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第11話

翌朝、教室の自席に座り教科書を机の棚に入れようとすると紙が入っていることに気付きました。

取り出して綺麗に四つ折りにされた紙を開いてみると、綺麗な文字で放課後に裏庭で待っているとだけ書かれていました。

この字には見覚えがあります。

プリントを回収する時、幼少期の手紙のやり取りの時に何度も見てきたカレット様の字です。

……カレット様。今の『イリス・アイリスフォール』になる前のわたくしを知る人物。

何か気付かれたのかしら?

いいえ、関わり合ったのは幼少期のみ。

以前と違うと申されても成長したとシラを切り通すしかありませんわ。

けれど…こうして内密での話となると内容が気になりますわね。

早く放課後にならないかしら。

紙をノートに挟みちらりとカレット様を盗み見ると、目が合いました。

ああ、本当に早く放課後にならないかしら。


そして迎えた放課後。

わたくしは真っ直ぐ裏庭に訪れました。

…こうして考えると裏庭って範囲が広いですわね。どちらで待っておけばよろしいのかしら?

とりあえず立ち尽くしているのもなんですし、ベンチにでも座って待ちましょう。

しばらくするとすぐにカレット様が現れました。

「呼び出した側が待たせてしまい、すまない。当直だった事を忘れてしまっていたんだ…」

心底申し訳なさそうなカレット様を見ると怒る気も呆れる気もありません。

「そうですの。まぁ、とりあえずお座りになって。当直である事を忘れる程、わたくしに聞きたいこととはなんですの?」

わたくしが申し出ると同じベンチに一人分空けて座ってくださいました。

カレット様は最初は言いにくそうにしておりましたが、意を決したようにわたくしに向き合い尋ねてきました。

「庶民や下位貴族相手に茶会を開いて勉強会をしているとか。以前の君なら考えられないな」

「以前は以前。人は変わるものですわ。それに、カレット様が仰る以前とは幼少期の頃の事でしょう?わたくしも成長して考えが変わったのですわ」

中身が別人と変わったなんて口が裂けても言えませんけど。

「……昨日、一緒にカフェテリアに居た男性は?」

「幼少期に大変お世話になった主治医の先生ですわ。偶然お会いしたのでお話をさせていただきましたの」

ルノー先生のことを聞かれるのは予想外でしたわ。一体なんなんでしょう。

「主治医……その割には距離が近かったように感じるが」

本当に一体何なんですの?ルノー先生のことはカレット様には関係のない事ですわ。

「カレット様には関係のない事ですわ」

感情のままに淑女にあるまじき少々苛立ちを乗せて答えてしまいました。

「しかし、貴族子女ならば不用意に異性と二人きりになるべきではない」

「ロッソ王子とも放課後に勉強会しておりますわ」

「それはそうだが……」

先程から歯切れが悪いカレット様にいい加減苛立ちを覚えてきたわたくしはこの場から離れたくてさっさと図書館へ赴いて勉強をしようと決めました。

ベンチから立ち上がり、カレット様を見据え、周囲に人がいない事を確認してわたくしが決めた道を告げます。

「わたくしは第四学年になったら医学部に進級します。その際には卒業後、貴族籍から抜かれ市井に落ちることになっております。ですので、本当にカレット様がお気になさることではありませんの」

「な……」

「この事はまだ他言無用でお願い致します」

「……分かった」

カレット様はまだ何か言いたそうにしておりましたが、わたくしが先手を打ちカーテシーをしさっさと図書館へと向かいます。

「それでは、ごきげんよう」

「ああ……道中、お気を付けて」

カレット様は何かを考え込んでいたようでしたが、ロッソ王子以外に自身の道を他人に言ったのは初めての事でした。

不思議な高揚感があります。

まるで今から本当に医師になって人々のお役に立てるかのような。

まだ、何も習ってはいないのに言葉にすると勇気が出てきます。

「わたくしは、わたくしの道を、人生を歩んでいくのです」

今度こそ決意を込めて一人で口にします。

それがわたくしが決めた事ですもの。

やり遂げてみせますわ。



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