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双焔の魔女の旅路  作者: かおぴこ
第10章 古代遺跡の謎
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第142話 リビングデッド

「ヒイロ、後ろ!」

「わわ、ファイアっ!」


 幽霊が音もなく忍び寄って危うく取り憑かれそうになる。アカの警告を受けたヒイロがとりあえず周囲に炎をぶっ放すと、迫っていた幽霊はその場で霧散した。


「ふぅ、あぶないあぶない……」

「やっぱり聖水飲んだ方がいいかしら」

「でもあと一本しかないし、半分こしてちゃんと効果があるかわからないし万が一取り憑かれた時の対処用に残しておいた方がいいと思うんだよね」


 遺跡の探索を始めて既に数時間。最初に飲んだ聖水は効果が切れたのか、幽霊共はアカとヒイロに気付くと取り憑くために積極的に接触を試みてくる。


 取り憑かれるというのがどのようなプロセスなのかは分からない。身体に触れられたら即アウトなのか、多少は抵抗する猶予があるのか……まあこんなところで試す気にもならないので二人は片っ端から炎で祓い続けているのだが、幽霊は薄い壁や扉なら通り抜けてくる性質があるので時折先程のように危ないシーンもある。


 アカとヒイロの炎はお互いを傷付けない――というか二人とも炎で火傷をしない体質である――ため、いざとなれば取り憑かれた相手に炎を撃ち込むことで除霊できるような気もする。聖水も一つ残っていることを考えればもしものときの保険は十分にある状況だが、取り憑かれるということ自体が怖いのでここまでかなり慎重に進んで来ている。


◇ ◇ ◇

 

「この層にも居なかったわね」

「まあ、声かけに反応がなかったってだけだけど」


 セイカとシタタカの二人がが既に生ける屍(リビングデッド)になっていた場合は、アカ達の声に応えることが出来ないのでどうしようもない。とにかく今は二人が無事であることを祈って降り続けるのであった。


「次で十層よね」

「うん。だいぶ深いところまで降りてきたね」


 これまでこの遺跡は五層までしか確認されていなかった。そこが最下層だといいなというアカの期待は毎層裏切られ続け、気付けば到達フロアを二倍も更新してしまった。


「次こそ最下層だといいんだけど」

「最下層じゃなくても二人が発見出来ればそっちがベストだけどね」


 とはいえ、四層以降は大体各層の踏破に一時間ほど時間をかけているので、九層の捜索が終わったここまででおよそ六時間。セイカとシタタカが聖水を無駄なく服用していたとしてもそろそろ最後の一本の効果がいつ切れてもおかしくない頃だ。


「……急ぎましょう」


 十層に降り立ったアカとヒイロは、一縷の望みにかけて駆け出した。


 ……。


 …………。


 ………………。


「セイカさーん! シタタカさーん!」


 横穴を見つけたらとりあえず大声で呼びかけてみる。足元に罠がないか確認しつつ少しだけ奥に入ってみる事もあるが、基本的には何回か呼びかけて反応が無ければその横穴をしっかりと調べたりはせずにメインストリートを先に進むことにしている。


 ここまで進んで来たがこの遺跡は基本的に緩くカーブした広い道――メインストリートがありその所々に幅が狭い横穴があるという構造であった。四層までの地図を見る限りでは横穴の先は行き止まりだったり小さな部屋があったり、稀に分岐していくつかの部屋に分かれていたりする事もあるが、基本的には行き止まりとなっている。

 構造自体はとても単純で、アカとヒイロはここ数層、マッピングを省略している。帰るだけならメインストリートを逆方向に突っ走れば良いだけだからだ。


 しかしこのまま最下層のメインストリートの終わりに辿り着いてしまったとしたら、これまで声だけ掛けて通り過ぎてきた無数の横道全て、奥まで確認しなければならない。そうなった場合、ここまでの何倍もの時間がかかるであろう事は想像に難くない。それはセイカとシタタカの生存が絶望的になるという意味なので、そうならない事を祈りつつ必死で声を掛け続けた。


「この道もハズレか……」

「次はそっち、二十メートルくらい先。反対側に道があるね」

「よし、今度こそ」


 次の横道の前へ移動してまた声を掛ける。


「セイカさん、シタタカさーんっ! いませんかー!?」


 ……しばらく待つが返事はない。


「ここもダメか……」

「待って! 何か聞こえるかも」

「え?」


 ヒイロは目を閉じ耳の後ろに手を当てて、意識を集中している。通路の先の微かな音を拾おうと音を拾おうとしているのだ。アカも同じ事をすると、幽霊が現れた時に対処できないのでここはヒイロに任せることにする。


「うーん……なんか呻き声っぽい音が聞こえた気もしたんだけど、やっぱり気のせいかもしれないなぁ」

「とりあえずこの道、進んでみましょうか」

「何もなかったらごめんね」


 慎重に罠を確認して、通路に入る。通路はギリギリ二人が並んで歩ける程度の広さがあったが敢えて少し離れて歩き幽霊の奇襲を警戒する。そのまま数十メートル進んだところで通路は大きくカーブしていた。


「そこ、曲り角の先に何かいる」


 先行するヒイロが小さく警告した。アカも慎重に先を窺う。


 ヴゥゥァ……。


 ここまでくれば低く唸るような声がアカにも聞こえる。嫌な予感がしつつ、明かりを通路の先へ照らしたヒイロ。覚悟はしていたが目の当たりにした現実に思わず息を呑んだ。


「シタタカさん……」


 生気の無い虚な目で歩くシタタカ。その姿は、それこそヒイロが想像していたパニックホラーのゾンビのようで、直感的に「これが幽霊に身体を乗っ取られたリビングデッドだな」と理解する事ができた。


「ヒイロ!」


 ヴォアア!


 こちらに気づいた瞬間、両手を広げて掴みかかろうとしてくるリビングデッド。思ったよりは速いけれど、流石にこれに捕まるようなやわな鍛え方はしていない。ヒイロは冷静に攻撃を見極めると、すれ違いざまに足を払ってリビングデッドとなったシタタカを転ばせた。


「アカ、聖水は?」

「はい!」


 アカは懐から最後の一本の聖水を取り出すと蓋を開けて倒れたままのシタタカの口に突っ込む。そのままゴロリと身体を上に向けると、瓶の中身が彼の喉に流れ込んだ。


 これで、シタタカに憑依している幽霊が浄化される筈だが……?


 一旦離れて様子を見る。シタタカの身体はガタガタと痙攣するように震え出し、その身体から弾かれるように一体の幽霊が飛び出してきた。


「きゃっ!?」


 アカは向かってくる幽霊に反射的にメイスを振ってしまった。エンチャントのかかっていないメイスでは幽霊にダメージを与える事はできない。アカの攻撃をするりと抜けた幽霊はそのままアカに重なった。


「アカっ!」


 ヒイロが慌ててアカに駆け寄る。乗っ取られたらコレを撃ち込むしか無いと、その手には既に炎を纏わせている。しかしそんな心配は杞憂に終わる。ヒイロが炎を撃つ前に、幽霊がアカの身体から飛び出したのである。


「この野郎!」


 よくもアカに! 怒りを込めて手元の炎を幽霊に放つと、幽霊はそのまま音も無く消え去った。


「アカ、大丈夫?」

「う、うん……ちょっとゾワっとしただけ」


 アカは頭を振って悪寒を振り払う。意識の底を冷たい手で触られたような気持ち悪さが残っている。とはいえ身体や意識が乗っ取られたわけでは無く、ただひたすら気持ち悪かっただけである。


「アカが憑依されなくて良かったよ」

「心配かけてごめんね。……リビングデッドに聖水を飲ませると幽霊は飛び出してくるのか、次からは気を付けましょう」

「そうだね。メイスじゃなくて炎を出さないと」

「う……見てたのね」


 これまでの経験で魔物が迫ってきたときにはメイスを振る癖がついていたので、先程もそれが出てしまった。


「身体に覚えさせた動きが出ちゃった感じだねえ」

「自分にそんな癖がついてるなんて今まで気付かなかったわ」

「咄嗟に反応できるのは悪い事じゃ無いと思うけど……」


 ヒイロはフォローしてくれるが、これが致命傷になる可能性もあったんだから十分に悪癖である。アカは手を広げて炎を撃ち出す仕草を数回、素振りのようにおこなって自分の動きを確認する。


「よし、次からはちゃんと炎を出すように気を付けよう」


 反省は次に活かす。この先も生きていくために、油断と慢心は禁物だと改めて自分に言い聞かせた。

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