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081.借りものの身体でどれだけ跳べるか



 さて……われわれヨツヤーエ連邦国と、敵国であるイードクア帝国。国も違えば文化も異なるのは世の常だろうが、こと『機甲鎧』の()()に関してはそこまで大きな違いは無い。

 というのも、両国それぞれの『機甲鎧』の雛形とでもいうべき『動作改良型傀儡兵(ゴーレム)』は、全く同一のものであるからだ。



 ――その昔、現在は連邦国の一員である『ミケルア王国』において、長い研究の末にくだんの『動作改良型傀儡兵(ゴーレム)』が誕生。

 長年人々の生活を脅かしてきた【魔物(モンステロ)】に足並み揃えて抗うためにと、王国は国内外にその技術を積極的に広めていった。

 ……もちろん、妥当といえる何かしらの対価を受け取っていたのだろうけど……当時はまだ『人類VS【魔物(モンステロ)】』の構図がハッキリしており、近隣の国どうしそこまで険悪でもなかったのだろう。



 しかしながら……それから少なくない月日が流れ、機甲鎧の技術と性能も増していき。

 人々にとって共通の脅威であった【魔物(モンステロ)】が『それなりに備えておけば充分に勝てる相手』に成り下がったことで……ごく一部の人々は、野心に取り憑かれてしまったらしい。


 未開の地の開拓民をその源流に持ち、歴史的に見ても『力を求める』傾向が強く、現代においても『力こそが全て』という意識が根強く残る……その国の名は、イードクア帝国。

 人々を守るための力を、初めて人々を(おびや)かすために用いてしまった、今日に至るまでの敵国である。




「んー…………んー? ……まあ、こんなもんか。……あちこち『かたい』けど、やっぱ問題なさそうだね」


――――まあじっさい、わたし(【グリフュス】)も帝国製だもんね。むしろファオにとっては【アラウダ】より、こっちのほうが動かしやすいんじゃない?


「そうかも。……んんー、んーうー…………よしっ!」



 動作を効率化したり、あるいは出力を上げるための細かな魔法式こそ異なるが……制御のための術式その根幹は、やはり同一ないし限りなく近しいもの。

 生まれてこのかた共にあった【グリフュス】とほぼ同じなら、私に扱えないはずもない。



≪……動けるのか? フィアテーア特課少尉≫


「んー? 全然、だいじょぶ、だよ。……枝、あいや、武器、ちょうだい」


≪ぁ……あぁ。…………異国の、初めて乗る機体だろうに……なんというか、すごいな≫


「んーん……基本パターン、【グリフュス】に、近い……ので、大丈夫、ですっ」


≪……む? …………あぁ、そうか。特課少尉の機体、帝国の鹵獲機という話だったか≫


「そう、ですっ。……なので、私、ちゃんと動ける、ので……簡単じゃない、よ?」


≪…………望むところだ≫



 特務開発課の建屋の前、もしかしなくても先程より観衆が増えている気がする屋外スペースにて、バカデカい木の枝を握りしめて向かい合う2機の機甲鎧……イーダミフくん操る青灰色の【アラウダ】と、私が借り受けた手枷付きの【グラウコス】。

 その手に握る武器は少々間が抜けていても、見上げんばかりの巨体が向き合っている様はそれなり以上に緊迫感がある。しかも片方は(鹵獲機の印が刻まれているとはいえ)敵国のものなのだから、尚更である。


 ……実際、主に後から観覧に来た人たちは、あからさまに【アラウダ】(イーダミフくん)のほうを応援しているようだ。

 ちくしょう、ずるいぞリーナくんめ。




≪えー、それでは……もう一度確認しマスね。相手方の機体に()()が触れたほうが勝ち。……いいデスね? では両者、構え!≫


≪…………っ!≫


「…………んっ」



 増えた観客にアピる好機と捉えたのだろうか。マノシアさんはわざわざ【リヨサガーラ】を駆り出し、広域拡声モードでルールを簡潔に説明する。

 私もイーダくんも、それぞれが機甲鎧で()を構え、審判の号令を今か今かと待ち構える。


 私は左半身を前に向け、()ごと右半身を若干後ろに引いた構え。

 一方のイーダくんは……肩ぐらいの高さで()を水平に、()先を相手に向けて持ち手を胸元に引き付けるような……『鍵の構え』というやつだろうか。

 あるいはシンプルに『直剣の構え』と表現すれば、伝わるひと(褪◯人)には伝わるのだろうか。


 ……くそう、なかなかカッコいいじゃないか、おのれリーナくんめ。ちゃんと真面目に学んでるのが伝わってくるぞ。



 なればこそ……なおのこと、手を抜くわけにはいかないよな。




≪――――始めっ!≫


≪ッ、はァ!!≫



 審判の号令とほぼ同時、イーダミフくん操る【アラウダ】は重心を前へと投げ出し、こちらへと勢いよく突っ込んでくる。

 空戦型でありながら、今はこうして地に足着けての戦闘機動。さすがに模擬戦闘で、地上目標(【グラウコス】)相手に空から仕掛けるほど空気読めないわけじゃないらしい。

 私が授けたといっても過言ではない、機甲鎧による『疾走』体勢……恐らくはそのまま()を突き出し、先手必勝で取りに来るのだろう。

 ……が、そこまで動きを見ていれば、大体どのへんが攻撃範囲なのかは(わか)ろうというものだ。


 私の構えは『棒立ち』にも見えるだろうし、お世辞にも素早く攻撃を繰り出すのは苦手だが……しかし少しだけ膝を曲げて腰を落としたこの体勢ならば、どの方向にも素早く動くことが出来る。

 ましてや……超人的な反射神経と『意思を嗅ぎ取る』魔法を備え、相手の動きを見てから対処出来てしまう私であれば、なおのこと。


 距離を詰めるべく駆け出し、()もろとも突っ込んでくる【アラウダ】……ならば私はその()を咄嗟に向けられぬ方向、彼にとっての左側面を取るべく、ほぼ同時に私も動く。

 お世辞にも素早いとは言い難い【グラウコス】の全身駆動部位を、パーツ単位で並列制御。力の伝達ロスを極限まで削ぎ落とし、必要とする結果のみを引き出し、最大効率で身体(機体)を動かしていく。


 左半身を向けていた【グラウコス】の重心を前へと投げ出し、背中と両脚の噴射器を思いっきり噴かし、そのまま前方へと運動ベクトルを一気に解き放てば……ほんの一瞬で、イーダミフくんの攻撃範囲の外へと回り込む。



≪…………な、っ!?≫


「ふふん」



 緩から急へ、ほんの一瞬。しかしその一瞬だけ、身体(機体)の限界を超えた速度で間合いから外れ、逃した獲物にたたらを踏むイーダミフくんの背後へ。


 必死に足を踏ん張り、リカバリーのため強引に転回を試みる【アラウダ】の、そのカッコいい胴体へと向けて。


 私は前へと投げ出した重心の勢いそのまま、加えて時計回りに『くるり』と横一回転スピンを決めるように、左から右へとバックハンド気味に()を振り抜き……一閃。




≪ヒット! 勝負あり!≫



 ぱしーんと小気味の良い音を響かせ、あっという間に勝敗が決する。

 時間にして、開始からわずか5秒そこら。ほんの一瞬のできごとであったがため、観覧客からしたら消化不良も良いところだろう。……というか「何が起こった?」的な感覚なのかもしれない。


 それこそ前の試合が、二人して()を打ち合っていた見ごたえのあるものだったため、尚のこと物足りないのだろう。



 そして、ここにも……色々と満足いかない貪欲な子が。



≪ぐ…………っ、くそッッ!≫


(くそとかうんちとか言っちゃだめだよ)


――――負けず嫌いだねぇ、イーダくんは。



 しかし……何度でも言うが、私は向上心のある子が好きだ。

 ましてやそれが身内であり、そして打たれれば打たれるだけ伸びる子なのであれば……なおのこと。




「……もっかい、やる? まー私つよい、ので? 結果、かわらない、おもう、けど?」


≪なァ、ッ!? …………くっそ、ッ……もう一回! もう一回だ!≫


(くそとかうんちとか言っちゃだめだよ)


――――そういうファオもうんちとか言っちゃだめだよ? イメージが『ばっちい』になっちゃうから。


(そんな、こんなにも清らかなのに)


――――自分で言っちゃう時点でもうだめ。


(ミ゛ッ)


≪…………では、二本目デス! 構え!≫




 回避力に自信がありすぎるあまり『見てから余裕でした』状態となっている私は、余程のことがなければ負けることは無いだろう。

 そんな私がイーダミフくんに挑まれる形で、その後も連戦を重ねること……しばし。


 闘争本能あふれるイーダミフくんのリトライは……回を重ねるごとに増していく【アラウダ】への声援を目の当たりにし、悪役(ヒール)たる【グラウコス】を駆る私のメンタルがボコボコのポヨポヨにされるまで、ねばり強く続いたのだった。



 ……まあ、駆けつけてくれたみんなが楽しんでくれたのなら……べつにそれでいいかなって。



 …………や、べつに泣いてないし?




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