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双焔の魔女の旅路  作者: かおぴこ
第10章 古代遺跡の謎
156/222

第144話 間に合った者。間に合わなかった者。

 致死量だ。


 シタタカが吐いた血を見て、アカはそう直感した。リビングデッドとなっていた時間が長すぎたのだろう、彼の臓器は既に限界を迎えていたのだ。


 それでもここまで意識を保ってきたのは、セイカを無事を願って故だろうか。


「シタタカ! ねぇ、大丈夫!?」


 必死でシタタカを揺するセイカに、何と言って声を掛ければ良いのか……アカもヒイロも動けない。すると、シタタカはプルプルと震えながら手を持ち上げてセイカに応えた。


「あ、ああ……おれは、大丈夫、だ……」

「し、シタタカ!」


 セイカはバッとシタタカの手をとった。


「な、何よ、心配させないでよっ!」

「す、すまない……、ちょっと、起こしてくれる、か……?」


 セイカは頷くと、シタタカの身体を起こした。シタタカは苦しげに呻くと壁に寄りかかり、ふーっと息を吐いた。


「セイカ……ちょっといいか……?」

「な、なによ……?」


 シタタカは顔を上げると、真っ直ぐにセイカを見つめる。


「俺たち、長い付き合いだよな……」

「え? ええ、そうね」

「同じ村で生まれて……俺とセイカと、ノシキの三人でガキの頃からずっと一緒で……」


「セイカは、さ……大人たちいう事も聞かずに、いつも無茶ばっかりしやがって……」


「セイカが何かするたびに、俺と、ノシキまで、怒られてさ……」


「ノシキは、すぐ泣くし、お前は、不貞腐れるし……俺がいつもお前たちを慰めてな……」


「俺はお前たちよりひとつ、年上だったから……周りからも兄貴扱いされて、な……大変だったよ……」

「わ、悪かったわね!」


 思わず言い返したセイカを、シタタカは優しい目で見る。


「正直、悪い気はして無かったよ……。面倒では、あったが、な……」

「えっ?」


「最初は、義務感だった、かな……大人に言われて仕方なく、だったよ……」


「だけど、手のかかる弟と妹の世話は、俺の、生きがいでも、あったんだ……」


「だからさ……セイカが冒険者になりたいって言って……俺とノシキを誘ってくれたとき、俺は面倒だって言ったけど、本当は嬉しかった……」


「嬉しかったんだ……ゴホッ! ゴホォッ!!」


 また大量の血を吐き出すシタタカ。


「もういいから! 話は後で聞くから、今は身体を休めて! ね、ねえ、あなたたち、薬を持っていない? 回復魔法は使えない!?」


 セイカがシタタカを庇いつつ、縋る様な目でアカとヒイロに訊ねる。アカは首を小さく振るのが精一杯だった。二人は回復魔法は使えないし、仮に使えたとしても今のシタタカを癒すことは出来ないだろう。回復魔法はヒトが持つ回復力を促進する効果しかないのだから。


 自分たちの怪我であれば、魔力を身体に纏わせる事で限界を超えた治癒を期待できるが――事実、ヒイロは心臓が止まった状態から蘇生したことすらある(※)――これは他人に作用させることは出来ない。ナナミとの訓練で実証済みだ。

(※第8章 第112話)


「セイカ、いいんだ……。今は、話させて、くれ」


 シタタカは引き続き、今際の言葉を紡ぐ。


「シタタカ!」

「セイカ……俺は、楽しかった。お前たちと一緒いられて良かったと、心の底から、思っている……」


「だから、ひとつだけ、言っておきたい、ことが、ある……」


 ゴホッ、もう吐ける血もほとんど残っていない。セイカは必死にシタタカの背中をさすりながら、次の言葉を待つ。


「俺は、少し休ませて貰う事になる、が……、こうなったことに、後悔はない……」


「本音を言えば、お前たちともっと一緒に、冒険者を続けて……」


「世界一の、冒険者に、なり、たかった……」


「お前と、一緒に、旅をした、かった……」

 

「が……、まあ、仕方、ねぇ……その役は、ノシキに譲ってやる……」


 既にシタタカの言葉は掠れ、蚊の鳴くような小さなものになっている。セイカは両目に涙を浮かべながら、それでも一言も聞き漏らすまいとシタタカの言葉に意識を集中している。


「セイカ……、立ち止まるな、よ……」


「お前は、まだまだ、どこまでも行ける……」


「俺の死を、理由に……」


「立ち止まったり、するんじや……ねぇぞ……」


「…………」


「…………」


 それっきり、シタタカは声を発さなくなった。まるで眠る様に、静かに息を引き取った。


「シタタカ……?」


 セイカは、シタタカの身体を優しく揺する。ねぇ、起きてよ、と言いながら彼を揺すり続けた。


「お願い、起きてよぉ……置いていかないで……、シタタカ……。お、お兄ちゃん……っ! おにいちゃああああんっ!!」


 セイカはそのままシタタカにしがみつくとワンワンと声をあげて泣き喚いた。


 いつまでも、いつまでも。

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