第70話 人攫い
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リーンが宿に戻っていようと思った時、ふと、憲兵の顔が見えた。
「…………え?」
そこにいたのは、思い詰めた様子の、ライ兄と呼ばれていた青年とシリアくんと少女だった。
そう、全員、剣闘場でリーンが解放した少年少女だ。
「……うそ、なんであの3人が憲兵の服を着て、アイラさんを担いでいるの……?」
リーンは固まる。
『……貧しくても、幸せならいいのです』
少し、嫌な思いがよぎったリーンは3人を追うことにした。
(神様、お願い、お願いどうか……彼らが、自分の手を、真っ赤に染めていませんように……)
そのまま、真っ直ぐ3人は、剣闘場に向かって行く。
(……嫌、嫌嫌……!)
リーンは全てを理解してしまって、涙が溢れた。
「あぁ……そうだったんだ」
きっと、彼らは生活が貧しくて、食べるものがなくて、罪を犯してしまった。
もちろん、私も、お金がたくさんあるわけではないし、彼らが生きていける分のお金を分けてあげることもできない。だからせめて、罪を罪と気づかせてあげよう。と、そう思った。
リーンは3人の前に立ち塞がった。
「……貴女は……!」
ライ兄と呼ばれていた青年は驚いた顔をする。それと同時に、絶望したようにも見えた。自分だけでは、この少女には敵わないと悟ったのだろう。
「……なにを……なにをやっているの、貴方達は!」
リーンは叫ぶ。
「お姉ちゃん! やめて! おれはどうなってもいいから、この2人は見逃して!!」
シリアは泣き叫ぶ。
その様子に少し、心が揺れたリーンだったが、心を鬼にして言う。
「貴方達は人攫いをしようとしていたの。‘人攫い’は犯罪なの。だから貴方達を見逃すことなんて、できない……」
この様子だと、きっと、私が止めに入らなくても、いつかは捕っていただろう。そう遠くない未来に。だけど……この子達にはせめて、家族皆で仲良く暮らしていて欲しかった……。
「……少し、場所を移そうか」
***
「なんで人攫いなんかをしていたんだ?」
リーンは少し、強目の口調で言う。
「そっ、それは……」
シリアは口ごもる。
「お金が、必要なんです……」
ライが言う。
「……そう。じゃあ、私が貴方達を剣闘場から逃した後のことを聞かせてもらえるかしら」
「はい……」
(と言っても、まだ一週間しか経っていない。大丈夫よ、リーン。きっとまだ、彼らは……)
「まず、小さな空き家を見つけて、そこで住むことになりました。その時はまだ、剣闘場で見つけた、少ない賃金が残っていたので、普通にご飯を食べて、幸せだねって、言い合って暮らしていました」
「……そしてそんな生活が続いた3日目。『貧しくても幸せならいい』という、その考えが甘かったことを知りました。僕とフローアとシリアで買い物に行ったんです。帰ってきたら、大人たちが皆がいなくなっていました」
「理由は『空き家での勝手な滞在』だそうです。でも、子供の頃から教養のない僕たちはそんなこと、知らなくて……だから今、大人たちは城の中の牢屋にいます。開放するには3日分の滞在費が必要だそうですが、僕たちにはそんなお金もなくて、だから調べたんです。どうやったら、こんな子供でも稼げるか」
「そうしたら、『闇市で人を売って儲ける』というのを昨日聞いて、だから今日、早速この人を……」
「そう……なんだ……」
(普通なら、当たり前のことでも、この子達にとっては不思議なことだった……。外の世界なんて、わからないことだらけだったんだ……)
「おれたちも牢屋に入れるのか!?」
シリアは泣いている。
「……それは……」
「お願いだ! おれはいいから、2人は許してくれ! もう絶対にしないから! お願いだ……!」
シリアはリーンに訴える。
「……」
(私は……どうすれば……)
リーンも涙が出そうになる。
「話は聞かせてもらった」
と言う声がした。
「その声は……」
横に振り向くと、先程まで気絶していた、アイラが起きていた。
「アイラさん! 大丈夫ですか?」
「はい。礼を言います、リーン様。2度までも助けてもらうとは。ありがとうございます」
「はい……それより話って……?」
「この3人の処分についてです」
「……!」
3人は少し、アイラを睨みつける。
「君たち、僕の元で働くのはどうだ?」
「…………え? ええ!? 何言ってるんですか、アイラさん!!」
リーンは驚く。
「はは、まあ、そんなに驚かないでください。事情は聞きましたし、それに、僕が初めてなのでしょう? なら、僕が被害届を出さなかった場合、特に処分は降りません。なので、『見逃してあげる代わりに僕の元で働け』ということです」
アイラはリーンに説明する。
「……なるほど?」
「はい」
「だからお前たち、僕の元で働く気はあるか?」
「……はい! お願いします!」
3人はお辞儀をする。
「ああ、もちろん給料は出るし、寮付きだからな」
アイラは言う。
(アイラさんがいて、よかったぁ〜)
リーンはホッとする。
「では明日に僕達はここを去る。その時にお前たちも付いてくるといい」
「ありがとうございます!」
3人は言う。
***
「アイラさんって優しいね」
リーンは言う。
「そ、そうでしょうか……」
アイラはしどろもどろになりながら答える。
「うん! 私なんかより、よっぽどいい子だよ〜」
「そ、それは……」
アイラは困っているようだ。
「……あ、宿着いたね」
「はい」
「じゃあ、部屋戻るわ、おつかれ〜」
私たちはそれぞれ、部屋に入る。
「……お、お帰り、起きたら急に居ないから驚いたぞ」
少し前に起きた様子のアーノルドはこちらを向いて言う。
「……あんたねぇ……」
「?」
「なんでもないわ……」
「なんだよー」
「いいの! とりあえず、いつも早く起きなさい!」
これからもよろしくお願いします! 続きは明後日です!