第126話 新生・双焔の虎退治
ナナミと共に冒険者ギルドを訪れるアカとヒイロ。先日は手持ちが無くて冒険者登録できなかったが今回は師匠がいる。
「こんにちは。あら、あなた達はこの間の……改めて冒険者登録ですか?」
受付に行くと先日対応してくれた受付嬢がおり、二人の姿を見ると共通語で話しかけて来た。
「覚えてたんですか?」
アカが魔導語で答えると、彼女はびっくりしたように目を丸くした。
「ええ、まあ。女の子二人で来て登録料をツケてくれってゴネる方は珍しいので……」
「そ、その節はお見苦しいところを」
「大丈夫ですよ。それで、登録でよろしいですか? 登録料は二人で銅貨五十枚になりますが」
「はい、お願いします。師匠!」
ヒイロが意気揚々と振り返りナナミを見る。この子、人にお金を出させるのになんでこんなに得意げな顔をしているのかしら。え、もしかしてデートで相手にお金を出させるタイプ? とはいえ私達の場合は将来的に家計を一緒にする事が決まっているんだからお金を出させる意味ないし……。
「アカ、なんか失礼なこと考えてるでしょ?」
「し、失礼なのは師匠に堂々とお金を出させるヒイロの方じゃない!?」
「アンタたち、職員さんが困ってるんだからさっさと旧い冒険者証を出しな」
苦笑いしてこちらを眺める受付嬢にこれまでの冒険者証と登録料を渡す。手渡されたカードは当たり前だが星無しになっていた。
「あー、そういえばまた初めからなんだっけ(※)」
(※第3章 30話)
「Cランクに上がるまでは依頼も素材収集とか街のお掃除とかしか受けられないんだよね」
「基本的にはそうだけど、アタシとパーティを組めば依頼は受けられるはずだ。そうだよね?」
ナナミが受付嬢に訊ねると彼女は頷いた。
「はい、高ランクの方とパーティを組めば依頼受注の制限なくなりますけど……え、ナナミさんとパーティを組まれるんですか!?」
「ああ。この子達は遠縁の親戚みたいなもんでね。アタシを訪ねてこの街に来たんだよ。遠くから旅して来ていてこの国の常識を知らなかったみたいだからしばらく勉強させてね、ようやくアタシの仕事の手伝いをさせようと思ったのさ」
「ああ、ご親戚だったんですね」
「どれどれ、じゃあこのあたりの依頼を受けようかね」
ナナミが受付嬢に依頼票を手渡す。彼女は少し悩んでいたが「まあAランクのナナミさんが一緒なら」と納得して受け付けてくれた。
「そういえばパーティ名はどうされますか?」
「ああそうか。ずっとソロだったからねぇ。……アンタたち、パーティ名はあるのかい?」
「え? ああ、前の街では「双焔」って名前で申請してましたけど」
「双焔とは大層な名前じゃないか。まあそれでいいよ。パーティ名は双焔で、リーダーはアカとヒイロのどっちがやるんだい?」
「あ、申し訳ないですがパーティの中でランクにばらつきがある場合は一番高い方がリーダーとするルールになりますので、自動的にナナミさんになります……」
こうしてナナミをリーダーとした新生・双焔は討伐依頼をこなすために街の外に向かった。
◇ ◇ ◇
「何の討伐依頼を受けたんですか?」
「大角虎って魔物の討伐だね。鋭い爪や牙、立派な角による物理攻撃もさることながら、魔法まで使ってくる厄介なやつさ」
「それ、Bランク以上のパーティがちゃんと下準備して狩る魔物じゃないですか! その場のノリでこいつにするかって選ぶ標的じゃ無くないです!?」
想像以上に危険な魔物にびっくりしたアカが焦って訊ねると、ナナミははっはっはと笑う。
「弱い魔物じゃ腕試しにならないからね。危なくなったら助けてやるからとりあえず全力でやってみな。ある程度の重傷なら治してやれるしね。まあ流石に止まった心臓は動かせないが」
思ったよりスパルタな師匠。やるしかないだろう。
「ヒイロ、くれぐれも死なないでね」
「冗談になってないから怖いんだよなあ」
軽口を叩きながらもナナミの後を歩くアカとヒイロ。なんだかんだ二人には軽口を叩く余裕があったというわけだ、この時点では。
……。
…………。
………………。
「アカ、後ろっ!」
「っ!? このっ!」
ヒイロの声に反応して、振り返り様にとりあえず炎を噴く。目の前に迫っていた大角虎は炎を避けるように大きく距離をとった。ほっとする間もなく前を向き直し、振りかぶったメイスを改めて叩きつけるが、標的は既に体制を整えておりアカのメイスは空を切る。
「くそっ!」
隣のヒイロと背中を合わせて、一度呼吸を整える。
「何頭減った?」
「たぶんまだ一、二頭じゃないかしら」
「ああっ! あの足を引きずってるやつ、さっき倒し損ねたやつじゃん!」
「深追いはダメよ……また来るっ!」
ろくに休む間もなく、二人取り囲んだ虎たちは死角を突くように次々と飛びかかってくる。アカとヒイロはメイスと炎を駆使して、必死で応戦する。魔物というものは基本的に狡猾であるがこの虎たちも例に漏れず頭は良いようで、深く踏み込んだら反撃を受ける事は理解しておりあくまでもヒットアンドアウェイを主体にアカとヒイロに襲いかかってくる。十数頭の虎たちが絶え間なく攻めてくるため、とにかく目の前の虎からの攻撃に対して致命傷をもらわないように反撃して凌ぐ事しか出来なかった。
「う……りゃあっ!」
ヒイロの一撃が一頭の虎の眉間にめり込んだ。キュウと鳴いて弱った虎にとどめを刺そうとメイスを振り上げるが、ガチっという音と共にメイスが止まる。別の虎がメイスの柄に噛みついて攻撃を阻んだのだ。
「ちいっ!」
メイスを囓る虎に炎の玉を噴き出す。虎は器用に身体をしならせてそれをかわし、また距離をとった。ヒイロが振り返る頃には眉間を叩かれた虎は既に下がって身体を休めている。
「また、コイツらは……っ!」
先ほどからずっとこれである。たまに良い攻撃が入ってもトドメの一撃をさせて貰えない。必ず他の虎が邪魔してくるため手傷を負わせた虎を倒せないのだ。上手く仕留めきる事ができたのは最初、不意打ち気味に炎を当てることが出来た一、二頭だけである。
「ふーっ、ふーっ!」
「ヒイロ、大丈夫!?」
「生きてはいるよっ!」
「横、来てる!」
「うい!」
お互いに声を掛けながらもとにかく虎の攻撃を捌き続ける。角、牙、爪、そして稀に土魔法で岩を飛ばしてくる虎に対してなんとか少しずつ相手の体力を減らしていくしかないだろう。二人はただ夢中でメイスを振るい、炎を吐き続けた。
……そんな戦いを離れた場所から眺めるナナミは、アカとヒイロの戦いを冷静に分析していた。
「それぞれ体と魔力の使い方は及第点かね。ただワンパターンになりがちで相手に完全に読まれて来ている。緩急をつけてみたり、限界まで引き付けてより強烈なカウンターを撃ち込めないと中々相手の数は減らせないだろうねぇ」
特に炎は完全に溜めと威力、撃った後の軌道を見切られておりあれでは牽制にしかならないだろう。
「少しずつでも頭数を減らせないと魔力が尽きる前に倒しきる事は出来ないだろうけど、さてさてどうなる事やら……」
森の奥にある洞窟内、その一画にて大角虎の群れを見つけたナナミは「どうやって一体だけ釣ろうか」と相談を始めたアカとヒイロを、有無を言わせずに無理の中心に放り込んだ。二人には魔力を暴走させる自爆上等の切り札以外は何をしても良いと言ってある。
「早々に死にかけたら助けてやるつもりだったけど、思ったよりやるもんだ。こりゃあ長引きそうだね」
ナナミは気配を消しつつも、もしもの時にはすぐに飛び出せるように構えている。アカとヒイロを甘やかすつもりは無いが、死なせるようなことがあってもいけないからだ。
いつでも助けに行けるようにするためには、ある意味では戦っている二人よりも慎重に戦況を見守る必要がある。
適当な岩場に腰掛け、長期戦に備えるのであった。
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