第79話 禁忌
私とカムレアは走る。
「皆、無事だといいね……」
私は言う。
「そうだね、けど、今は自分のことだけを考えて。おそらく、この城に今日オレらが攻め込むだろうと考えて、王側は嘘の情報を流した……つまり、敵の総戦略は残っていると考えられる。……だからアイツが出てくる可能性が高い」
カムレアは言う。
すると、近くの部屋から『ドンドン!』と言う音が聞こえた。
「??」
「ちょっ、これって……?」
私は気になって、その部屋の扉を開けようとする。が、鍵が二つと南京錠がかかっているようで開かない。
「ちょっとリーン! 今、そんなことしている暇は……」
カムレアがやってくる。
「……これって、だいぶ念入りに鍵がかかっているね……」
「うん、だから、もしかしたら……」
そう喋っていると、また、『ドンドン!』と、今度はもっと強く、『自分はここにいるぞ!』と言う感じに何かを叩く音が聞こえた。
「……開けてみようか」
「うん、中にいる人〜! 危ないんで扉の近くからは離れてくださいね、『黒炎』!」
私の魔法で扉が全焼した。すると、目の前にいたのは、
「……え、エフレイン様……?」
***
「いやぁ〜、お久しぶりです、エフレイン様」
私は言う。
「生きていられてよかったです。ですが……まさか貴方がいらっしゃるなんて」
そう。アーノルドの弟、第三皇子のエフレイン・アークリーである。
「ええ、お久しぶりです、お二人とも。キャスリーン様は少し、以前に比べると明るくなられましたね」
エフレイン様は笑う。
「そ、そうですかね?」
たしかに、あの頃は気を詰めてたし、大変だったしなぁ……。
「ご無事でなによりです、エフレイン様」
カムレアも言う。
「で、今から私たちは裏切り者のラールドって言う人を倒しに行くから、手伝ってくれませんかね?」
私は言う。
「そうですね、もちろん僕も協力します」
「! ありがとうございます!」
「ですが、その前に……ミサ・アークリーを覚えておりますか?」
「はい……」
私はうなずく。
美咲さん……どうなっちゃったのかな……
「じつは……彼女もまだ生きているんです」
「! 本当ですか!?」
私は言う。
「ええ。場所を案内するので着いてきてください」
***
「美咲さん!」
「リーンちゃん!」
私たちは抱き合う。
「良かったです〜」
「心配したわよ〜」
「兄さんもありがと」
「ええ。心配しましたよ。ミサ」
「……わたくしはここで待っているわ。だって怖いし。だから……頑張ってね。キャスリーン!」
美咲さんは言い、壁にもたれかかる。
「……はい。無事でいてください」
***
「……ねえ、シルビィア。今代の聖騎士の中で最強と言われているじゃない。よく頑張ったじゃない」
グラウは言う。
「……うるせーぞ! ミルシア!」
シルビィアは叫ぶ。
「……ミルシア……そうなんだ。それが、『わたし』の名前。ミルシア・レーンワイズ……」
不思議な感覚だった。初めて聞く名前なのに、心に染み入るような、何かがあった。
「妹は死んでしまったのかしら……。貴女は妹の血筋の末裔。もちろん、知っているわよね?」
ミルシアはシルビィアの剣を受け流して言う。
「っ、ロディー様のお名前を汚すな!」
シルビィアは言う。
私の妹、ロディー。そっか、ロディーなんだ。
聖騎士団の隊長は、継ぐときに必ず、先代を殺す決まりがある。
「やはり死んでしまっているのね、200年前に」
「うるさいうるさいうるさい!」
シルビィアは叫び、剣を振り上げる。
「……懐かしいわね、その型。わたしも幼い頃は練習していたわ」
ミルシアは言う。
その時、矛盾に気づいた。なんで、わたしは幼い頃に練習したものを覚えているの……? もしかして、記憶が……戻ってきた……?
記憶が戻ったなら、わたしの魔法が消えるということ。ならば、不老不死の魔法も、もうすぐ消えるということね……。まあいいじゃない。元々、実の妹を殺したようなやつに居場所なんて、なかっ……
ミルシアの脳裏に、キャスリーンたちの姿が見えた。
「……っ!」
例え、もう燃え尽きる命だとしても、彼女たちの役に……
「わたし、今までずっと、記憶がなくなってからも、無意識に魔力を溜め込んでたの」
ミルシアは杖をかざす。
「……貴様!」
「ごめんね、ロディー。わたしを許してくれるかしら……いや、きっとだめね」
ミルシアは瞼を閉じる。
「……禁忌をここに……」
ああ、これで禁忌を犯すのは3回目。
「や、やめろ!」
シルビィアは言う。
「ごめんね。ここまで来て、もう引き下がることなどできないのよ。貴女もわたしも……。『slaughter』」
ミルシアは、花のような声で、静かにそう言った。
その瞬間、城全てを闇で覆い尽くすほどの大きさの穴が出てきた。
全てが落ちていく中で、
「……っ! 『ロード』!」
体が血にまみれた、可憐な少女のような老婆は、最後の道を残し、全てとともに、穴の底に落ちていった。
***
急に、城が揺れ始めて、私たちは足を止める。
「……これは!?」
私は叫ぶ。
「なにか……いや、落ちている!?」
カムレアは言う。
「ど、どう言うこと!?」
窓から下を覗くと、城の全てが黒いものに向かって、落ちていた。
「!?」
なにか、『絶対にあそこに落ちては行けない』という衝動に駆られる。
「どうしよう!?」
「とにかく、この城から出ないと、このまま落ちていくだけだ!」
私たちは城から出る方法を探す。
「窓からなら出れるよ!」
「でも、出た後、すぐに落ちるじゃないか。なにか、足場がないと……」
すると、奇跡のように、瞬きをした後、道ができた。
「……!? ちゃ、チャンスじゃないですか!」
エフレインは言う。
なにか、一瞬、綺麗な水色が見えた気がした。
「こ、れ、……もしかして、グラウが……」
「いいから、早く登るよ!」
カムレアが言葉を遮る。
「……っ、うん!」
私たちは窓から外に出て、道を登っていく。
頂上に着くと、大きな椅子にラールドが座っていた。
男は立ち上がり振り返る。
「やっときたか、キャスリーン・ガルシアよ」
次回は番外編の予定です。『番外編2 庭』の隣に投稿する予定なので、二章の番外編2のところをチェックしてください!