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双焔の魔女の旅路  作者: かおぴこ
幕間 召喚された勇者達
124/219

第5話 四人の勇者の冒険者模様

風の刃(ウインドカッター)!」


 カナンの放った風の刃が大熊獣(ジャイアントベア)に迫る。大熊は怯んで一度大きく距離をとった。


 体勢を立て直して、再び勢いよく飛び込んできたところでエリカのスキルが発動する。


金縛り(バインド)


 その場で身体の動きがびたりと止まった大熊は、勢いそのままに地面に転がった。金縛りで止められる時間は精々数秒、しかしその数秒の隙に剣に光を纏わせたソウが勇敢に斬りかかる。


「たあぁぁぁっ!」


 ズバッと肩口から袈裟斬りにされた大熊はその場でウォォンと悲鳴を上げると倒れ伏す。


「トドメは頂くぜ」


 虫の息となった大熊にアキラが寄って手を翳すと、そのまま大熊は息を引き取った。


「やっぱり死にかけだと大して吸えないな。ともあれ、討伐完了だ」

「みんな、お疲れさま。怪我はない?」

「ああ、大丈夫だ」

「私も平気」

「なら良かった。もしも不調があったら治すから教えてね」


 カナンの言葉に頷く三人。お互いに無事を確認した四人は討伐証明部位となる両耳を切り落として袋に入れた。血の匂いにカナンとエリカは顔を顰めるが、表立って文句を言うようなことはしなかった。どれだけたっても命を奪う行為、血が流れるという事には慣れないものだ……たとえ相手が人を襲う魔獣であっても。


 だが、王都から少し離れれば危険な魔獣に怯えて暮らす人々が多くいる。危険に正面から立ち向かう力もなく、かといって比較的安全な王都へ移り住むだけの財力もない者達は何かある度に蓄えた金を吐き出して冒険者ギルドに依頼するしかない。


 ……最低限の安全と生活が保障されているという日本という国が、如何に恵まれていたか。教科書の勉強では決して知る事が出来なかった経験だと思うとともに、日本には帰れないと明言されてしまっている以上(※)、日本に想いを馳せても虚しいだけである。

(幕間 第2話)


「カナン、どうした? ぼーっとして」

「ソウ君……ううん、なんでもない」


 いけないいけない。また日本での事を考えちゃった。郷愁に耽ると他のみんなも辛そうにするし、なるべく控えないと。


「そうか、ならいいんだ。カナン、こいつの処理をしてもらってもいいか? 死体を残しておくと他の獣が寄ってくるかも知れないからな」

「ええ、任せて。土の棺(アースコフィン)。……炎の槍(ファイアランス)


 カナンが大熊の下の土に、死体が入る程度の穴を開ける。そこに大熊の死体が入ったのを確認すると今度はそこ火をつけた。黒い煙と共に肉の焦げる嫌な臭いが穴から漂うが、そのまましばらく待つと煙が収まりひもきえる。


「これでよし、あとは念のため……水流(ウォーターフォール)


 水魔法で消火を忘れない。うっかり燃え残りが周りの植物にでも燃え移ったら大火事になってしまう。最後に改めて土魔法で大熊の炭ごと地中に埋めれば後処理は完了だ。


「いつも後処理を全部任せてしまってごめんな」

「大丈夫。こういうのは私のスキルが向いているから」


 戦闘ではどうしても他の三人に一歩譲るカナンだがその分それ以外の部分で挽回しなければと思っている。


「実際、庵さんが居てくれて助かるぜ。一般的な冒険者はこういう死体の処理も数時間がかりになるらしいからな」

「ふふふ、お役に立てて光栄だわ」

「さて、無事に討伐対象(大熊獣)を倒せた事だし、村に報告に戻ろう!」


 歩き出すソウにカナン、エリカ、アキラの順で続いた。


◇ ◇ ◇

 

 大熊獣の討伐は無事に完了した。依頼を出した村に戻ってきた一行は村長からギルドへの報告書にサインを貰い後は街に戻るだけのはずであった。


 依頼の報告はソウに任せて、エリカとアキラはの補給に向かう。帰路の道中でも、飲み水の確保や夜の灯り、果ては仲間達の体力の回復などのために魔法を使いすぎて魔力が枯渇していたカナンは先に宿に戻って少し休ませてもらう事にした。カナンのチートスキル「六属性適正(ヘキサエレメント)」は、火水風土光闇の六つの属性の魔法を覚える事ができるというもので、四人の旅においては非常に重宝しているがカナンの魔力総量はさほど多くなくこの世界の一般的な魔法使い並みである。そんな彼女が他の何倍も魔法を使えば当然魔力は枯渇するわけだ。枯渇した魔力は回復薬を飲むか、しばらく休めば自然に回復しいてく。


 小一時間ほど横になり少し疲れの取れたカナンは、仲間達と夕食を取るために宿に併設された食堂へ向かう。もうみんな集まっているだろう。


 ……。


 …………。


 ………………。

 

「西の山にいる喰人種(グール)の討伐?」

「ああ、村の人達はいつ自分達が狙われるか気が気じゃないそうだ」


 夕食をとりながらソウが話したのは、村長からの新たな依頼についてであった。


 イグニス王国でアカとヒイロの足跡を探しながら、様々な街や村を巡って旅をする四人の勇者。


 光ヶ丘(ひかりがおか)(ソウ)、日本ではサッカー部の次期キャプテンとして同級生をまとめていた経験から四人のリーダーとして今後の方針を定めたりギルドや依頼人との交渉などを行っている。


「それってギルドを通した依頼?」


 (いおり)花南(カナン)……ソウの幼馴染でサッカー部のマネージャーでもあった彼女は訊ねる。


「いや、ギルドへ依頼しているのは、さっき報告した大熊獣の討伐だけらしいな」

「つまり、ギルドを通していない依頼って事ね? そういうの良くないと思うけど」

「うっ……、でも村のみんな、困っているわけだし……」

「いいじゃないか、俺たちには困ってる人を助ける力があるんだ。なぁ、ソウ?」


 反対するカナンに対して、ソウの援護射撃をしたのは彼と同じサッカー部員だった夕暮(ゆうぐれ)(アキラ)である。ヒイロの幼馴染でもある彼は、基本的にソウと同様に正義感が強い。村の人達が困っていると聞けば見過ごせない性格な男子二人である。


「だったら尚のこと、きちんとギルドを通すべきよ。グールを中途半端に刺激する事になって取り返しのつかない事になったらどうするの?」


 カナンが反論した。彼女とて、できる人助けはしたいと思っている。だが討伐依頼は冒険者ギルドを通すルールがありって、冒険者同士でちょっとこれを手伝ってよ、ぐらいならお互いの裁量という事でギルドもうるさく言わないが、討伐依頼などになるとこれは完全に闇依頼だ。もしも明るみに出れば依頼人がギルドに払う手数料を惜しんでいると取られる。そうなると依頼人と冒険者、両方に重いペナルティが課されることとなる。


「グールの存在を確認したのが昨日の事らしい。もちろんギルドには依頼を出すつもりではあるらしいけど、街に行って依頼を出して、そこから冒険者が来てくれるまで十日はかかる。その間に村人に犠牲者が出たらと思うとっていう事らしい」

「だったらその期間、私たちがここに留まったら? 滞在中の村に魔物が襲ってきた場合の防衛なら認められているわ」

「それはそうだけど……」

「依頼じゃなくて俺たちが勝手に行って勝手に討伐してくるって建前にするのはどうだ? だったらペナルティも発生はしないだろ」

「アキラ! その手があったか!」

「ええ!? それってタダ働きするってことよ、分かってる?」

「俺たちは別に金に困ってはいないだろ? この世界を見て回って色々な人と交流しながら常識を身に付けつつ、スキルを使った戦い方に慣れるってのが旅の目的だったはずだ」

「あと、アカと茜坂さんを探すのもね」


 ここまで黙って聞いていた那須(なす)恵里香(エリカ)が付け加えるとアキラは頷いた。


「もちろん。だけど、そもそも金は王国からしっかりと貰ってきているから無理に依頼をこなさなくても金欠で困ることはない。だったらこういう本当に困っている人を助けるためにこそ、俺たちのチートスキル()はあるんじゃねぇのか?」

「一理あるけど、そういう前例を作ることは村にとっても良くないと思うし、何より私達で責任の取れないことはやるべきじゃないと思うわ」

「大丈夫だって、俺たちなら勝てるさ!」


 それでも反対するカナンだったが、ソウは熟考した上で宣言する。


「……やろう。カナンの心配もわかるが、目の前で困っている人達がいるのに放っておくことは出来ない。ただ、村の人には黙って討伐しよう。あくまでも僕たちの旅の道中にたまたま凶暴なグール達がいて、僕たちは火の粉を振り払うだけ。これなら誰にも迷惑は掛からないはずだ」


 ……。


 …………。


 ………………。


「はぁ……、彼ら最近、ちょっと調子に乗りすぎだと思わない?」


 部屋に戻ったカナンが同室のエリカに意見を求める。エリカは苦笑いして頷いた。


「まぁ、強いチートスキル()を持ってるから人助けしたいって言うのは立派だと思うよ」

「それにしたって、目に入る人を片っ端から助けていくことは出来ないわ。それにルール違反をするのも良くないし……エリカも反対してくれればいいのに」

「私はあなた達三人の決定に従うって宣言してるから。ここで私まで反対していたら二体二で意見が割れて落とし所が見つからなかったと思う」


 もともとサッカー部員とそのマネージャーとして仲が良かったソウ、アキラ、カナンの三人組に、親友(アカ)を探すために強引についてきているエリカは、基本的にパーティの意思決定に黙って従う事にしている。


「そうだけど……でもこのままじゃずっとお人よし二人に振り回されっぱなしよ?」

「それは確かに困るね。王都に戻ったら暫く滞在して頭冷やしてもらうってのはどうかな?」


 いまは丁度王都に向けた帰路であり、あと街を二つほど経由したら一度王都に戻る予定だった。エリカはそこで少し長めに滞在する事を提案する。


「それは有りかも。でもいいの? 少しでも朱井さんとヒイロちゃんの手掛かりが欲しいんでしょ?」

「ずっと王都にいる子や、他に旅してるクラスメイト達が何か情報を手に入れたかも知れないから、一度王都に腰を据えてみるのも悪くないかなって」

「ああ、なるほど……じゃあ王都に戻ったら暫く活動休止を提案してみましょう。はぁ、どっちみち明日はグール退治かぁ」

「グールってどんな魔物なんだろうね」

「ゾンビ映画に出てくるような怪物じゃない事を祈るわ」

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