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聖女と騎士団長様の濡れ衣逃避行~婚約破棄と指名手配から始まる愛の癒やし旅  作者: 武野あんず


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第11話 元騎士団長様をお助けします!①

 私は聖女アンナ。


 牢屋(ろうや)の中の元騎士(きし)団長様を助けたら、女王を激怒(げきど)させ私も牢屋(ろうや)に入れられそうになった。


 そして友人のパメラとその弟ネストールとともに、隣国(りんごく)、ロッドフォール王国に逃亡(とうぼう)した。


 ◇ ◇ ◇


 宿屋の部屋の扉がノックされた。


「……私が開ける」


 パメラは注意深く、そっと扉を開けた。


「俺だ! 見つけたぞ!」


 そこにはジャッカル・ベクスターが立っていた!


「下がって!」


 ネストールがナイフを持って私たちの前に出て、ジャッカルを(にら)みつけた。


 ジャッカルは静かに言った。


「……なるほど。こんな小さい宿屋にいたとはな。探したぞ」

「動いたら血まみれだよ」

「おい待て」

「何が『待て』だ?」


 ネストールがそう言ってナイフを構えたが、ジャッカルはため息をついて両手を()げた。


「こういうわけだ。何もしない。話をしに来ただけだ」

「ウソをつくなっ」


 ネストールがナイフを構えて叫ぶが、ジャッカルは再び静かに言った。


「だからさ、両手を上げてるだろ。話し合いに来たと言っている」

「……何のご用ですか?」


 私はネストールの後ろから眉をひそめて、ジャッカルに聞いた。


「とにかく部屋に入れてくれよ。立って話すのも(つか)れるだろ」


 ジャッカルはニヤけつつ、両手を上げるのをやめなかった。


 私とパメラは顔を見合わせた。


 ジャッカル・ベクスター……現騎士(きし)団長。


 デリック王子の側近(そっきん)というべき男だ。


 なぜこの男が話し合いに来たのだろう?


 ◇ ◇ ◇


「変なマネをしたら、頸動脈(けいどうみゃく)を切るよ」


 ネストールが目を光らせてナイフを構えている。


「おお、(こえ)(こえ)ぇ。こんな用心棒(ようじんぼう)がいたとはな」


 ジャッカルは私とパメラの前の椅子(いす)に座った。


「どうやってロッドフォール王国に入ってきた? 国境(こっきょう)はどうした?」


 パメラが聞くと、ジャッカルは首筋(くびすじ)をポリポリと()きながら答えた。


「俺は通行許可証をきちんと持ってるからな。まあ、あのマードックっていう国境(こっきょう)警備員はお前らの仲間なんだろ? 一時間かけてやっと俺を通したよ。イライラしたぜ」


 マードックさんは時間(かせ)ぎをしてくれたようだ。


 国境(こっきょう)警備員に通行許可証を持っている者を帰らせる権限(けんげん)はないので、うまく仕事をしてくれたといえる。


 だが、問題はこのジャッカルという男がここに来た動機(どうき)だが……。


「ウォルターは現在、再び牢屋(ろうや)に入っているが……。俺と組まないか? ウォルターを助けてやる」


 ジャッカルがおもむろにそう言ったので、私とパメラは驚いて顔を見合わせた。


「な、何だと? お前、グレンデル城の騎士(きし)団長でデリック王子の手下だろ。どういう風の吹き回しだ?」


 パメラはジャッカルをじっと見やった。

 

 するとジャッカルは舌打ちをして言った。


「もうこりごりなんだよ! あのバカデリック王子がっ!」


 そしてわめいた。


「王子は、俺がウォルターとも勝負に負けたことで、俺を騎士(きし)団長から格下げにしやがったんだ!」

「格下げ? どういうことだ?」

騎士(きし)団員になっちまったんだよ、俺は!」

「へえ~、そりゃご愁傷(しゅうしょう)様。それが本当の話だったらな」


 パメラはニヤニヤして言った。


 ジャッカルは(つか)れた表情で話しを続けた。


「本当だよ。デリック王子は()っぱらって帰ってくると、弱いくせに俺や俺の部下を(なぐ)りやがる! それにあの野郎、勝手にヘナチョコな剣や(やり)(よろい)を買ってきて騎士(きし)団の資金をどんどん使っちまうんだ。金の管理は俺の責任になるんだ。たまったもんじゃねえよ!」

「へえ……、おーいアンナ。お前、ずいぶんバカな王子と婚約(こんやく)してたんだな」


 パメラにそう言われ、私は赤面した。


「わ、私は仕事で(いそ)がしかったものだから、彼の本性には薄々(うすうす)気付いていたものの……。彼のそういう面には目をつぶっていたことは事実よ。それに……」

「イザベラ女王の目があったんだろ」


 ジャッカルが私の代わりに言ってくれた。


「一度王子と婚約(こんやく)したら、あの女王がいるかぎり勝手に婚約(こんやく)解消できないからな。そういう意味では、王子が婚約破棄(こんやくはき)してくれて助かったんじゃないか?」


 ジャッカルの意見に、私は大きくうなずくしかなかった。


 ――パメラは口を開いた。


「しかしジャッカルさんよ、これであんたを信用した――とはならない」

「何とでも言え。俺はもうグレンデル城の騎士(きし)団に在籍(ざいせき)するのはこりごりだ」


 ジャッカルはため息をつきながら言った。


「聖女アンナさん、パメラさんよ。あんたたちの目的はウォルターを牢屋(ろうや)から助けることだろう? ウォルターを助けるための情報を教えてやる」

「……一応聞いてやるよ。どんな情報だ?」

「まず始めに基本的な情報を話そう。①――ウォルターは(ふたた)牢屋(ろうや)に入っている。②――新しい牢屋(ろうや)番にマックス・ライクという兵士がついている。③――前牢屋(ろうや)番のジムはこの国から追放されたらしい」


 ジャッカルの言葉を聞いて、私は驚いた。

 

 まさか? 


 私に協力的だった、あのジムが?


「そして④――明後日(あさって)、グレンデル城でパーティーを行う。王子とジェニファーの婚約(こんやく)記念パーティーだ」


 ジャッカルは続けた。


 パメラは私を見た。

 

 私はもうデリック王子に未練(みれん)はないので、婚約(こんやく)記念パーティーについては何も思わない。


 私はジャッカルに聞いた。


「その(すき)をついて忍び込めと?」

「ああ。牢屋(ろうや)のある地下一階は警備が手薄(てうす)になる。だが問題は、城の手前の庭園と城の一階の警備が強化されるってことだが……」

「警備が強化されているなら、城への侵入(しんにゅう)(むずか)しいのでは? 裏口も厨房(ちゅうぼう)(つな)がっていて、料理人がいっぱいいるし……」

「確かにそうだ。だが君たちなら、堂々と真正面から入り込む方法がある」

「ま、真正面?」


 私とパメラは同時に叫んでしまった。


 いったいどうやって?


 ジャッカルはニヤリと笑った。


「真正面から入り込めたらしめたもの……! とある良い案があるから実行してくれたまえ!」

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