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第72話 ブローチ

なんやかんやあって、2日後、私とローガンさんは旧王都の目の前までやってきた。


もう、ほぼが更地と化していて、残っている建物も焼けた跡があり、半壊していた。


あの、一瞬で全てが消し炭になった光景を思い出す。後ろに落ちていた少女の手を思い出す。


そこで、私は『______』と思った。


……思わず足がすくむ。顔がこわばる。ローガンさんはそんな私の様子に気づいたようで、

「大丈夫ですか……?」

と言った。


「はい、大丈夫です」

私は笑う。今はただ、とても()()()()()だけなのだ。


「そうならいいのですが……」

そのまま、私たちは旧王都を横切る。周りには誰もいなく、動物もいなく、ただそこに静寂があるようだった。


驚きを誤魔化すために下を向きながら歩く。その様子を、ローガンさんは心配そうに見ていたが、決して、何があったのかなど、聞いてはこなかった。


ところどころ、血の跡がある。出血してから逃げ回ったように引きずられた跡や、そのまま倒れたかのような跡まで……


きっと、今ここにアーノルドがいたら、彼はあの時を思い出して泣き叫ぶだろう。と、そう思った。彼は優しいのだ。


……先程、この惨劇を見た時、私は『ああ、()()()()()()()()()』と思った。


ただ、それだけの感情しか浮かんでこなかった。隣で心を痛め、涙を浮かべているローガンさんを横目で見る。


それだけの感情しか浮かんでこなかった自分に驚きを隠せなかったのだ。


『ああ、きっと、私はもう人ではない』


また、そう思ってしまった。やはり、私はもう、人の心など持ち合わせてはいない。怪物になってしまったのだ。


いつも、布団に入ると思い浮かべるのはこの光景。けれど、いつのまにか、この光景に慣れた自分がいた。そうだ。私は苦しんでいるフリをしていただけ。私は、もう…………




***





その日は旧王都を抜けた先にある町で宿を取った。その隣の街の最北端に私の生家、ガルシア邸がある。


次の日



私たちはガルシア邸の前までやってきた。懐かしい気持ちになる。どこか安心するような、そんな気持ちになった。


そのまま、ローガンさんを置いて、一人で森に入って行く。


____6年前、初めて入ったこの森で、私の運命は決まった。


「……久しぶり、いるんでしょ? 出てきてよ」

私は言う。すると、小さな光の粒が集まって、あの妖精へと形を変えた。


「久しぶりね、キャスリーン・ガルシア。アンタの旅、全て見ていたわ」

妖精は言う。


「そう……なら話が早くて助かる。私になぜ、ヒールの力がなくなったのかを教えて」


「ああ、そんなことも分かってなかったのね、いいわよ」

「端的に言えば、ズバリ、貴女とカムレア・ミルトレイは一度死んでいるの」

妖精は言う。


「私もカムレアも生きているけれど」

「アンタの方は察しが悪くて嫌になるわね……。だから、アンタたちは一度死んだの。ラールドに裏切られたと知ったあの時」


「……ラールドの配下に不意打ちで殺されて。それをアンタが残りの力を使って生き返らせたから、使えなくなったのよ」


「一度私たちが死んでいると仮定したとして一つ教えて。私たちを殺したのはラールドのはず……。本当に部下が不意打ちで殺したの?」

私は言う。


たしか私の記憶の中では、洞窟の中にはラールドと私たちしかいなかった。


「いや、それはないわよ。だってアタシ、見てたもの」

妖精は言う。

「そんな……、」


「ラールドはあなた達のことを生かそうとしていたの。でも、背後から兵士に刺されて、結局あなたたちは死んだのよね」


「え……」

おかしい。ラールドが私たちのことを生かそうとした……? 意味がわからない……


「……それで? あとは聞きたいこととかあるかしら」

妖精は言う。


「えっと……今までヒール以外の魔法が使えなかった私が、ヒールを失ってからは急に、他の魔法も使えるようになったでしょ? あれはなぜ?」


「え? それは知らないわ。アタシ、自分以外、誰も使えない技とか、使えないし。まあ、人間には使えない魔法とかはいくつかはあるけどね」


「異空間に閉じ込める魔法とか、全身を老婆にする魔法とか」


「?? え、じゃあなんで……」


「うるさいわね、考えるのは後にしてくれないかしら! それで、他は……あ、そうだ」


「?」


「あのさ、あんたがカムレア・ミルトレイと共に逃亡した時、たしか、ブローチを貰ったよね?」

(※24話参照)


「………………あ」

リーンは思い出した。たしか、カムレアと一緒に市場に出かけた時、宝石店にいた店主のお婆さんにブローチを渡されたのだ。


急いでカバンを確認すると、右側のポケットの中にそのブローチはあった。


「こ、これ……」

「そうよ。これ、アタシが渡したものなの」


「え?」

「アタシがわざわざお婆ちゃんに化けて、あんたに渡してあげたのよ! 今度会ったときに言って、驚かせてあげようと思ったけれど、なかなか会わないんだもの。言うのが遅くなってしまったわ……」


「えぇぇぇえ!?」


「それと、反逆軍が住処としている、あの村を異空間に閉じ込めてあげたのもアタシ」


「!?!?」


「あはは! 驚いてる驚いてる!」


「え、えぇ……」




***





「たしか、村を異空間に閉じ込めた人は長い茶髪だったってガルダさんは言っていましたけど……」


「あー、それはね、アリアナを真似たのよ」

「アリアナを!?」

「そう。届けてあげたブローチだって、本来ならばアリアナの物なんだから」


「そうだったんだ……」

「ええ、僅かに魔力が残っていたからね。わざわざ届けてあげたり、村を安全な場所に移してあげたり、アタシって、優しすぎない!?」


「ありがとうございます!!」


……そういえば、私をこちら側の世界に連れてきた人は一体誰なんだろう。なんの目的で、私を異世界に連れてきたの? 一体……




***




「遅くなってごめんなさい!ローガンさん!」

私は言う。


「いえいえ、大丈夫ですよ。用事は済みましたか?」

「はい! バッチリです!!」

ありがとうございました! 続きは明後日です!

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