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双焔の魔女の旅路  作者: かおぴこ
第12章 それぞれの道中
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第158話 ヒイロと野営する冒険者達

 街道を歩くことおよそ半日、ぼちぼち今日の野営地を探さないとなとヒイロが思い始めた頃。


「ウイ様、止まってください」

「どうしたの?」

「人の気配です。あっちの岩陰から」


 そう言って街道から少し外れた場所にある岩を指差す。


「旅人かしら?」

「どうでしょう。盗賊かもしれません」


 このまま無視して進んでも良いが、相手が悪者だった場合は後ろから襲われる可能性もある。安全のためには確認しておいたほうが良いだろう。ウイユベールを庇えるように構えつつ、岩の方へ向かう。


「おう、アンタ達もここで野宿かい?」


 岩の向こうにいたのは三人組の男達であった。


「……先客が居たなら諦めるわ」

「別に構わねぇよ。嬢ちゃん達みたいな美人なら尚更な」


 そう言って手招きする髭の男。あまり頑なに固辞しても相手の機嫌を損なうかもしれない。……面倒臭え事になったな、ヒイロは感情を表に出さないように気を付けつつ男達の方へ向かった。


◇ ◇ ◇


「女二人でこんなところにいるなんて、訳ありだろう」

「それなりに」

「ははっ、それなりと来たか」


 焚き火に囲みながら男達と話をする。彼らは温かいスープのようなものを飲んでいるが、ヒイロとウイユベールはお手製の燻製肉だけだ。


 男達はまあまあ紳士だった。というより、普通は冒険者同士が街の外で出会ったら最低限の協力はし合うものである。街道ひとつ歩くにも人数が多いほうが魔物や盗賊などからの奇襲を受けづらいので獲物が被っていないなら目的地まで同行することも珍しく無いし、野営時の見張りだって人数が多いに越したことは無い。ヒイロにとってはとても珍しい状況だが、相手の男達からすればよくある事なのであった。


 なぜ、ヒイロにこういった経験がないのか。それは――本人達にその自覚は無いが――アカとヒイロが同業者に対して非常に喧嘩っ早いからである。


 女二人という珍しさもあるが何よりその容姿から、アカとヒイロは同業者に舐められやすい……と、本人達は思っている。冒険者を始めた頃に碌でもない奴らと出会った事もあるように(※)二人に下卑た視線を向ける者も少なくないが、それを警戒するあまりやや過剰に強気な態度で振る舞う事も多い。

(※第3章 第32話)


 だがそもそもの話、冒険者など基本的に品のない人種である。アカとヒイロが相手で無くて女と見ればセクハラをする、そんな輩が大半なのだ。セクハラオヤジの扱いに手慣れていれば「はいはい」と歯牙にも掛けず受け流すことが出来る、そんな下品なジョークに対してだって毎回敵意を返しているようでは一期一会の協力関係など結ぶべくも無いというわけだ。


 もちろんそれが間違っているというわけでは無い。こんな治安の悪い世界では用心しすぎるということは無いのだから。


 今回は、ウイユベールが居ることから出来るだけ争いを避けたいというヒイロの意図と――川に落ちたあと五日間も道なき道を歩き続けたため――服も靴も真っ黒に汚れた見るからに訳ありな二人組の女に男達が警戒して下ネタを言う気すら起こらなかったという事実がたまたま噛み合っただけである。


「アンタら、街に向かってるのか?」

「そうだけど、ここから最寄りの街までどれくらいかかるかしら」

「日が登ってから街道をまっすぐ行けば暮れる前には着くだろうさ。そんな臭い服で門を通してもらえればだけどな」

「臭い?」

「正直、ここまで臭ってくる」


 男は顔を顰めて鼻をつまんで見せる。ヒイロは隣のウイユベールに顔を近づけてクンクンと臭いを嗅いだ。


「あー……、うん。まあ……」


 ノーコメント。だが顔に出てしまったのか、不機嫌な顔をしたウイユベールにバシンと肩を叩かれてしまった。

 

「街の東に川があるからそこで簡単にでも汚れを落とさないと本気で街に入れねぇぞ、それ」

「……わかった。忠告ありがとう」


 襲われない理由が臭いというのは年頃の女の子として思うところがあるが、結果オーライだと割り切ることにする。


◇ ◇ ◇


 男達は交代で見張りをするようだが、こちらはヒイロが朝までの見張りを買って出た。男達を疑っているわけでは無いが、それでももしもの時に咄嗟に動けたほうが良いと言う判断だ。


 パチパチと鳴る焚き火を挟んで、一応臭いに考慮して風下側に座るヒイロ。


「そっちの嬢ちゃんはどこかの貴族サマかい?」


 見張りをしていた男が話しかけてきた。


「詮索はしないほうがお互いのためだと思うけど」

「そうだけどな。別に深入りするつもりも無いから安心しな。嬢ちゃんの服は汚れちゃいるが元は質のいい外出用の簡易ドレスだろ、さっきも聞いたがこんなところでボロボロの服を着た貴族を連れて歩いていたら誰だって訳ありだろうと考えるさ」

「まあ、確かに」

「余計なお世話かも知れねえが、お忍びの旅を続けるつもりならもうちょっと嬢ちゃんの服装や振る舞いにも気を遣ったほうがいい。それこそメシの食い方ひとつにもお上品さが出ているようじゃ、めざといヤツはピンとくるもんだ」

「なるほどね……」


 ヒイロは隣で眠るウイユベールを見た。襲撃前の馬車の中で優雅に振る舞っていた時とは比べるべくも無いが、確かにこうして寝顔ひとつとっても気品がある気がする。


 王都へ着くまで出来るだけトラブルを避けたいヒイロとしてはウイユベールが貴族だと露見するのは出来るだけ避けたい。


 仮に他の貴族に見つかった場合「なぜ一介の冒険者がたった一人で貴族の娘を連れ歩いているのか」と言われたら弁解はかなり大変だし仮にここまでの経緯を説明して納得してもらえても「じゃあ代わりに貴族である自分達がウイユベール嬢を保護しよう」と言われてしまうかもしれない。彼女達の命を狙ったものの正体が全くの不明な現時点では、味方の保証がない誰かにウイユベールを託すわけにはいかない。


 では見つけたのが貴族では無く平民なら? 多くものは、恐れ多くて貴族に下手なちょっかいをかけようとはしないだろう。だが生活に困った者、貴族に悪き感情を持つ者、そして目先の利益のために破滅的な行動を取れる者などは、例え命をベットすることになってでもウイユベールに何かしら危害を加えてくるかもしれない。誰が、どんな場面で手を出してくるか全く予想がつかないので護衛側としてはやりづらいことこの上ないだろう。


 つまり誰にバレても面倒なことにしかならないというわけだ。


 うん、改めて考えてみてもやっぱりウイ様には平民のふりをしてもらおう。ヒイロはそう結論づけた。


「参考にさせて貰うわ。……ところでどうしてわざわざ忠告してくれるのか、聞いてもいい?」


 ヒイロが訊ねると男はハッと笑った。


「何十年も冒険者をやってると鼻が効くようになるんだ」

「あー……それはゴメンナサイ」

 

 いつの間にか風向きが変わったのかな? ヒイロは座る場所を少しだけ移動した。


「そっちの臭いじゃねえよ。まあそっちもヒデェけどな。この稼業を続けていると自然と強いヤツ、やべぇヤツってのは分かるようになる」


 男はずいっとヒイロを指差す。


「アンタは強くてやべぇヤツだ。それもとびきりのな」

「失礼な」


 ガチンコで戦った場合の強さはまあ、真面目に修行した甲斐もあってそこらの冒険者には負けないだろうし百歩譲って認めよう。だけど「やばいヤツ」ってのは年頃の女の子に対して失礼じゃないか?


 ヒイロの抗議に男は苦笑いした。


「アンタ、目的のためなら他の何を犠牲にしても構わないってタイプだろ? 覚悟がキマってるとも言えるな。そういう目をしてるやつは基本的にやばいんだよ」

「そんな自覚は無いけど……まあいいや。それで?」

「これは長年生きてきた俺の持論だが、そういうヤツとは関わらないのがベストだな。それでもうっかり関わっちまったら、恩着せがましくなら無い程度に恩を売っておく。丁度こんな風にな」

「よく分からないけど、じゃあ私はあなた達に感謝を伝えておけばいいってこと?」

「そうだな。この程度のアドバイスに対してならそれで十分さ。あとはそっちの嬢ちゃんの服を隠すための外套(マント)が欲しいなら心付け程度は貰えるとありがたいんだが」

「なんだ、ちゃっかりしてるじゃん」


 ヒイロは笑いながら懐から財布を取り出すと銀貨を五枚、男に手渡す。毎度あり、という言葉と共に受け取ったマントを眠っているウイユベールにかけてあげた。

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