第145話 古代遺跡の謎(未解決)
―後日。
また二人でギルドを訪れた二人にロックが声を掛けた。
「嬢ちゃん達。ちょっと時間、あるか?」
「あ、はい」
打ち合わせスペースへ移動すると、ロックは頭を下げる。
「この間は悪かったな。キマグレブルーの救援、本当なら俺が行くべきだったが生憎遠征に出ていたんだ。昨日帰ってきて話を聞いたんだ」
「え? ああ、別にロックさんに謝れるようなことは……私達は無事に帰ってこれましたし」
「二次被害が出なかったのは幸いだった。それに、十層まで進んだんだって?」
ロックの言葉にアカの顔が曇る。十層まで進んだことはギルドにしか話していない――ギルドへは報告義務があるまて遺跡の中であった事は偽りなく伝えている――ので、職員がロックへ漏らしたという事だろうか。
そんなアカの表情に気付いたロックは違う違うと手を振った。
「セイカに聞いたんだよ。俺が遺跡調査に連れて行かなければ……嬢ちゃん達と地図の比較をしたりして焚き付けなければ、あいつらはあそこに通う事も無かっただろし、仲間を喪うこともなかっただろうからな」
「セイカさん、なんて?」
「悪いのは未熟だった自分たちだとさ。嬢ちゃん達に張り合おうとしたのがそもそもの間違いだったって言ってたぞ」
セイカは遺跡からの脱出時にアカとヒイロの規格外の強さを間近で見ることとなった。足を折っていて歩けなかったため、アカがおんぶして全速力で十層を駆け上がったのだが、道中で幽霊が現れても事も無げに炎で祓う様を見て対抗意識を持っていた事すら烏滸がましかったと思ってしまった。また、そのせいでシタタカを死なせた事を深く後悔した。
「セイカさん……と、ノシキさん。冒険者、続けますかね?」
「どうだろうな。ギルドに金貨三枚の借金があるから辞めたくてもすぐに辞めることは出来ないだろう。それを返し終わったあとどうなるかは、それまでにあいつらが立ち直れているかどうかってところだ」
「そうですか……」
「気にしてるのか?」
「まあ、それなりに」
冒険者とは常に命懸けの仕事だ。だから身も蓋もない言い方をすれば今回のような展開は「よくあること」だし、仮にアカとヒイロが救援に行かなかったらシタタカもセイカも今頃十層でリビングデッドだったろうし、誰も救援に向かってくれないことに痺れを切らしたノシキが単身助けに向かって結果的に命を落とした可能性もある。
結果だけを見ればセイカとノシキを救い、シタタカをきちんと埋葬できたというのは十分に誇れる成果だし、ギルド側は最高クラスの評価を双焔の二人につけている。
とはいえシタタカについては仕方なかったねと割り切れるほど非情でも無い。ここからはセイカ達の問題だしアカとヒイロができる事なんてないのだから。
「またアイツらについては俺が気にかけておくよ。期待の若手にこんなところで潰れてもらったら困るしな」
二人になってもまだ期待の若手の称号は継続らしい。ロックには是非ともセイカ達をフォローしてもらって、彼女達が冒険者として大成する一助となってほしいものだ。
それが、シタタカの最後の願いでもあったのだから。
◇ ◇ ◇
「結局、あの遺跡はなんだったんだろうね」
「ギルドも積極的に調査するつもりは無さそうだし、分からないかもねぇ……」
セイカと再開した部屋にあったコンピュータらしきものの事は一応報告したが、そもそもコンピュータを知らない相手にそれを説明するのが難しい。例えばアカとヒイロの間であったら「SF映画で見る大きなコンピュータみたいなのがあったよ」といって簡単な図を描けば言いたい事はほとんど伝わるが、前提の知識がない相手になんと言っていいか分からなかった。下手な事を言って二人が落ち人であると露見するのも好ましくない。
結局、壁に怪しいボタンのようなものが沢山あったとしか伝えられず、ギルド側も罠が作動するスイッチかもしれなかったから触れずに正解だったのでは、と答えた程度で終わってしまったのである。
これまで百年以上まともに調査されてこなかった遺跡を、改めて調査しようと思わせるような報告にはならなかったのは明らかである。
「かと言って自分たちでもう一回行く気にもならないよね」
「ならないならない。下手に操作して閉じ込められたら嫌だもん」
ナナミにも遺跡の地下であったこと、見たものを伝えたものの、特に知っている事はないそうだ。ただ「そのコンピュータが魔道具ってことなら魔道国家へ行けば何か情報はあるかもね」とのことだ。
「アカはどう思う?」
「推測っていうか、昔読んだSF小説とかだと科学が発達した文明があったけどなんらかの理由で滅びてしまって、今の魔法を使う文化が発展した……とかのパターンかなぁ」
「なるほどね。よくあるパターンだ」
「ヒイロ先生の意見は?」
「フム……アカが言った以外だと、実は偉いヒトとか一部の人達は科学をちゃっかり利用してるとかもあり得るかな。ただ庶民には解放してないってだけで」
「あー、そういうパターンもありえるわね」
「でしょ?」
その後も色々と思いついた事を話すが、二人だけで話したところで何か答えに辿り着くわけもない。結局のところある程度の推測をしたら納得して放置するしかない。
「あれを放置して困ることがあるとしたら、もしもあのコンピュータが私達を日本に帰すための装置だった場合ってぐらいだしね」
そんな事はあり得ないだろうとジョークのつもりで言ったアカだが、ヒイロは急に真剣な顔をする。
「な、なるほど……その可能性もあったね。さすがはアカ先生! じゃあさっそくもう一度行って日本に帰ろうか!」
「行かねえよ」
ただの悪ノリかい。真面目な顔して考え込むから何かと思っちゃったじゃない。
「えー、じゃああれが本当に帰還装置だったらどうするのさ?」
「そうねぇ。魔導国家に行っても空振ったらその時に考えようか」
「まあそんなるか。科学より魔法の方が可能性は高そうだしね」
アカの提案にヒイロも納得する。……アカとしてはもしも魔導国家にまでいって日本に帰る手掛かりが何もなかった場合はいよいよ本格的に手詰まりになるので、そうなったらヤケクソであのコンピュータを適当にいじくり回すしかないなという意味合いでの発言であったのだが、ヒイロはそこまで悲観的には捉えては無いようだ。
実は最近、少し怖いと思うことがある。師匠に出会って魔導国家への到着が少し現実味を帯びてきたことで「もしも魔導国家にも日本へ帰る手掛かりが無かったら」という不安がよぎることがある。何年もかけて魔導国家へ行って、そこでも日本へ帰る方法が見つからなかったら……。
アカは隣を歩くヒイロを見る。ヒイロはいつもと変わらぬ様子で歩いていたが、アカの視線に気付くと小首を傾げて手を出した。
「手、繋ぐ?」
そういう事じゃないんだけどなぁ。そう思いつつもアカは黙ってその手を取った。自分ばかり不安になっていても仕方が無い……それでも今は進むしかないのだから。
いつもの?微妙に後味の悪い感じで第10章は終了となります。現在執筆中の11章を書く中で「あ、これひとつエピソード要るわ」と急遽追加したのがこの章でしたが、上手く次に繋がるエピソードになったと思います笑。
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