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双焔の魔女の旅路  作者: かおぴこ
第1章 2人の少女
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第11話 反省

 とりあえず軽く夕食をとる事にする。全員体力も魔力も消耗しているからこそ、休める時にきちんと休息をとる事は重要だ。


 焚き火を起こす元気もなかったので、各々カバンから携行食を取り出して口にする。


「アカ、荷物は?」

「ヒイロを背負うためにね」

「あ、そういうことか。……ありがとう」

「どういたしまして」

「じゃあ私の干し肉分けてあげるね」


 ヒイロはリュックから硬い硬い干し肉を取り出してアカに渡す。これはいわゆる保存食で、ナイフで削ってスープに入れるのが普通の食べ方だけれど、ジャーキーのようにそのまま食べることも出来る。その場合時間をかけてゆっくりゆっくり齧っていくことになるのでヒイロが渡してくれた10cm片ひとつで十分お腹は膨れる。


 もそもそと干し肉を齧るアカにリオン達が提案する。


「あのさ、今回の報酬の取り分だけど、俺達の分を減らしてアカ達に多めに渡そうか?」

「……なぜ?」

「なぜって言われても。そもそもゴブリンに襲われたのは俺達が洞穴の調査に拘ったからだ。アカは初めから反対してただろ? それに俺達が今こうやって無事でいられるのは、アカとヒイロの炎魔法のおかげだ。悔しいけど俺達だけだったら確実にゴブリン達から逃げ切ることは出来なかっただろう」

「それに加えて、アカはあの場から逃げ出すためにカバンを失くしているだろう? どれだけの損失になっちまったのかは分からないけど、少しでも補填にしてくれればと……」

「結構よ」


 リオンとトールからの提案をピシャリと断る。


「洞穴に一緒に行ったのも、カバンを捨てたのも()()そうすべきと判断したから。そこなあなた達の責任は無いわ」

「だけど、二人は俺たちを助けてくれただろう?」

「一緒に依頼を受けている以上はお互いに助け合うのは当たり前だし、それに対してお礼の言葉以上のものを乗せたら次からはお金を払わなければ助けない理由ができちゃうもの」

「でも……」


 納得がいかないといった表情のリオン。変なところで生真面目なヤツだなとアカは呆れ半分、感心半分で続ける。


「じゃああなた達は報酬を多めに渡さないと私とヒイロを助けてくれないの?」

「そんなこと、あるわけないだろ!? 俺達は仲間なんだから!」

「そういうことよ」


 アカはニッコリ笑うとリオンから目を離して食事の続きを口にする。これ以上問答するつもりはないという意思表示だ。リオンはそんなアカを見て改めて頭を下げる。


「わかったよ……それじゃあアカ、ヒイロ。改めて、今日は色々とありがとうな」

「ええ、どういたしまして」



 夕食を食べ、全員身体と心に少し気持ちに余裕ができたので全員で今後の予定を確認する。


 リオンは改めて今回の依頼内容を思い出す。ゴブリンの集落の調査、それでいえば「おそらく奴らが住み着いているであろう洞穴を見つけた」以上の成果は今のところ無いように思える。つまりかなりの危険を犯して命からがら逃げ出したというのに、昼間洞穴を見つけた時から何も情報を得ていない事になる。


 せめてもう少し情報が欲しいところではあるが、少なくとも明日もう一度あの洞穴に行こうと言い出す気にはなれなかった。


「このまま戻っても大した成果は無し。報酬は減額か、下手したら失敗扱いになっちまうかもな……」

「まさかリオン、もう一度あの洞穴に調査に行こうなんて言ったりしないわよね!?」

「俺は反対だ。今はゴブリン達も警戒をしているだろうし、もう一度あんな風に囲まれたら今度こそ無事じゃ済まない」

「わ、私もちょっと嫌だな……」


 案の定メンバーからは反対の声があがる。


「安心しろよ、俺だってあんな場所に行くのはごめんだ。だけどこのまま戻ってもほとんど報告できることがないだろ? おおよその群れの規模やボスが居るかどうかぐらいは……ってこれは洞穴に向かう前にも言ったな。それすら分からないまま帰るくらいなら、あの時アカの忠告通り帰った方がマシだったかもな」


 リオンは頭をガシガシ掻きむしる。リーダーなりに責任を果たせない事に対する憤りがあるのだろう。獅子奮迅のメンバーはなんと声をかけて良いか分からず、黙ってしまう。


「それならある程度は分かるわよ。少なくとも行かない方がマシだったなんて言わなくて済む程度にはね」


 沈黙を破ったのはアカであった。


「まず私たちは煙で中のゴブリンを炙り出そうとしていたけど、気づけば大量のゴブリンに囲まれていたわよね。意識を洞穴に集中していたとはいえ、六人もいて誰も物音や気配に気が付かないなんてよほど周到に取り囲まれた……ゴブリンがそんな事を出来るなんて不自然じゃない?」

「言われてみれば、確かにそうだな」

「この時点で無理の中には相当な知恵がある個体がいる事が分かる。洞穴の外ですらあんな風に囲まれるんですもの、少なくともあの洞穴は無策で入ったら簡単に絡めとられるぐらいには堅牢な要塞になっていると想像できるわね」

「つまり、あの洞穴には入れないって事?」

「かなり手練の斥候や狭くて暗い洞窟内での戦いに長けた人間でないと危険だと言うことができるってことかな」

「なるほど、それが調査結果になるってことね」

「ええ。それとボスの有無だけど、さっき言った知恵のある個体がいるって言ったでしょ。それがボスなのかは分からないけれど、ただのゴブリンよりも頭が良く、その知恵を他のゴブリン達に授けることが出来る存在であることは間違いないわね。頭の良い個体によって群全体の知能レベルがあがっている、これって十分脅威度が高いと言えるわ」


 アカの説明に頷く一同。「洞穴がありました」とだけ伝えるよりかなりマシな報告になりそうだと思った。

 

「言われてみれば最もだ。……さすがに群れの規模は分からないよな?」

「結構な数が居たのは間違いないというぐらいか」

「ざっくりした概算なら出せるわよ」

「どうやってだ?」


 アカは細長い石を手に取ると、地面に数字を書きながら説明していく。


「森を出て街道に差し掛かったところで追いかけてきて居たゴブリンがおよそ50体。半分は森に残って守りを固めたと仮定すると包囲された時点であの場には約100体のゴブリンが居たと想定できるわね。

 私達を襲って来たのは女子供を除いたオスのゴブリンだと思うけど、戦闘要員のオスが群れ全体に占める割合は約4割ってところかしらね。その全員が襲ってきたとは考えづらいから、ここも半分を掛けて2割。つまり襲ってきた100体は群全体の2割だとするば、群全体の数は100を0.2(2割)で割ったおよそ500体と目星を付けられるってところじゃないかしら?」


 森から出てきた50体をもとに適当に弾いた数なのでもしかしたら上は想定の2倍、1000体ほどいるかも知れないけれど逆に下が300を下回るようなことは考えづらいだろう。


 隣でヒイロは納得したように頷いているが、リオン達は訳がわからないといった表情で困惑している。


「やっぱり仮定してる項が多すぎるかしら?」

「いや、そういう事じゃ無くて」


 リオンの代わりにアクアが質問をしてくる。

 

「あなたが今言った0.2で割るっていう言葉の意味がよくわからないんだけどそれは算術っていうもの? 算術なんてかなり高度な教育、それこそ貴族やお抱えの商人くらいしか習わないと思うんだけど、どこで習ったの?」


 しまった、ここまでボロが出てなかったからつい油断してしまった。別に後ろめたいことがあるわけではないが、出自を探られるのは面倒臭い。なんと言って誤魔化そうかと悩むアカにヒイロが助け舟を出してくれる。


「バレちゃったね」

「え?」

「アカはね、実はかなり良いところのお嬢さんなんだよ」

「ちょっと、ヒイロ!」

「やっぱりそうなのね。いまの算術もだけど、なんというか考え方や振る舞いに気品を感じると思ったわ」

「別にそんなんじゃ……」

「ただ、ちょっと込み入った事情もあったりするからあまり詮索はしないで貰えると有難いかな」

「それはもちろん。素性を根掘り葉掘り聞かないのは冒険者の掟だものね」


 アクアは勝手に納得して頷く。


「アカの育ちの良さって分かるもの?」

「なんとなくだけど、分かるわね。なんというか雰囲気が上品なのよ」


 ヒイロの質問にアクアが答えると、横の獅子奮迅のメンバーもうんうんと頷いている。アカはべつにやんごとなき身分でもなんでもない、一般家庭の女子高生のつもりなのだが。


「ちなみに私は?」

「ヒイロさんは……普通かしら?」

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