第134話 遺跡へ向かう
「じゃあ二人はAランクと同郷で、その誼でパーティを組んでいるってわけなのね」
「そうですね。その中で魔物の狩り方とか戦い方なんかを教わってるって感じです」
遺跡へ向かう道中で、お互いについて話すことにした双焔とキマグレ。ロックの「自分の目で見極める」という言葉を素直に受け取って、アカとヒイロについて知ろうとする態度は正直好感が持てる。中途半端に実力がある冒険者ほど他人の意見やアドバイスを素直に受け入れる事ができず、いっそ意固地になる者が多い中ではこういうタイプは珍しい。なるほど、ギルドが有望な若手として目をかけてロックに指導を依頼するだけのことはある。
「でもそれならハッキリそう言えばいいじゃない。私たちはAランクの荷物持ちなんかじゃなくて、自分達で魔物を狩ってますって」
「そもそも直接言ってきたのはセイカさんが初めてだったんですよ。まあギルドでひそひそ何か言われてるのは知ってましたけど、いちいち突っかかるものでもないかなと」
「うっ!」
アカの答えに怯むセイカ。
「あとは私たち二人だけで倒してるっていうわけでもないから、師匠に助けてもらっていうのもまあ間違ってるわけでもないんだよなぁ……って思っちゃって」
「なるほど、完全に間違ってるわけでもないから否定しづらいってことね」
うんうんと頷きつつもセイカは目の前の二人を改めて観察する。そこそこ上質なレザーの服の上から軽めの胸当てを着けており、腰にはそれぞれメイスをぶら下げている。脚にはナイフも括り付けているが、まあ装備だけ見たら脱初心者以上中堅未満といった感じだ。
だが何より二人の容姿故に、他の冒険者達は彼女達を強いと思えないのだろう。
アカもヒイロも、年齢は十五歳程度か? 成人してある程度経っている様子だからもうひとつふたつは上かもしれないが、あどけなさを残した雰囲気からはとても十二足蜘蛛や大角虎を狩れる様には思えない。
「というか、腕とか脚とか細すぎじゃない」
「はい?」
「こっちの話よ」
セイカは自身の身体を見る。女だてらに冒険者としてやっていくために、剣を振るうための訓練をかかさない彼女の身体は健康的に引き締まってこそいるが、女性らしい柔らかさを犠牲にしている。アカとヒイロの腕や脚は、それこそ町を歩く娘のそれと変わらない。
……これで本当に本人たちが言うような強さだとしたら、不公平を感じずにはいられない。
……。
…………。
………………。
よかった、なんとか敵視される事はなくなったようだ。アカはセイカと会話しながらホッとする。
実のところ、面と向かって荷物持ち呼ばわりされた事をアカはたいして気にしていない。むしろ友好的に近づいてきて娼館に売り飛ばしてくるような輩もいる(※)事を考えれば、真っ向から気に入らない部分を言ってくれるのはいっそ好感すら持てる。
(※第7章 第91話)
そんな正直者のセイカは、アカとヒイロがこの街で冒険者デビューしてからのことをあれこれと聞いてきた。アカとしては――落ち人だとバレないように出身を偽ったり、龍の力っぽいものがあったりといった部分は話せないがそれ以外については――なるべく誠実に答えたつもりである。
「まあ冒険者になるために田舎の村から出てきたってあたりは私たちと変わらないわね。二人も親の決めた許嫁と結婚するのが嫌で飛び出してきたって感じ?」
「うーん、まぁ似たようなものかな……」
「やっぱり田舎の村なんてどこも変わらないわよね。私も村の権力者のドラ息子に気に入られて村八分を恐れた親が差し出したのよ。だから幼馴染のシタタカとノシキと一緒に村を出て冒険者になるためにネクストの街まで来たってわけ。わざわざ国境沿いのネクストを選んだのは、村に近くの街だと知り合いがいるかもしれないからね」
そう言ってセイカはメンバーの男性二人、シタタカとノシキを指した。そういえば前に同行した「獅子奮迅」も同郷の幼馴染パーティだった(※)なと思い出す。わりと田舎あるあるなんだろうか。
(※第1章 第4話)
「そういえばあなたたち、なんで剣じゃなくてメイスを持ってるの? 珍しいわよね」
「剣って扱いが難しいじゃないですか。刃の部分は長いけど、力と体重を乗せないと斬れ味が発揮できないし斬りたいところに垂直に刃を当てないといけないので。その点これはわりと雑に振り回しても遠心力で威力がちゃんと出るんですよ」
そう言って愛用のメイスをポンと叩くアカ。なんだかんだ数年も使っていれば武器に愛着も湧くし、ついでに言えば剣はメンテナンスにお金がかかるから貧乏冒険者だった頃は避けていたという事情もある。
「でも剣の方が強くない?」
「うーん、魔物の頭を叩き潰せば死しぬから、剣でもメイスでも大差はないのかなって。うっかり自分を傷付けないメイスの方が私達には合ってるんですよ」
アカとヒイロが初めにメイスを武器にしたのはギタンのアドバイス(※)によるものであったけれど、結果的にはこれで良かったと思っているし今さら剣の修行をしようとは思わない。
(※第2章 第25話)
「そんなものかしらねぇ」
セイカは剣を手元でクルクルと回しながら首を捻った。
◇ ◇ ◇
「さて、到着だ」
無事に遺跡に到着した一行。入り口付近の石碑から少し奥に入ったところにある小さな祭壇の間に集まる。
「祭壇の裏に入り口って言ってませんでしたっけ?」
アカはロックに訊ねる。別に入口のようなものは無さそうだが……。
「ああ、これを動かしてやればいい。……よいしょっと!」
ロックは祭壇の裏に回り込むと、小さな穴に剣の鞘を押し込む。そのままてこの原理でグイッと祭壇を持ち上げ、開いた隙間に手を入れて祭壇を持ち上げてずらした。祭壇の下には地下に続く階段が隠されていた。
「力技で開くのかよ」
ヒイロが小さくツッコミを入れるが、アカも同意見だ。なんか魔法の力で封印されているとか、そうでなくても秘密のスイッチのようなものがあるのかなと思ったが予想を裏切られて少々ガッカリである。
「わざわざ動かすための穴があったり、一人で動かせる程度の重さだったり、なんか祭壇自体がちょうどいい蓋って感じですね」
「むかしはこの祭壇はなかったらしいからな。お前たちみたいなCランク冒険者がうっかり入って行かないためにギルドが後から作って蓋をしたらしいぞ」
「Cランクが入ると危険な遺跡なんですか?」
「かなり複雑に入り組んでる上に目印もほとんどないからな。まともに地図を作れない若造が無闇に入り込むと、脱出できずにそのまま衰弱して死ぬ事もありえるってことだ」
「魔物にやられるわけじゃないんですね」
「四層以降にゴーストが出るし、ごく稀に三層でも見かけるらしいけれど、二層までは魔物らしい魔物は出ないよ。まあ虫やネズミみたいな毒を持った小動物はいるから全く安全というわけでもないが」
魔物だけが命の危険というわけではない。現代日本ほど医療が進んでいるわけでは無いが、この世界でも変な虫や野生動物に噛まれると吐き気や熱に襲われたり最悪死ぬことがある事は十分認知されているので、それを予防する虫除けや動物避けは冒険者の必需品である。
アカとヒイロもちょっとお高めの虫除けを以前から(※)愛用している。ちょっと臭いがキツいタイプだがもうすっかり慣れてしまった。
(※第1章 第7話)
「じゃあ行こうか。中は真っ暗だから灯りは各自で持つように」
ロックの言葉に従い、灯りの魔道具を取り出した双焔とキマグレ。魔石を原料に込められた灯りの魔法が発動するタイプで、一般的にありふれたものはある。ただその分性能は千差万別だし価格もピンキリであり、アカとヒイロの持っているのは長い棒の先が灯る……丁度松明の先の部分が明るく光るタイプだし、ロックやキマグレのメンバーが持っていたのは手提げのランタンのような形状で、腰のベルトに括り付けると両手がフリーになるものだった。
各々で辺りを照らしつつ、一行は遺跡の地下へ潜っていく。
「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!