080.枝だから結構しなるみたい
「い、いっぽんっ！ あっ、えっと……勝負あり！」
≪ッ、よし…………ッ！≫
≪ぐあー！ ちくしょォォ！！≫
最初は漠然と「パパッと勝敗決めちゃおうぜ」と思っていた、イーダミフくん対エーヤ先輩の一戦。
いやいやいや……はっきり言って、それなり以上に見ごたえのある模擬戦だった。
まあ確かに、剣術の試合とかでも実力者どうしの戦いはなかなかに盛り上がるもんな。こんなデッカい機甲鎧で剣術試合していれば……まぁ、こうなっても仕方ないだろう。
どこからか試合の話を聞きつけてか、特務開発課ほぼ総出で観戦していたらしい。
……なんか、皆とっても楽しんでくれてたみたいなので……これは、あれか。機甲鎧を使っての剣術試合、演目とか、見世物としてやるのもアリ……なのかもしれないな。
ちなみに今回の勝敗の判定だが、とっても明確。機体に『べシーン』てされたら負け。以上。
ヨーベヤ大森林産の巨大樹木の枝は、確かに硬いとはいえ程よい《《しなり》》がある。強めに『べシーン』されたところで【アラウダ】の装甲が削られるわけでもないので、訓練にはちょうど良い。
しかし、ちょっとだけ意外だった、というと本人には失礼なのかもしれないが……まあ歓喜の声と悲嘆の絶叫からわかるかもしれないが、勝者は機甲課のイーダミフくんだった。
この結果について、テアとふたりで勝因を高速解析してみたところ……『イーダミフくんが家庭的な事情で剣術が得意だった』『渡した枝の扱いやすさに差があった』あたりの要因が大きいのではないかと、そんな感じの結論が出た。
……うーん、枝のほうはな、正直なところ準備不足だった私達に非があるかもしれないけど……そのあたりの運や、状況把握も実力のうち、ってことで。
とにかく、今回の勝者はイーダミフくん。おめでとう、私が言うこと聞いてあげようじゃないか。
そしてそして……残念ながら負けてしまったエーヤ先輩には、次回以降の試合に備えて鍛錬をがんばってほしい。
≪……は？≫≪次回……？≫
「えっ？ あっ、えっと……今日だけ、じゃない、ので……継続的に、がんばって、ねっ？」
≪…………ちなみに、賞品ってぇか……その、ファオちゃんが『お願い聞いてくれる』のヤツって……≫
「？ ……うん、次回、も……毎回、ある、よ？」
≪≪……………………≫≫
――――――――――――――――――――
≪同志イーダミフ、コレはヤベェぞ。ホンット何考えてんだあの娘は（ひそひそ）≫
≪私が知るか！！ クソッ、何て奴だ……自分の影響力というモノが解ってないのか！？（ひそひそ）≫
≪負けたオレが言うのもナンだが……わかってるよな？ 信じてるぞ？（ひそひそ）≫
≪無論だ。当たり障りのない『お願い』で済ませるとも（ひそひそ）≫
≪さすがだ、恩に着る。……あの娘を野放しにするのは駄目だ、せめてココで、オレ達で食い止めるぞ（ひそひそ）≫
≪承知した。……直通回線終了≫
――――――――――――――――――――
「……ね、ねーえ、ふたり、とも？ ……イーダくん、お願い、私に……ない、の？ ねーえ……？」
だ、だから、その『スンッ……』て静かになるの、お願いだからやめてほしい。
せっかく私が、ふたりのモチベーションがアップするきっかけになればと、今後も技術を高めていってほしいからと『賞品』を提案したというのに……なのに、いきなり『スンッ……』てなってしまうのは、正直かなり不安なんだぞ。
……もしかして、まさかだけど……私なんかが『お願い聞いてあげる』と主張したところで、それが魅力だと感じてもらえていないのだろうか。
私にできることとか、コネクションとか、そのあたりが「ホントにできるんか？」と疑われている……ということなのだろうか。
≪あー、もう…………わかった。……クソっ、何て厄介な……≫
「い、イーダ、くん！ 私、命令して、なんでも……ねっ？ 私に――」
≪わかった！ わかったから！ …………ああもう！ ならばもう一度だフィアテーア特課少尉！ ひと試合、私とも手合わせ願おうか！≫
「……！ …………うん……うんっ！ いいよ！」
なんだ…………なんだなんだ、なんなんだイーダくん。可愛いところがあるじゃないか。
私へのお願いが、よりにもよって『自分と一戦交えたい』だなんて。私は向上心あふれるひとが大好きだし、私達と遊んでくれるひとも大好きだ。
そんなの……受けるに決まっている。なんならわざわざ『お願い』でなくても、ごはんを誘うノリで模擬戦誘ってくれてもいいんだよ。
…………いや、ちがうか。この場合……逆にごはん誘うほうが敷居高いかもな。もしかしなくてもな。
――――あっ、じゃあわたし抜きね。がんばってね。
（えっ？）
――――えっ？ いや、ちょっ、あの……「えっ？」じゃないでしょ、おばか。機体性能どんだけ離れてると思ってるの？ だってわたしだよ？
（あー…………そっか。そうだね）
――――そうそう。……さすがに性能も、あとリーチも違いすぎるし……なんか、目の前ひらひらされると、《《わたし》》が反射的に動いちゃいそう。
（それは困る。……まあたしかに、腕かなり長いもんね。そりゃ不公平か）
がーんだな、出鼻をくじかれた。
……となると、いったんエーヤ先輩に【アラウダ】を降りてもらうしかないのか。
せっかくのエキシビションマッチを特等席で見られないのはかわいそうだけど、でないとイーダくんがもっとかわいそうなことになってしまうからな。
なんなら先日の公開試験みたいに、【エルト】のキャビンで視覚映像を間借りして……いやいっそエーヤ先輩に【リヨサガーラ】を預けるのもアリか。うんぬんかんぬん。
……っとまぁ、そんなようなことをウンウン呻きながら考えていた私達だったが……奇しくも同じようなことを考えていた者が、なんと観覧者の中にも居たようで。
≪アー、アー……ファオ様、聞こえますか？≫
「えっ？ あっ、えっと……マノシア、さん？」
≪聞こえてるみたいデスね。……話は聞かせて頂きました、機甲鎧どうしの剣術試合……まぁ剣でなく木の枝デスが、是非ともファオ様に【グラウコス】をお預けしたいデス≫
「…………え、えっ？ そんっ、……あの、いいん、です、か？ マノシアさんの、愛機、じゃ……」
≪うーん……確かに管理責任者は私デスが、特に『愛機』というほど愛着あるわけでは無いデスので……≫
「あっ、（ッスゥーー）……なるほど？」
≪それよりも、興味あるのデスよ。……あの【グラウコス】を、ファオ様ならどれ程巧く操れるのか≫
「…………そういう、なら……楽しそう、ですっ！」
≪……私も、異存は無い。……宜しく頼む、フィアテーア特課少尉殿≫
「…………んう、っ！」
マノシアさんの申し出に私が頷きを返し、イーダミフくんの同意も得られたことで、前提条件は全てクリア。
本日これからこの場において、機甲鎧による近接模擬戦闘選手権……特別戦の開催が決まった。
ふふふ、特設会場（※ただの特務開発課格納庫前）のボルテージも最高潮、観客（※９割特務開発課員）の皆さんも楽しそうだ。
まー、見物客に関しては正直想定外だったが……主催者としてもうれしい限りである。
――――わほー。連邦国軍機と帝国軍機の試合じゃん、たのしそう。
（ちょ、ちょっ！？ もしかして私が悪役じゃない！？ やだ！！）
――――やだじゃないんだよ。やるって言ったでしょ、みんな楽しみにしてるんだよ？
（ぬゔァーーーー！）
ええい、やってやる。やってやりますとも。
不慣れな機体だろうと、私もカッコよく『ちゃんばら』して……機甲鎧の『剣術』普及の一手として、バシッと活用させてもらおうじゃありませんか。
