立戸コロニー
広島県大竹市、世界遺産で有名な厳島神社から車で10分くらい行ったところにあるその町には今、猛威を振るう新型の爆悪ウィルスから逃れ、日本の全人口が身を潜めていた(フィクションです)。
この町には日本で唯一ウィルスが繁殖しない区域があるのだ。そこは立戸と呼ばれる界隈で、そこの地下に作られた巨大コロニーは「立戸コロニー」と呼ばれていた(そのまんまじゃん)。
ぎゅうぎゅうに詰め込まれた人間の中、青年と老人が会話をしている。
「僕は本格的SFが書きたかったんですよ」
青年が懐かしい昔を振り返るように言った。
老人は答えた。
「書けばいいんじゃね?」
「萩尾望都『銀の三角』みたいなのが書きたかったんです」
「だから書けよ」
「そんな簡単そうに言わないでくださいよ」
青年がフッと笑う。
「高度な科学知識がないとあんなものは書けません。適当な科学知識なんか入れようものなら賢い読者はすぐに見抜きますよ。そして攻撃されます。怖いんです。それに膨大な数のSF小説を読まれ、教養満ち溢れる萩尾望都さんだからああいうのが書けるんです。何より、難しくてなんのことだかさっぱり意味がわからないのに面白いんですよ。意味がわからないけど面白いんです。そんな凄いもの、簡単には書けませんよ」
「じゃあ、諦めればいいじゃん」
「はい、やめます。どうせ人類滅亡するし」
青年はたちどころに夢を諦めたのである。
青年の名前はシーココ・しげる。
老人が言った。
「おしっこみたいな名前やね」
青年が言った。
「よく言われます」