第1章~登山の最初に選んだ山は
平成のほんの初めの頃は景気も良く、物価は高かったですがお給料も全体的に高い感じでした。
そんな中、やれ海外に行っただのブランド品を買っただの、とにかく人に自慢する事がステータスだった頃でした。
当時大学生だったぼくも、人に何か自慢出来る事はないかといろいろ考えていました。
そんな中で、同じ学部の仲間から、富士山を登頂したら自慢出来るからと、登山に誘われました。
ぼくは登山経験があった訳ではりませんが、体力にはある程度自信があったので、その話に乗る事にしました。
ただ、いきなりそんな高い山に挑戦したところで、そうそう登れるものではありませんでした。
8合目付近になると、ただただ息が苦しく高山病にかかり、登頂を諦める方が多くいました。
僕らもその中の一員だったのですが、次回は何としても登頂して周りの人に自慢したいという思いだけはありました。
その為に、いろいろと試行錯誤して執念で登頂を目指しました。
素人が登山をするには、経験者と同行するのが一番だと思い、仲間を集めました。
そんな動機で始めた登山でしたが、登山道で行き交う方々と声を掛け合ったり、お茶を頂いたりと、人の温かみを感じる事が多くありました。
山の魅力は、登ってみないと分からないものでした。
皆様も、一緒に山に登っている感覚でお読みになって下さい。
それでは、第1章にお進み下さい。
当時、ぼくが大学生の時に、長い夏休みや他の休みもちょくちょくあったので、たまにクラスの仲間同士で車で山道を走りに行っていました。
車を出すのはぼくの役目で、ガソリン代や高速代は同乗者と割り勘していました。
日本地図を広げて、東京を起点にして今日はどっち方面を走ろうか?といった感じで、講義の合間は楽しんでいました。
そのうち、山道を車で走るだけじゃなく、実際に登山道から山に登ってみたいねっていう話になりました。
そうはいっても、昔から登山に興味があった訳ではなく、暇だから行こうといった感じでした。
山の知識は大してなかったので、最初にどの山に登ればいいのか見当もつきませんでした。
ある初夏の陽気の日に、友達の基樹君がいきなり、
「富士山に行ってみようぜ!」
と、言ってきました。
友達の勝也君は、
「富士山は皆が知っている山だし行ってみたいね」
と、乗り気でした。
それで、天気をある程度調べた上で、週末に富士山に行く事になりました。
その時の登山のメンバーは、基樹君と勝也君とぼくの3人でした。
富士山は御殿場口登山道から登る事になり、車で行ける最高地点の新5合目まで行く事になりました。
墨田区にあるぼくの実家から登山前日の夜に車で出発して、深夜の2時頃に富士山の御殿場口新5合目の駐車場に到着しました。
そこで朝6時迄車内で仮眠して、軽食を取ってからいよいよ登山を開始しました。
ゴツゴツとした砂利道で足元が悪い中、ぼくと基樹君が歩調を合わせて順調に7合目迄登っていきましたが、勝也君がその頃から遅れ出してきました。
それもその筈、この辺りから傾斜がきつくなり始めたからです。
勝也君を待つのに20分以上かかる時もありましたが、ぼくと基樹君は先を急ぎ過ぎないようにして、途中で焦らずに待っていました。
勝也君と合流する度に、更に10分間休憩しながら登っていきましたが、いつの間にか見失ってしまいました。
薄い霧がかかっている中で勝也君をじっと待っていると、今までは何とか登ってきていたのに30分経っても追い付いて来ないのです。
それどころか、辺りを見下ろしても勝也君の姿すら見えないのです。
あまりに遅いので一旦引き返したら、勝也君は他の登山者から貰ったおにぎりを、大きな石に腰掛けてゆっくりと食べていました。
それを見て流石にぼくと基樹君は憤慨しました。
こっちは足場の悪い登山道を地道に登っていたのに、勝手に食事を始めていたのと、勝也君のいる所まで戻ったせいでかなりの時間と体力を消費したからでした。
その後は、勝也君を先頭にして、休憩を多目に取るようにして登り直しました。
そんな感じでしたが、何とか3人が8合目まで辿り着けました。
しかし、8合目の空気はかなり薄く霧も濃くなってきました。
その周辺で、勝也君が高山病になりかけて、
「もう、ここで限界だ!俺1人でも下山する!」
と、言い出したので、その日は8合目で写真を撮ってから下山する事にしました。
ここまで来たのに勿体ないなとは思いましたが、けっこう疲れていたし、最初は欲張らずにここで引き返えそうという事になりました。
下山の際に砂利に足を取られて何度も滑り落ちたので、歩き方や斜面での重心の取り方等、学ぶ事が多くありました。
不用意に石を踏み付けると、そのまま崩れていく事があるので、体重をかけても平気そうな石を探す事が滑落防止になりました。
実際に、下山の時に何度か滑落したので、新5合目に戻った時は腕があちこち傷だらけでした。
新5合目の駐車場には、捻挫した登山者もいたので、初めての登山にしてはまあまあの出だしでした。
ただ、次回もこの登山道に行くなら、必ず登山杖が必要だと思いました。
下山の時ゴツゴツした石に足を乗せる時に、ベテランの登山者は杖を使って事前に乗っても安全そうな石を判別していたからでした。
あと、小石が何度も靴に入ってきたので、登山靴を買う事にしました。