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戦中の虎  作者: 小城
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エピローグ

 この物語は、フィクションであり、実在の人物、団体、事件等とは、一切、関係ありません。

 ゴゴゴゴゴォ!!!

 

 轟音を立てて、山が崩れた。押し寄せた土砂が建物を破壊した。彼の僧正が建てた伏魔殿は、黄泉の穴と共に、地に埋まった。


「それ行け、皆の衆!!この戦に勝てば、儂は将軍ぞ。其方らには褒美をたんと出そうぞ!」

 西国に出陣していた魔王の軍団は、その司令官たる羽柴藤吉郎秀吉、自らの裏切りによって、崩壊した。

「良いのでございますか。上様。」

「良い。深く考えるな。」

「は。」

 出雲、日御碕の社では、時の将軍、足利義昭が宮司と共に、戦況を見守っていた。そして、その傍らには、旅から帰った小野三郎宗近の姿があった。


「やはり、貴方だったか。父上……。」

 同じ刻、東国でも、乱が起きていた。将軍の密命により、盟約を整えた諸大名の連合軍が大挙して、魔王の領地を襲った。同じように、北陸では、上杉が軍を起こして、魔王の軍へ総攻撃を仕掛けていた。

 駿河は押さえられ、連合軍の一部は、魔王の征東将軍、松平次郎三郎信康の拠る三河の岡崎に攻め上っていた。

「ひゃははは。父だと?空言を申すな。松平次郎三よ。儂は、竹の生人。国を追われた捨て人じゃよ。ひゃははは。やれ、志摩。」

「御免。」

 松平信康は、駿河の小領主、朝比奈志摩守に討たれたという。彼の志摩守は、もと、山里の領主であったが、魔王の軍が攻め寄せるに及び、姿を隠し、密かに、竹の生人の間者として、東国連合軍の形成に尽力したということだった。


「焼けているな。」

 東の空が赤くなっている。そこは安土の町であろう。各地の反乱の噂が広がり、魔王の領内でも、一揆が起こっていた。しかし、不思議なことに、安土には、魔王、織田信長がいるにも関わらず、誰一人として、乱の終息に乗り出す者はいなかった。かつては、あれほど、世の中を闇に変えた魔王の軍団は、それを統率する者もおらず、呆気ないほどに、脆く、崩れ去って行った。

「半蔵は?」

「あやつは、終ぞ姿を見せなかったわ。」

 琵琶湖上の隠れ家では、照姫、綾女、雲浄の三人が泥と血で汚れた衣類を着ながら暖を取っていた。

「山崩れは、半蔵の仕業か?」

 照姫の目は腫れていた。しかし、その気持ちは何故か、妙に晴れやかだった。

「そうじゃ。あやつ、一体、如何ほどの火薬を用いたのか……。」

 雲浄は傷だらけであった。彼は、照姫の失踪を知るやすぐに叡山に向かった。そこで、綾女に出会った。

「しかし、これで黄泉の穴は塞ぐことができた。」

 綾女も手に怪我をしていた。彼女は、叡山を探る途中、半蔵と出会った。そして、山を爆破する計画を聞かされた。

「然れど、亡者は、未だ健在じゃ。それに、あの天海という男も……。」

「心配いらぬ。」

 照姫は汚れた衣服を脱いだ。

「亡者はいずれ失せる。それに、明智十兵衛が甦ることはない。」

「何故、そう言い切れるのか。旭姫皇女よ。」

 綾女も衣服を脱いだ。

「鹿衛門が教えてくれた。我等、日御子の末裔には、亡者には成らぬ血が流れている。それを十兵衛にも喰わせた。やつが亡者となって、現れることはない。」

「ふむ。では、姫皇女様の血を、民草に飲ませていけば亡者になるのを防げると申されるのかな。」

 雲浄は目を閉じて、顔を伏せていた。彼の傍らには、もう倶利伽羅剣はなかった。あの不思議な剣は、戦いの最中に、何処かに行ってしまっていた。しかし、雲浄はそのことに、何ら残念な気持ちを持ってはいなかった。それよりも、返って、肩の荷が降りたような清々しささえも感じていた。

「それはその通りだが、すぐさま、そうすることもできぬ。」

「それは、どう言う……?」

 思わず雲浄が目を開けると、そこには、綺麗な青空と共に、照姫の白い素肌の背中に刻まれた太陽の刻印が映っていた。

「分からぬか。」

「いえ。」

 雲浄は平服した。

「雲浄鼎悔。其方に頼みがある。」

「は。」

「わたしに、ついて来てほしい。」

「姫皇女様の御心のままに御座いまする。」

「綾女。其方はどうか?」

 脱いだ上衣を裾に廻し、照姫は綾女の方を向いた。

「恐れながら、わたくしめはお断りさせて頂きまする。」

理由(わけ)はあるか?」

「は。某は、姓を捨て、これからは、ただの女人として、生きていきとうございます。」

「そうか。うれしいぞ。其方のその気持ち。」

「有難うございまする。」

「皆の者。今まで苦労を掛けた。大義を為せたのも、其方らのおかげだ。礼を言う。」

「は。」

 綾女と雲浄は共に、旭姫に向かって平服していた。その頭上には、今までよりも一段と、明るい太陽が昇っていた。

「(鹿衛門……。ありがとう。さよなら……。)」

 

 くしょん……!!


「姫様。早く衣を……。」

「……すまない。」

 三人は、皆、新しい衣を探した。そして、それは、これから始まるであろう新しい道のりに着ていく旅の衣でもあった。


終。

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