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第10話

しばらく嫌なことが続いたので休日に気分転換にと学園から出て街を散策していた時の事でした。

……いえ、心の底ではもしかしたら出会えるかもしれないと期待していなかったいえば嘘になります。

ですが、本当に出会ってしまうとどうしたらいいのか分からなくなってしまうのです。

「ルノー先生……」

道端で偶然出会って驚きのあまり挨拶も出来ずにいたわたくしにルノー先生はあの頃と変わらない微笑みで挨拶をしてくださいました。

「お久し振りです、イリス嬢。息災のようでなによりです」

「ごきげんよう、ルノー先生。はい、先生のおかげで元気に過ごしておりますわ」

ルノー先生の挨拶でなんとか気を取り戻しカーテシーをするとルノー先生が眩しそうに目を細められました。

「もう立派な淑女ですね」

「すべて先生のおかげですわ」

「そんなことはありません。すべてあなたの努力のおかげです」

ルノー先生に褒められた。それだけで日々の勉学や熟女教育も報われた気持ちになりました。

「……ご令嬢を立ち話させる訳にもいきませんね。もしイリス嬢にお時間がありましたらどこかのカフェテリアでお茶でもいかがでしょうか?積もる話もあるでしょう」

「時間なら大丈夫ですわ。それより、ルノー先生の方こそ大丈夫なのでしょうか?」

異性とカフェテリアに行くなんて初めての事ですし、もしルノー先生に懇意にされている女性がいたら誤解を招くかもしれません。

そこで先日女生徒達に囲まれた時のことを思い出しました。

あの時は無性にルノー先生にお会いしたかったけれど、実際にお会いするととても安心します。

『わたくし』を守れるのは『わたくし』だけですけれど、ルノー先生の側にいると安心感と気恥ずかしさで自分を守れなくなります。

平常心が保てない。

「僕の方は大丈夫ですよ。では、ケーキが美味しいと評判のお店にでも行ってみましょうか」

「はい」

わたくしの歩幅に合わせてゆっくり歩いてくださるその優しさだけで胸が熱くなります。

カフェテリアは評判になるだけあってとても美味しいケーキでした。

なによりルノー先生とお茶をするのは幼少期に母が教育のためにしてくださったお茶会以来です。

先生のお話はとても楽しく、わたくしは終始笑ってしまっておりました。

やはりルノー先生と居るのは心が穏やかになる。しばらく学園であったこともすぐに吹っ切れてまた頑張ろうと思えました。


カレット様がカフェテリアで談笑するわたくしとルノー先生を見掛けていたなんて知りもいませんでした。


「それでは、ごきげんよう。ルノー先生」

「ああ。さようなら、イリス嬢」

カフェテリアから出るとルノー先生は学園まで送ってくださいました。

わたくしは終始ふわふわとした優しい気持ちで学園の寮へと戻りました。

ルノー先生は不思議です。

いえ……本当は気付いているのです。

これが恋だと。

でも、きっとルノー先生には単なる元患者の一人。秘めておくべきでしょう。

そう思うと先程までの温かな気持ちから急激に冷めるのですが、お互いのためにその方がいいのですわ。

……ですが、わたくしが医師としてルノー先生と対等の立場になれたらこの想いだけでも告げても許されるでしょうか?

自室のベッドの上で淑女にあるまじき行動だと分かっていながら、わたくしはまくらを抱えてじたばたと遠い未来に想いを馳せました。



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