第78話 過去
今日から、実は挿絵をつけてみました! 第一話につけたので、ぜひ見てみてください!
「あと、出てきていない聖騎士団の隊長はシルビィア・レーンワイズだけだね。流石に2人出てきて残りの1人は出てこない……とかはないと思うから十分に警戒しておこう」
私は走りながら言う。
「あいつ……シルビィア・レーンワイズは聖騎士最強の人物だ。絶対にどこかで仕掛けてくると思うよ」
カムレアは言う。
「特に……」
カムレアはそのまま剣を後ろに振った。
「!」
そこには剣を振りかざしていた少女がいた。
「予想は的中! おめでとう☆」
と少女は言う。
「こう言う、汚い手を使うのはシルビィア。お前だけだ」
「ちぇ〜バレちゃったぁ〜」
私たちはすぐに間合いを取り、体制を立て直す。
この子供が……聖騎士団最強と名高いらしいシルビィア・レーンワイズ!?
「あは☆ お久しぶり!」
シルビィアは手を振る。
「……できれば、君とは会いたくなかったんだけどね……。さあ、グラウ! お前が相手をしてやれよ。な?」
カムレアは言う。
グラウは前に出る。
「その通りでございます。先に行ってください。コイツは我……いや、わたしが相手をします!」
「……っ、わかった……絶対に、気をつけてね!」
私たちは先を急ぐ。
「あっ! 待ってよ〜! ……ぶぅ……久しぶりにアイくんと話したかったのに……」
シルビィアは言う。
「アイくん……? ああ、カムレア様のことですね」
「カムレア様? なに? アイくん、いつからそんな名前になったの? おもしろーい!」
「…………っていうか、あの2人と一緒にわたしを倒さなくてよかったのぉ? アンタ1人じゃ勝てないでしょ」
「……は、そんなのはいいの。それよりも、身内の醜態を辞めさせないと!」
「あ、やっぱりアイくんとお話ししたい☆ 追いかっけろ〜☆」
シルビィアは2人を追いかけようとする。そこをグラウが、いや、ミルシア・レーンワイズが止めに入る。
「お前の相手はこのわたしです! シルビィア!」
グラウは言う。
「あ、お婆様〜☆ ……ちっ、めんどくせーな」
シルビィアは言う。
「何度も言っているでしょう、我が血族。貴女は間違った方向に進んでしまったのよ。だから、わたしが貴方にお仕置きをして差し上げます!」
グラウ……いや、ミルシアはそう言うと杖を出す。
「おい、クソババア! さっきからうるせーんだよ!」
シルビィアは大声で捲し立てる。
「……ああ、そうですね。貴女は……」
レーンワイズ家は代々女性が当主を継いでいる、この国の要塞の一つだった。
わたしには3つ下の妹がいた。優しくてとてもいい子だったが、この子には将来性があり、わたしは才能がなかった。
ただ、当主を継がせるのは、心優しいこの子には負担となるだろう。だから、わたしは訓練に明け暮れた。けれど、実際にお母様に言い渡された次期当主は……妹だった。
妹の心はどんどん、崩れていった。領地の善人たちを処刑することも、悪虐非道の犯人を殺すことも。戦争に駆り出されることも。ついには、発狂するようになってしまった。
わたしは、ただ、見ていることしか出来なかった。そんなある時、妹がお母様と妹の配偶者を殺した。もう、彼女は普通には戻れない。ただの獣だったのだ。
わたしは妹を閉じ込めた。毎日、毎日毎日、いつもいつもいつも、鉄の扉を叩く音がする。初めは力強かったその音も、次第に小さくなっていく。そして、1ヶ月経った時、その音は無くなった。
普通の人間が1ヶ月も生きているわけがない。彼女はやはり、もう、人間ではなかった。
そのまま、その屋敷は置いて行くことにした。使用人も、皆解雇した。唯一残った妹の死体をそのままに、わたしは、旅をすることに決めた。
旅を始めて一年経った頃。ある噂が耳に入ってきた。
『レーンワイズ家の次期当主が決まった』
『明日、戴冠式があるそうだ』
わたしは心底自分の耳を疑った。だってそんなはずはない。レーンワイズ家は滅んだ。わたし以外に残っているはずがない。わたしは明日あると言われていた戴冠式に向かった。
すると、本当にいたのだ。私によく似た顔をしている女とその娘が。
嘘だと思った。なにか、幻覚でも見ているのかと。だって妹はもう……。それに、娘なんていなかった。貴女の夫は、貴女が殺したのだから。
目があった。舞台の上に立っている妹と。そのまま、彼女は険しい顔をしてわたしの方にやってきた。そのまま、剣を振りかざす。
『殺される』けれど足が動かなかった。その時、ある魔女に助けられた。
「貴女、才能があるわね。……よし、私が魔法を教えてあげましょう」
そのまま、逃げながら彼女に魔法を教えてもらった。あの、憎しみに満ちた妹の顔は今でも忘れられない。レーンワイズ家は、今でも領地を脅かしているらしい。罪なき人をどれほど殺しても、まだ飽き足らないようだ。
そして、わたしの師匠も死んだ。とてもいい人だった。魔女と言われ、蔑まれても、決して人間を蔑ろにしない。むしろ愛していた。そんなわたしの師匠は、妹に殺されたのだった。
それを聞いて、わたしは、絶対に、どれほど時間がかかっても、『レーンワイズ家を皆殺しにする』と心に決めた。
今のわたしだと、妹には敵わない。だから、禁忌とされる、不老不死の魔法にも手を出した。
何年も何年も、修行を積み重ねて。強くなって強くなって……今は無理でも、いずれ。どれほど時間がかかっても、必ず根底から根絶やしにする、と。
禁忌の魔法に手を出した結果として、不老不死にはなったが、記憶が断片的になった。
自分の名前、妹の名前、それらはほぼ覚えていない。ただ、『レーンワイズ家を皆殺しにして、最後には自分も不老不死が解ける薬をかぶる』という明確な意思があった。
我は未来を見、全てを知った。このままでは、サルバドール国は滅びる。そして、レーンワイズ家は滅亡する。引き金となるのは『キャスリーン・ガルシア』。
だが、偽者の彼女はまだ、こちら側にはきていないらしい。仕方がないが、我が召喚するしかないだろう。
我はまた、禁忌を行い、違う世界から少女の魂を『キャスリーン・ガルシア』に移すことにした。
禁忌の為、150年ほどかかったが、やっと、こちらの世界に連れてくることに成功した。
それから少し経った頃。やっと、キャスリーンたちが北の森にやってきたのだ。初めて、わたしの目の前で喋る少女に、淡い期待を抱いた。
『ああ、やっと来たのね、キャスリーン・ガルシア』
ありがとうございました! 次は明日です!