第6章~車を降りるとそこには
車を降りた基樹君は、すぐに異変に気付きました。
「うわっ~、何だこれは!」
「足元が何か変な感じがするぞ!」
…と、言って、泡を食って車に戻ってきました。
「おいっ!何か、足元がおかしいぞ!」
「今度はお前が外に行って来いよ!」
「あと、進君にも早く戻るように、近くまで行って呼んでこいよ!」
と、言うので、ぼくはダッシュボードの中にある懐中電灯を取り出し、車から降りました。
車から降りて懐中電灯で地面を照らしてみると、驚いた事に一面びっしりとピンク色をした芋虫が這っていました。
「進君!もういいから早く戻ってきてよ!」
「……………………」
何故か反応が無いので、ぼくは仕方なく進君のすぐ近く迄早足で行きました。
「呼んでんのに何でシカトするんだよ!」
「もういいから戻ってって言ったじゃないかよ!」
ぼくが、イラつきながらそう言うと、
「ゴメン、俺かなり近眼だから見えないとジーっと見ちゃうんだよね」
そう言って振り返ると、進君の両肩には芋虫が何匹も這っていました。
ぼくは即座に進君の肩に付いていた芋虫を払いました。
「肩に芋虫がくっ付いていたよ、今払ったけど…」
少し緊張が解けましたが、よく見ると進君の頭にも芋虫が5匹以上くっ付いていたので、
「進君!頭にも芋虫がくっ付いているから早く落として!」
…と、ぼくが急かすと、進君は大慌てで髪に付いた芋虫を両手で振り払いました。
進君の足の先が見えなくなっていたのは、地面いっぱいの芋虫が足の甲に這い上がって覆い被さっていたからで、既にズボンの裾の上まで這い上がっていました。
「おっ、おい、進君!」
「道路にもびっしり芋虫がいるぞ!」
「進君の足元にもかなり芋虫が乗り上げているから、落としてからすぐに車に戻って来いよ!」
…と、ぼくは大声で叫びました。
「うひゃ~、何だこりゃー!」
進君は身を震わせて、足元に大量にくっ付いていた芋虫を、何度も蹴り上げるように振り落とし車に戻ってきました。
ぼくの足元にも何匹か芋虫が這いあがっていたので、進君と同じ様に蹴り上げて振り落としました。
ぼくは、足元に注意しながら懐中電灯で辺りを照らしてみました。
すると、驚いた事に芋虫は地面だけでなく、ガードレールにも分厚くなるまでびっしりとくっ付いていました。
「うっ、うわ~!なっ、何だこれは!」
ぼくは怯えながら慌てて車に戻りました。
座席に着くとぼくは基樹君と進君に言いました。
「芋虫が身体にくっ付いているかどうか、チェックした方がいいぞ!」
「中には毒を持っている芋虫もいるから」
そして各々芋虫がくっ付いているかチェックすると、長く外にいた進君の足元にまだ2匹潜んでいたのです。
ウインドウを開けて、芋虫を手早く車外に放り投げると、こんな状態では登山どころではないのですぐに帰る事にしました。
「今回は残念だけど諦めよう」
ぼくがボソッと言うと、基樹君は黙って頷きました。
その時亜沙美さんは、後部座席で目を瞑って頭を下げたまま両手で耳を塞いでいました。