美少女とは日々のクエストを着実にこなしていくことで得られる称号である
クエストその1 朝:自宅
まず洗顔料を使ってきちんと顔を洗う。その後に化粧水と日中用乳液をつけると、朝食の時間。朝ご飯はしっかり食べないと太りやすい体になってしまう、そうして食事を取った後は、眉毛を整えてまつ毛をビューラーでカール。櫛で髪をとかして整え、唇にリップクリームとグロスを塗る。
クエストその2 昼:学校生活
背筋を伸ばし、正しい姿勢を維持するだけで見た目の印象はずいぶんと変わる。しゃがむ時も背筋を伸ばしたまま、物を拾う時もエレガントに。さらに休み時間はこまめに前髪のチェックや昼食後の歯磨きなど、やることは盛りだくさんだ。油断はできない。
クエストその3 夜:自宅
帰ってきたらシャワーで済まさずきちんと湯船に浸かり、朝と同様に洗顔を行う。髪を正しい手順で洗い、毛先の痛みが酷い時はトリートメントもしなければならない。その後は代謝促進やスタイル維持のための筋トレ。ただし睡眠不足は健康にも美容にも悪いので、遅くとも23時までには寝るのがベストだ。
私はこのように日々のクエストを毎日クリアすることで、なんとか「美少女」という称号を得るまでに至っている。
だが、肝心のラスボスは――
「おはよう! 東条君」
「あ、うん。おはよう」
東条君は素っ気なくそう返すと、すぐ男友達との会話に花を咲かせてしまう。
……せっかく今日は気合を入れて、高いトリートメントを使った上に甘い香りのするハンドクリームだって付けてきたのに……
「男ってそういう変化に鈍感だし、そんなものじゃない?」
友達の里香はそんな風に言うけれど、私は納得がいかない。
「でも私だって毎日、努力してるわけだし……やっぱり、好きな人には綺麗になった自分を見て褒めてほしいなぁって」
我ながら乙女チックばなに、友達の里香は「そうかなぁ」とドライに返す。
「別に、誰のためでもなく自己満足のために綺麗になったっていいでしょ。それで自分のこと好きになって自己肯定感上がるのは悪いことじゃないし」
里香はそれだけ言うと、私に悪戯っぽく微笑みかける。
「それに、私はアンタの努力を知ってるからさ。今日、髪ツヤツヤだしなんかバニラビーンズ系の甘い匂いつけてるでしょ? 超可愛いよ」
里香のストレートな誉め言葉に、私は胸にキュンとしたものを感じる。
……なんか、東条君がダメでも里香が私を褒めてくれるのならもう少し「クエスト」を続けてもいいかな……
そう思ったのは、私だけの秘密である。