょっと温めるか」


 五メートルほど上流に火の玉を出して川に沈める。ジュウッ! と良い音を立てて川の水が沸騰するが、流れる川のほんの一部の水が沸騰したところで直ぐに周りと混じって温度が下がり、ヒイロのところに流れてくる頃にはちょうど良い塩梅になっているというわけだ……いや、ちょっと熱すぎるかも?


「ちょっと火力を落として……よし、こんなもんだな。ウイ、さっさと来なよ」

「はわわわわっ、こ、こんなところで裸になんて……」

「誰も居ないから平気だよ」

「ヒイロがいるじゃないっ!」

「面倒だなぁ。じゃあ服は着たままでいいんじゃない? それだと汚れが落ちないかもしれないけど」


 ヒイロはさっさと服を脱いでパンツ一丁になるとそのまま川の中で服をゴシゴシと擦った。おお、ドス黒い汚れが面白いように川を流れていく。こりゃ臭いと言われるわけだ。


「パンツも洗おうかな」


 むしろ臭いならこっちが本丸ですらある。手早く服を洗い終えて顔をあげると、ウイはまだ服を着たまま川岸で固まっていた。


「……洗わないの?」

「あ、洗うわよっ」


 ウイも意を決したように川に入る。


「あ、あったかい……」

「私が温めてるから。場所によって湯加減が違うからそこは自分でちょうどいい場所を探してね」


 ウイは頷くと、チャプチャプと水をかき分けて熱すぎず冷たすぎずな場所を見つけてそこで肩まで川に浸かった。


「うっかり流されないでね」

「そんなドジじゃないわ……ねぇヒイロ、あっち向いてて」

「いや、見てないと何かあった時動けないんだけど」

「何かあったら呼ぶから!」


 頑ななウイに、ヒイロは諦めて振り返った。まあここは見通しも良いし大丈夫だろう。衣擦れの音がして、ウイが服を脱いだのが分かった。


「うわぁ……こんなに汚いもの着てたの……?」


 ですよね。我ながらドン引きする汚さだよね。遠征で服が汚れる事はこれまでもあったけど、汚れ具合は過去一だったもん。うんうんと頷きながらヒイロは手元にも火を起こして服を乾かす。直火で服を乾かすのは一歩間違えると焦がしちゃうし、そうでなくても服を傷めて寿命を縮めるのでこれは緊急措置である。


「えっと、貴女の服の次で構わないからこれも乾かして貰えるかしら?」


 川から上がったウイがおずおずと濡れた服を差し出してくる。ヒイロは頷いて服を受け取り代わりに乾いたばかりの自分の服を手渡した。


「え、これって?」

「ウイの服って貴族しか着ないような簡易ドレスでしょ。代わりにこっちを着た方がいいと思って」

「ヒイロはどうするの?」

「私はこれで」


 昨日男から買ったマントを身体に巻き付けて腰の部分を紐で縛った。丈が長いマントだったので膝上十センチくらいまでなんとか隠すことができた。


「そ、そんな格好、はしたないわ! 脚を出しすぎよ!」

「そうだけど、平民にはこういう格好の人が居ないわけでもないし」

「そうなの……?」


 ここまで脚を出して居るのは娼婦ぐらいだが。まあウイが納得してくれたのでよしとしよう。


「ほら、準備できたならさっさと街に向かうよ。遅くなると宿に空きがなくなっちゃうかもしれないし」


 ウイが洗った服は歩きながら乾かせば良いだろう。ヒイロは立ち上がり、街に向かって歩き始めた。


「ちょっと待ってよ、私まだ服を着てないんだけど!」


 ウイは慌ててヒイロの服に袖を通すとそのあとを追うのであった。

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