92 「コール・ミー・ダンサー」
はいこんにちは。
今回ご紹介する映画はこちら!
今回ははじめて、フィクションではなくノンフィクション、ドキュメンタリー作品をご紹介したいと思います。
〇「コール・ミー・ダンサー」(原題:「Call Me Dancer」)
2023年製作
監督:レスリー・シャンパイン / ピップ・ギルモア
出演:マニーシュ・チャウハン / イェフダ・マオール ほか
アメリカ 87分
こちらのエッセイは基本的に「RRR」とインド映画をご紹介するためのものですが、今回は製作地が「アメリカ」という記載になっています。
でも、光が当たっているのはインドの青年であり、その青年がインドの様々な問題を抱えつつもダンサーを目指していく姿を克明にとらえたものですので、是非こちらでと思った次第です。よろしかったらお付き合いくださいませ。
さてさて。
冒頭でも申し上げたとおり、この映画はドキュメンタリー。つまり実際の本人たちの姿をとらえて映画化したものです。
ダンサーとしては遅咲きの青年マニーシュ。ムンバイに住む彼は、最初はストリートダンスに興味をもち、独学で練習を始めたそうです。彼はとにかく練習の虫で、どんどん実力をつけていきます。
でも、両親はマニーシュがダンスをすることには反対していて、ちゃんと大学に通い普通の「稼げる」仕事に就くことを望んでいて……。
そもそも、あれだけインド映画で大きな位置を占めるダンスについて、この作品の中でマニーシュが「インドの人たちはダンスは女がするものだと思っている。仕事として稼げるものとは思われていない」等と紹介する場面があるのですが、これがまず意外でした。
マニーシュはその素晴らしい才能を見出され、ダンススクールへの入学を勧められますが、両親は大反対。それでも必死に通うことに。
往復に何時間もかかる遠い大学に通いながらダンスのレッスンを受けるマニーシュ。それだけでも相当大変なことですが、貧しい彼には必要なダンス・シューズさえなく。とあるレッスンではシューズが無ければ部屋に入ることすら許されず、困っていると、優しい先輩ダンサーが「僕の使い古しでよかったら」と渡してくれて、ようやくレッスンが受けられるようになったり……。
こうした、ありとあらゆる苦労と悩みを抱えながらも、マニーシュはひたむきに練習に没頭していきます。
ここで絶対に忘れてはならないのが、バレエを教えるイェフダ。かつて優秀なダンサーだった老年の男性ですが、この人がとんでもなく厳しく気難しい。若いダンサーたちをきつい言葉で叱咤する姿は、厳しすぎて観ているだけでもちょっとぞっとするほど。
でもマニーシュはこのイェフダによってバレエのすばらしさに目覚め、その魅力にとりつかれてしまいます。そうして彼の指導にぴたりとついていきます。
今日できなかったことは、今日のうちに復習してできるようになり、翌日にはイェフダに見せにくるんですが、それが完璧にできるようになっている、という。
この凄まじい努力の積み重ねによって、マニーシュは非常な短期間で驚異的な成長を遂げていくのでしたが……。
興味深かったのは、これがドキュメンタリーであることを突きつけられたある場面。
そう、数年前のあの病気、新型コロナの世界的な蔓延のシーンです。
それまで人でいっぱいで、ほとんどギュウギュウ詰めだったインドの通りに、ほとんど人が歩いていない映像。
いやもう、ほんと思い出してしまう。
あの頃のあの狂気と恐怖が迫ってくるようでした。
ドキュメンタリーのその後の展開についてはこれ以上は触れませんが、最後にふたつだけ。
さまざまな試練と抱えた悩みがありながらも、マニーシュの踊りは本当に、全編力強くて美しいです。あの踊りはぜひとも目に焼き付けてほしいなと思いました。
もうひとつは、大切な師であるイェフダとマニーシュとの深い関係。あんなに厳しい先生であったイェフダとマニーシュがどうなっていくのか、これは大変見ものだと思いました。
心からのさわやかな感動があります。心から、マニーシュをはじめとする恵まれない少年少女たちが努力する姿を応援したくなる作品。
ぜひぜひ、機会がありましたらご覧くださいませ。
ではでは、ドスティ!