第81話 ラールド
男は立ち上がる。
「やっときたか。キャスリーン・ガルシア」
そのまま、ラールドは私に斬りかかってきた。
「っ!」
話し合いの余地もない……! って、まあ元々、話し合う気なんて更々ないんだけどね!
長期戦になると、絶対に力で押し負ける。だから、なるべく短期決戦に……しないと!
そう思っていたのも束の間、戦闘は長期に亘った。
私はラールドの剣に剣をぶつける。すると、ラールドは私の剣を弾き返してきた。
「わっ!」
私は後方に吹き飛んだ。
「リーン!」
「僕も加勢を……」
エフレイン様は、魔法が達者な人だったことを今になって思い出す。
そのまま、エフレイン様はラールドの足元にツルを生やした。
「今です!」
「はい……!」
そのまま、ラールドの首の近くに剣を突き立てる。
「ラールド! 観念しなさい!」
私は言う。
ラールドは、足と手を拘束されたまま、ため息をつく。
「……強くなったな、キャスリーン」
あれ……? この後、どうすればいいの? 殺すの? 見逃すのかな? どうしよう、どうすればいいのか、分からな……
「殺せ」
ラールドは言う。
「……え、」
「いいから、早く俺を殺せ」
ラールドは瞳を閉じる。まるで、今までこの結末を望んでいたかのような、満足げな顔で。
「……それは……」
すると、エフレイン様とカムレアがこちらにやってきた。
「早くそいつを殺してください! 貴女が殺さないなら僕が殺します!」
エフレイン様は憎しみに駆られたような表情で、手をかざす。
「そいつは兄様を殺したのよ!?」
美咲さんも叫ぶ。
「……リーン? どうしたんだい?」
「……そ、それは……」
すると、エフレイン様が懐に隠し持っていた短剣で、ラールドを刺した。
「これは兄様とお母様とお父様の痛みだ! 国民全員の痛みだ! 覚えて死んでくれ!」
エフレイン様は叫ぶ。
「……かんしゃ……す……る……」
ラールドは涙を流して息絶えた。幸せそうな顔をしている。
少し、重い沈黙が流れる。
「じゃあ……先を急ごうか……」
カムレアは、最後にラールドに『団長、ありがとうございました』とつぶやく。
「そのことなのですが、僕は魔力を使いすぎてしまったので、ここで休んでいます。おふたりは先をお急ぎください」
エフレイン様が言う。
「わたくしもここにいようかしら」
美咲さんも言う。
「わかりました。気をつけてください」
カムレアはそう言い、走り出す。
「リーン、行くよ」
「……うん、」
ラールド。国を裏切った、国が滅んだ原因の男。皆、憎んで当然の男。それなのに、戦場で裏切られて、私とカムレアが追い詰められたあの時も、一年後、アーノルドを見つけた城で出会った時も、あの時もあの時もあの時も……
多分、いつでも私は殺せた。今だって、本当は足元にツルが巻きついただけで足止めできるような相手ではなかった。それなのに……必ず、彼は私を殺さずに逃した。
『……もしも、わざと逃していたら?』そんな言葉が、私の脳裏にちらつく。一体、彼の目的は何だったのだろうか。それほどまでに、サルバドール国に心酔しているようにも見えなかったのに、国のためにここまでするような、彼の目的。きっと、何かがあったのだろう。
そんなことを考えながら、私とカムレアは走る。
城の最上階。その王座には暗い青色の髪をした男が座っていた。一種の美青年と言えるほどの若さだが、記録的に見ても40歳は超えているであろう。
「……」
こいつが、サルバドール国の国王、ワーリ・サルバドール!!
私は早速、鞘に手を当てて身構える。
そのまま、走って王座まで行き、ワーリの前に立ち、剣を振りかざす。
「たぁぁぁあっ!」
振り下ろそうとすると、目の前には、ワーリの前には……
なんと、カムレアが立ちはだかっていた。
「え、どういうこと……カムレア? そこをどいて……?」
すると、後ろにいる男は動じるわけでもなく、命乞いをするわけでもなく、ただ、静かに口を開いた。
「よく帰ったな、アイリス」
「っ!」
私の体に衝撃が走る。アイリス……? アイリスって……
あれはアーノルドが出張で剣闘場のあるあの街にやってきた時……
「『11代目国王 ワーリ・サルバドール
王妃 ●●●● ネリカ・サルバドール
子 ●●●● ハイド,マイド』
『第11代目の国王の最初の王妃とその子供、アイリスは追放済み』って書いてあったんだよ」
そう。たしか、あの時アーノルドが言っていた……
すると、私たちが走ってやってきた方から、一つの影が見えた。
「無事か!?」
アーノルドだった。どうやら、聖騎士を倒したようだ。
(あの揺れのおかげで、行方をくらますことができた……なんだったのかは分からんが、あれに感謝だな……)
「アーノルド!」
すると、アーノルドは状況を理解したようだ。
「な、なんで、お前が姉さんの前に立っているんだよ……何やってんだよ、お前!」
アーノルドは叫ぶ。
カムレアは俯いていて、何も喋らない。
「あ、アーノルド、『アイリス』ってさ、たしか……」
私は言う。言葉がうまく出てこない。嘘だよ、だって……
すると、王座の後ろから、女の人が出てきた。
「……! あ、貴女は……」
そこにいたのはカムレアの母親、イザベラだった。
「イザベラさん……なんで貴女がここに……」
今回でラールドとの決着がつきましたね。物語もあと少しですので、もう少し、お付き合いください。