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双焔の魔女の旅路  作者: かおぴこ
第10章 古代遺跡の謎
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第140話 セイカとシタタカ

「これが最後か……」


 セイカは懐から小瓶を取り出す。そこにはこの古代遺跡で彼女が生き延びるための最後の生命線である聖水が満たされている。おそらく今飲んでいる聖水の効果はほどなく切れる。そうしたらこれを飲んで……。


「その効果が尽きたら? 私も()()()()しかないのかしら」


 泣きそうになりながら、閉じこもった部屋の扉を見る。その向こうからはガリガリと絶え間なく音が聞こえる。それはリビングデッドと化したシタタカが、この場の唯一の生物であるセイカを求めて重い鉄の扉を掻き続ける音であった。


 ……。


 …………。


 ………………。


 落とし穴――正確には坂であるが――によって一気に下層まで落とされてしまったセイカとシタタカ。セイカは落ちた時と衝撃で足を痛めてしまった。


「……痛っ!」

「セイカ、大丈夫か?」

「分からない。折れてるかも……」

「歩くのは無理そうだな」


 セイカを背負って歩くぐらいは出来るが、その前に周囲の安全を確認しなければ。そう考えたシタタカは、灯りを持って周囲を見回した。


 幸いと言うべきか、即座に二人を害するようなものは近くに存在しなかった。二人が落とされた先はやや広めの部屋のような形になっている。上には二人が落ちてきた穴があるが、ここを登るのもそこからあの急な坂を這い上がっていくのも難しそうだ。


「となると、別の出口を探さないとな……」


 シタタカは部屋を見回す。ある壁には一面に変わった祭壇のようなものが一面においてある。その反対側の壁の中央付近に部屋からの出口があった。残り2つの壁は何も無いただの壁のようだ。シタタカは唯一の出口に向けて歩を進める。


「シタタカ!?」

「ちょっと様子を見てくるだけだ。だいぶ落とされたから、ノシキもビビって降りてこれないだろうしな」


 あえてハハハと笑ってみせる。もちろん、セイカを不安にさせないための空元気である。


 と、そこに天井の穴からドサリと荷物が落ちてきた。穴の真下にいたセイカが慌ててキャッチする。


「きゃあっ」

「ナイスキャッチ! ……ノシキのやつが落としてきたんだな。気が利くんだか利かないんだか、危うくセイカの頭に激突するところだったぞ」

「でも、物資が来たのは助かったわね」

「そうだな。じゃああとは脱出ルートの確保だけか。磨いたマッピング技術が早速役に立ちそうだ」


 そう言って改めて出口へ向かうシタタカ。彼が部屋の出口から外の通路に出て数歩歩くと、


 コ゚トンッ!


「なっ!?」

 

 慌てて後ろを振り返るシタタカ。彼の眼の前には、冷たい鉄の扉が立ちはだかった。


「ちくしょう! トラップか!」


 慌てて扉に駆け寄って手を掛けるが、シタタカの力ではビクともしない。


「くそっ! セイカ、大丈夫か!?」


― シタタカ!? どうしたの!?


「急に扉が閉まりやがった! 俺一人の力じゃ開けられない……一緒に押せるか?」


― わかった、やってみる。


「行くぞ。……せーのっ!」


 だが二人で必死に押し込んでも壁は全く動かなかった。

 

「駄目か……仕方ない、開けるための道具か何かを探してみる」


― 気を付けてね。


「ああ、ちょっとだけそこで待っててくれ」


 シタタカは扉を開くことを諦めると、改めて通路に振り返る。そんな彼の目に、身体が薄っすらと透けた人間がスーッと滑るように自分に向かってくる光景が映った。


 しまった、遺跡の下層にいる幽霊(ゴースト)かつ!


 慌てて手荷物から聖水を探すが、もともと保険のつもりでしかなかったため、カバンの一番奥に押し込んでいた。やっと聖水を取り出したときには幽霊は眼の前に迫っていた。


「セイカ、気を付けろ! 幽霊(ゴースト)がいるぞっ!」


 ギリギリで警告を発したシタタカ。しかし彼の意識はそこで途切れてしまった。


 …………。

 

 シタタカの忠告を聞いて、セイカも慌てて聖水を取り出して口にした。しばらくすると、重い扉の向こうからスーッと一体の幽霊が部屋に入ってきた。


 幽霊種は実体を持たないため、扉や壁を通り抜ける事ができると聞いていたが、実際目の当たりにすると恐ろしい光景だった。いま自分が背にしている壁が、安全を保証するものではないという事実を突きつけられたのだから。


 幽霊はそのまま真っすぐにセイカに向かってくる。だが、彼女から一歩離れたところで止まると、怯んだような動作をしてそれ以上近づいて来なかった。


「せ、聖水を飲んだからかしら……」


 シタタカのお陰で幽霊が襲ってくる前に聖水を飲むことができた。だが、聖水の効果が尽きたらその瞬間に一巻の終わりである。


「これ、幽霊に直接かけても効くのよね?」


 もう一本の聖水を取り出して蓋を開ける。そのまま一振りして幽霊にかけると、幽霊は苦しげに悶える動作をして、そのまま入ってきた扉の方へ向かい、外へ逃げていった。


「やったわ!」


 聖水のビンを見ると、あと二、三体は撃退できそうだ。セイカは扉に近づき外にいるシタタカに声を掛ける。


「シタタカ、私は大丈夫よっ! 一体、撃退したわ!」


 だが扉の外からシタタカの声はしない。


「シタタカ……? ちょっと、冗談はやめてよ……」


 そんなセイカの耳に入ったのは、ヴァァ……という声にならないような声。だが、それは確かに聞き慣れた幼馴染のものであった。


「嘘、嘘よ、そんな……」


 思わず扉から後ずさる。するとそこから更に数体の幽霊が部屋の中に入ってきた。


「い、いやぁっ!」


 慌ててビンに残った聖水を振りかける。聖水がかかった幽霊は苦しそうに悶えるが、しかしすぐに体を起こしてまた向かってくる。


「き、効いてないじゃないっ!?」


 効いていないわけでは無い。現に、降りかかれば悶え苦しむし、服用しているセイカには憑依できずにいる。だが所詮は聖水の効果などその程度のもので、幽霊を祓えるだけの強さはないのである。


 セイカはズリズリと荷物のところまで這いずると、中身を改める。ノシキが落としてくれた荷物の中には、水や食料の他に聖水がもう二本、入っていた。


 もはやセイカに出来ることいえば、助けが来るまでこの場でひたすら耐えることだけであった。  


 ……。


 …………。


 ………………。



 幽霊達が少しずつセイカと距離を縮め始めた。徐々に彼女の聖水の効果が弱まっているのだ。幽霊たちは本能的に生きているものに取り憑こうとするため、聖水の効果が弱まってくると徐々に距離を詰めてくる。お陰で無駄なく追加の聖水を飲むことができるのだが、それがどうしたという話である。多少効率的に聖水を使うことができたところで、ほんの幾ばくか寿命が延びるだけだ。


 多少長く生きたところでどうしようもないことは分かっている。それでも生きることを諦めきれない自分に苦笑しながら、セイカは最後の聖水を口にした。

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