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双焔の魔女の旅路  作者: かおぴこ
第7章 山の麓の大きな街で
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第98話 過激な交渉

 街の鐘が午後六時を告げ、暫く経った。街は仕事を終えて家に帰る人達の流れで活気付いていた。

 

 ルシアの案内で一致団結の拠点を訪れたアカとヒイロ。クランの拠点は古い宿屋を買い上げて再利用している。ここにパーティ毎に部屋を割り当てている。所属パーティ全員がここに住んでいるわけでは無いが、大部分はこの宿に寝泊まりしていた。


 扉を開けて中に入るとロビー兼食堂には今日の仕事を終えた多くの冒険者達がたむろしていた。


「なんだお前ら?」

「そちらのリーダーに話があるんだけど」

「フーマなら奥の事務所にいるが、何の用だ?」

「昼間の件でって言ってくれれば分かると思うけど」


 訝しげにアカ達を見つつも、一人の冒険者が奥の部屋へ向かう。少しすると戻ってきて「入って良いらしい。あの部屋だ」と奥を指した。


 アカとヒイロ、それにルシアは奥の部屋に入る。中にはフーマと「気合魂」の三人、それと「青空旅団」の四人の合計八人が居た。全員が入ってもなお狭さを感じない部屋で、学校の教室の半分くらいの広さがありそうだなと思った。


「早かったな。それで、どっちが金を払ってくれるか決まったのか?」

「その前にもう一度事実を確認させてくれ。アカとヒイロの主張はあくまでそちらが無理やり売春させようとしたから抵抗した、いわば正当防衛であるという主張なんだが一致団結(そちら側)の主張は二人は自発的に売春宿に行ってそこで仕事をすると言った。それで間違いないね?」


 ルシアが打ち合わせ通り改めてフーマの言質を取りに行くと、フーマは即答せず暫く考え込んだ。ここで改めてその事実を認めることでどうなるか考えているのだろう。周囲のクランメンバー達は怪訝な顔でその様子を見守るが、口を挟む様子はない。


「フーマ、どうなんだい?」

「……ああ、俺たちの主張はそれで間違いないな」


 ようやくフーマが頷く。


「そうか。ならこれはもう私達、才色兼備には関係無い話だね」

「ほう?」

「何故ならこの宿に売春婦として足を踏み入れた時点でアカとヒイロは才色兼備から脱退していたと見做せるからだ」

「予めクランを辞めて来ていたということか? 今更言ってもそれは通らないのだが」

「事前に辞めるという話は聞いていないが、お前達が運営する売春宿で働こうとした時点で、ウチのクランルールに抵触しているから自動的に除名(クビ)になるんだよ」


 ほら、と一枚の紙をフーマに見せる。それはアカとヒイロも才色兼備に入った時に見せられた、クランのルールであった。


 そこには運営のルール――主に報酬の配分で揉めないための決まりごと――が書いてあったが、その中に「他のクランとの同時在籍を禁じる」という文言がある。


「クラン間でトラブルを起こさないために、お互いに写しを持っているクランルールだ。これは破った時点でクランはそのパーティに罰を与える事ができると書いてあるだろう? 私達は二人を入店時点に遡ってクビにする事にしたんだよ」

「……なるほど、一応筋は通るな。だが()()()()()()()でクビはちょっと厳しすぎやしないか?」


 フーマはルール紙をルシアに返しつつ訊ねる。後出しで実は体験入店……つまり見学だったとする事でそれこそ先日の合同依頼のようなものだったのでは、という主張だ。


 だがルシアは首を振る。


「体験だろうと本気だろうと、クランに断り無く行った時点でアウトだよ」

「こいつらを紹介してくれたのは「雪月花」だっんだが」

「残念ながらヲリエッタからも事前には話を聞いていない。彼女が生きていれば確認が取れたんだがね」


 ルシアは内心の動揺を隠しつつフーマに向き合う。事前に想定した問答はこの辺りまでだ。ここからさらに屁理屈を捏ねてこられたらアドリブで対応しなければならない。正直それができる気がしないルシアであったが、幸いな事にフーマはここで降参してくれた。

 

「わかった。この件について才色兼備は関係無い」

「おい、フーマ!」

「仕方無いだろう。これ以上ゴネるとこっちに理が無い事になる」


 思わず身を乗り出した仲間を抑えてフーマは忌々しげにルシアを見た。


「じゃあ私はこれで。残りは当事者同士で決めてくれ」

「ああ、分かった。ルシア、良いんだな?」

「良いも何もその二人はもうウチのクランとは無関係さ」


 ルシアは踵を返して部屋を出て行った。


 ……。


 …………。


 ………………。


「これはお前達の策か?」


 残されたアカとヒイロにフーマが訊ねる。


「何故そう思うの?」

「ルシアにはこんな作戦を思いつかないし、仮に思いついても実行出来ねぇよ。クランメンバーを守ることを何より大切にしているからな」

「あら、評価してるのね」

「あれはあれで必要な受け皿だ。不味い依頼を受けてくれる才色兼備があるから一致団結は美味い依頼に注力出来る」


 フーマの才色兼備への評価が思ったより高く、意外に感じる。てっきりライバルクランだから目の敵にしてるんだろうなと思い込んでいたが、意外と持ちつ持たれつで上手くやっているのかもしれない。


「それで、お前達が金を払ってくれるんだろうな?」

「私達は主張を曲げてないんだけど。ルシアはあなた達の主張を信じて私達をクビにしたけどね」

「なんだとっ!?」


 フーマの隣にいたナコモがまた頭に血を上らせて立ち上がる。フーマは分かっていたようにナコモを制して座らせる。


「そんなことだろうと思ったが、流石にそれは通らないぞ。こっちは死人も出ているんだ」

「じゃあどうする? 実力行使に出る? だったら全力で抵抗させてもらうけど」

「正気か? お前達がそこそこ腕が立つのは知ってるが、この人数差だ。間違いなく死ぬぞ」

「かも知れないわね」

「だったら何故わざわざ挑発するような真似をする」

 

 不可解なものを見るようにアカ達を見るフーマ。


「仮にここで死んでも何人かは道連れに出来るし、この建物に火をつけることは出来るわ」

「答えになっていないな。結局のところそれは犬死にだろう。だったら金を払ってでも穏便に済ませようとは思わないのか?」

「穏便に、ねぇ……」


 アカはメイスを振りかぶると、そのまま壁に叩き尽きる。ドンッと物凄い音を立てて壁に大きな窪みが出来た。


「なっ!?」

「それはこっちのセリフなんだけど。建前とか関係無くて、私達は拉致されて無理矢理襲われた。こちらにとってはそれが真実なのよ。筋を通すだのクランの責任だの言い出すなら、それこそこっちからそっちに迷惑料を請求してもいいんだよなぁ!?」


 アカはメイスをくるりと回して構え直し、逆の手は手元に炎を生じさせる。完全に臨戦態勢だった。気付けば隣でヒイロも武器を構えている。


◇ ◇ ◇


「フーマ、良かったのか?」


 アカとヒイロが去った部屋で、残された一致団結のメンバーがフーマに訊ねる。

 

「仕方ないだろう、あれは本気の眼だった。あそこで俺たちが引かなければ本当に炎をぶっ放しただろうさ」

「お前が言うなら、ブラフじゃなかったんだろうが……それでも向こう二人に対してこっちは八人。部屋の外にいた奴らも含めれば三十人近くになった。負ける事はなかっただろうが」

「それで、何人死ぬと思う? 金の為とはいえ、メンバーをむざむざ死なせるわけにはいかない」

「フーマの判断は正しい、それは分かるがそれではこちらがやられ損じゃないか」

「まあある程度は仕方がない。そもそも本当のところは奴らが言っている事が事実だろうしな」


 あれだけの強さと覚悟があり冒険者として稼ぐ能力のある二人が、自分から売春婦になろうとするとは考えづらい。恐らく部下が保身のために都合の良い報告をしたのだろう……もちろん、公にそれを認めるわけにもいかないが。


「何れにせよ、こっちは事実を把握しておく必要がある。売春宿の管理をしてるやつを締め上げて本当のことを言わせろ。過去に「ヲリエッタ達の紹介で売春婦になった才色兼備のメンバー」が本当に自発的に来たのかも含めてな。あと、ヲリエッタ達の遺品をがめている可能性も高いな。それを取り上げれば今回の損害分の補填くらいにはなるだろう」

「わかった」


 部屋を出ていく部下を見送りつつ、フーマは改めて双焔の二人に想いを馳せる。


「双焔、ね……。是非ともうちに来てもらいたかったが、色々と噛み合わせが悪すぎたな」

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