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第6話

学園の門は馬鹿みたいに大きかった。

通学の生徒が馬車で通るのだから当たり前だろうけれど。

私はいつ家を出て一人で暮らしていけるようになっても大丈夫になりたくて寮暮らしを選び、寮に連れていける使用人は一人だけと決められていたので、男爵家から見習いとして来ていたシェリーを連れてきた。

見習いでメイドの作法などにも慣れないことをいいことにお父様達には内緒で一緒に手伝わせてもらって家事の勉強をして日々を過ごしている。

おかげで姉妹のように仲良くしてもらっているわ。


学園に入学してからの私は図書館に通い詰め、医学書から治癒術に関しての本を読み漁った。

前世では凄いと褒め囃していた人達も最終的にはお高くとまっていると私を蹴落とそうとありもしない噂を流されたりしたので、ほどほどに目立たない存在でいることを選んだ。

勉強も魔法の授業も一切手は抜かず学び、ほどほどの友人関係と放課後の図書館通い。

それが私の日常になった。


週に一度は家族に手紙を書き、1ヶ月目にルノー先生について訊ねた。

そうしたらルノー先生は私がいないのだから何かあったときの訪問医に戻し街で開業医として医院をまた構えたと知らされた。

家内の患者は私くらいしかいなかったしそれが妥当だろうが、少し寂しい。

もう、家に帰ってもルノー先生はいないんだ。

その知らせの手紙にルノー先生からの手紙も同封されていた。

ただ一言、頑張って勉学に励んでくださいとしか書かれていない手紙を大切に箱にしまって保存した。

医師になれたら同等の存在に認めてくださるかしら?


日々、ルノー先生に言われるまでもなく勉学に魔法に励んでいる。

その中で出来た友人というか、第四王子のロッソ王子とも懇意にさせていただいていた。

お互い放課後は大体図書館に居るせいで顔見知りになってしまったのだ。

「僕も第四王子なんて半端な立場だからね。城で文官になるか騎士になるかどこかへ婿養子にいくか……どうするか将来悩むね」

「大変ですわね」

なんて勉強をしながら軽口を叩けるくらいには親しくさせていただいている。

毎日図書館に通い詰めて勉強をするくらいなのだから文官に進むのだろう。

まあ、騎士として働くにしては線が細い方なのでその道で正解だと思う。

顔も美青年なので高位の貴族女生徒へアプローチをすれば婿養子にもなれるだろうが、それをしないことが答えだとしよう。

私も嫁ぐのではなく医師として生活するなら貴族籍から抜かれるでしょう。

お父様のお言葉からはそう察せられた。

平民としてやっていけるかしら?

……今から平民のお友達を作るのもいいかもしれないわ。

そして色々と教えていただきましょう。

でも、どうやって親しくなれば良いかしら?

私は仮にも今はまだ侯爵令嬢。

平民や下位貴族と軽々しく口をきけば他の高位貴族からなんと言われるやら。

前世のように足の引っ張り合いは貴族の世界では当たり前だから弱味は見せたくない。

考えていると、学園の生活でしばらく足が遠のいていた教会が思い出された。

そうだわ。教会の子達に教えてもらえばいいじゃない。

そして、出来れば学園の平民や下位貴族の方とも親しくなりましょう。

学園の平民や下位貴族相手には勉強会や作法などのマナーに関してのお茶会を教えるという名目で接するのもいいかもしれないわ。

そうと決めたら今度の休みは久々に教会へ行きましょう。


一人で今後の予定を決め、期待と不安を落ち着かせるようにスラスラと医学書を書き写しながらノートを書き進めるとロッソ王子に問われた。

「イリス嬢は医師になりたいのかい?」

「…王子も女の癖にと思われますか?」

突然の問いに身を固くして答えるとロッソ王子は首を横に振った。

「いいや。この国が遅れているくらいだ。隣国は女性が職に就くことを推進している。事実、女性の大臣もいるくらいだ」

「そうなのですね……」

隣国はこちらの国より発展していると聞くけれど、人権問題もだいぶ進んでいるようだ。

…家を放り出されたら隣国に行くのもいいかもしれない。

家を出た私は鳥籠から飛び去って無敵な気持ちになれた。

けれど、ここはまだ親の作った学園内という箱庭の中。

本当の自由はまだ遠い。

そもそも医師になることすらまだまだ遠い。学ぶことは多い。

「ロッソ王子は隣国と親交が深いのですか?」

ならば色々聞いておくのもいいかもしれない。

「そうだね、兄様達に着いて外交を学んだりしているし、少しくらいの伝ならあるよ。イリス嬢が隣国で医師になりたいというなら手伝えるくらいには」

「それは本当でしょうか?」

思わず顔を上げてロッソ王子を見る。

「ああ、本当だとも。少なくとも、勤勉な友人の役にくらいは立ちたいと思っているよ」

ロッソ王子のお言葉に感謝して頭を下げた。

「ご厚意、感謝しますわ。もし、その時が来たらよろしくお願い致します」

「ああ、もちろんだとも。そこでそんな友情の熱い友人のためにここの問題の解説を訊ねてもいいかい?」

ウィンクしてロッソ王子が問題集を差し出してきたので、そのチャーミングな様子に少し笑って解説をした。分かる範囲でよかったわ。

ロッソ王子も私が医師になりたいと言っても何も言わないどころか応援してくださる。

一人でも応援してくださる方がいらっしゃるというだけでとても心強いわ。


そうだわ。この学園には以前の『イリス・アイリスフォール』を知る人物はいない。

みんな『私』を見て『私』を評価してくださる。

ルノー先生みたいに。

『私』が『私』でいられる。


……ただ一人を除いて。


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