第111話 龍の見た夢
その幼い龍は雲の上をトテトテと歩いていた。
頑張って平気な顔をしていたけれど、本当はとても心細かった。
いつも隣にいた半身が居ないからだ。
気が付けばひとりきりで、この場所に居たのだった。
もっと高いところに行かないと。
そう思って、頑張って歩き始めたのだった。
どれくらい歩いただろう。
一面に広がる真っ白な雲は、どこまでも続いている。
見上げれば真っ青な空が広がっていて、世界には白と青しかない。
それもまた龍を少し嫌な気持ちにさせた。
自分の好きな色が無いから。
そうだと思いつき、火を噴いた。
目の前に緋色が広がる。
大好きな紅じゃないけれど、少しだけ安心した。
白い雲を、もっともっと緋色に染めよう。
そう思ってたくさん緋色の火を噴いた。
雲はどんどん燃えて、辺り一面緋色に染まった。
あと一息。
龍は仕上げの火を噴こうと大きく息を吸い込んだ。
「お辞めなさい」
龍に優しく声をかけたのは、彼女の何倍も大きな龍だった。
龍は振り向いて嬉しそうに笑う。
「お母さん!」
「雲が燃えたら、みんな困ってしまいますよ」
「うん、わかった。ごめんなさい」
龍が謝ると母親は慈しむ様に目を細める。
「お母さん、これからは一緒に居られる?」
龍は上目遣いで母に訊ねる。
「お母さんと一緒に居たいの?」
「うん!」
「そう……」
何故か悲しそうな顔をする母。
龍は、いけない事を聞いてしまったのかと不安になった。
「お母さん……?」
「あの子とは、一緒に居られなくなっちゃうけれど」
「あの子……」
龍は思い出す。
大好きな半身を。
「お母さんは、もうあの子と同じ場所には居られないの。あなたはまだ狭間にいる。このままお母さんと一緒に来たら、もうあの子には会えないわ」
「そんなのイヤ!」
「だったら、帰りなさい」
母親が顔を上げて見つめた先には、光が差していた。
「お母さんは?」
「お母さんはあっちには行けないの」
「そ、そんな……」
龍の目から涙が溢れる。
母親はそんな龍を優しく抱きしめる。
「あなた達がずっと幸せでいてくれれば、いつかまた会えるわ」
「……ホント?」
「だからそれまで、しばらくお別れ」
母親は龍を送り出した。
「……お母さん、わたし、行くね」
「ええ」
「お母さんとさよならするの、本当はすごく寂しいよ」
「だけど、わたし、行かなくちゃ」
「妹はとっても寂しがり屋なんだもん」
「私がついていてあげないと、きっと泣いちゃうから」
「優しいお姉ちゃんね」
「うん! わたし、アカのことが大好きなの」
― ヒイロ! 帰って来て! ヒイロ!
光の方から微かに声が聞こえる。
「あ! アカの声だ!」
― ヒイロ! お願い、起きて!
「行ってあげなさい」
「うん、分かったよ」
「お母さん、またね!」
「大好きだよ!」
大きく手を振って龍は光に向かって駆け出した。
その場に残された母親は、龍に向かっていつまでも手を振っていた。
「アカと、ヒイロ。 ……いい名前を貰ったのね」
自分は出会うことが出来なかった娘達。
母として、龍として守ることが出来なかった娘達。
だが、彼女達は名前を与えられ、互いに寄り添いながら生きている。
それを知ることが出来ただけでも幸せだと思った。
……。
……。
……。
光に向かってヒイロは駆ける。
アカが呼んでいるから。
大好きな、大切な、半身であるアカの魂がヒイロを呼んでいるから。
眩い光に飛び込む様に、ヒイロは大きく踏み出した。
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