第67話 報告
「アーノルドも大変だったんだね……」
「そうなんだよ! 皆、個性強すぎだろ!」
「あはは、……ってことは、さっき会ったアイラさんは、叛逆軍に引き入れが可能……?」
リーンは言う。
「ああ、そうなるかもしれないな」
「へぇ、……あれ、でも戦えないんだよね?」
「……うん……そこだよな……」
「じゃあやっぱ、村に居てもらうしかないかね〜」
「あ……それと」
アーノルドは呟く。
「なに?」
「俺が、人の目を盗んでこの国の王族名簿を見たときだ。その名簿の中に、こう書いてあった。
『第11代目国王 ワーリ・サルバドール
王妃 ●●●● ネリカ・サルバドール
子 ●●●● ハイド,マイド』
要するに、王妃と子の欄の一番初めの単語が塗りつぶされていたんだ」
「それは……」
絶対、なにか隠しているってことだよね?
「そして、さらにその下に、こう書いてあった。
『第11代目の国王の最初の王妃とその子供、アイリスは追放された』」
「ならきっと、塗りつぶされていたところには、その2人の名前が入るんだろうね」
リーンは言う。
「ああ。って、まあ、それだけなんだけどな」
アーノルドは言う。
「あはは」
たしかに、乙女ゲームの世界の中だと追放やらなんやらはそんなに珍しくないかも。参考程度に留めておこう。
「それと……」
アーノルドは夢の中で起きた、本当のようなことを話した。
「……へぇ、そうなんだ、」
リーンはゆっくりと頷く。
「だから、アイラは復讐がしたいって言ってた。たしかに、俺が見た光景は酷いものだった……けど……」
アーノルドは言う。
「……うん、アイラさんにまで復讐に染まって欲しくない、よね?」
リーンは言う。
「……ああ、」
(もしも、アイラさんが復讐を成し得なかった時。つまり、私たちが失敗した時。彼女はきっと後悔する。家族はどんな扱いを受けるか。容易に想像がつく。それに、私たちが成功しても、きっと……彼女は後悔する)
「なら、彼女の心を動かすような交渉をしないとね!」
リーンは笑う。
「……そんなこと、できるか?」
「おや、今日はいつになく弱気だね。……うん、もちろん、アーノルドならできるよ」
「……そう、かな……」
「うん、私も手伝ってあげるから!」
「……そうだな、ありがとう、姉さん」
「うん!」
「……姉さんの方も何があったか、気になる」
「うん、じゃあ、剣闘場の話から……」
***
「……へぇ、まさかカムレアと一緒に行動してたなんてな……」
アーノルドは言う。
「そうなの! リーンもめっちゃびっくりしちゃって、大変だったんだよねぇ……しかも、ラールドにも会うし……」
「ラールドに会った!? なんでそれを先に言わねぇんだよ!?」
「あ、えっと、あはは、忘れてたわ……」
「それに、新しい人が加わることになったと……だからこの街にいたんだな」
「うん、後2日何だよね……もしかして、私みたいに先に着いてたりするかもだけど」
リーンは言う。
「そうだな、だってそいつは憲兵に人を届けに行っただけなんだろ? とっくに帰ってきてる可能性もあるんじゃねぇか?」
「た、たしかに……でも、この街の中で1人の人を見つけるのは、だいぶ、骨が折れるなぁ……」
「やっぱそうだよな……人通りすげーし、じゃあ、やっぱり2日後を待つしかねぇな」
「だねー……」
そんなこんなで、お互いにあったことを報告していると、
『ガチャ』と言う音を立てて扉が開く。アイラが帰ってきたようだった。
「あ、おかえりなさいアイラさん」
「おつかれさん」
「ああ、ただいま帰還した」
(やっぱり、軍人さんみたいな喋り方だなぁ〜)
リーンは思う。
(ま、まあ、お兄さんが軍人? なのか……)
「そうだ、アイラさん、貴女、この国に復讐したいって本当?」
リーンは笑う。
「……っ! アーノルド! この御令嬢に、要らぬことを吹き込んだな!」
アイラは身構える。『このことを他言したら容赦しないぞ』と言うように。
「ああ、そんなに警戒しないでくださいよ……そっか、私、まだ貴女に名乗ってなかったっけ?」
リーンは言う。
「……どういう意味だ!」
「そのままの意味。……私の名前はキャスリーン・ガルシア。このお隣の国の元王妃です」
「……な、なにを言っているのだ! 嘘に決まっているだろう!?」
アイラは怒鳴る。
「まあ、そうなるよね……。ね、アーノルド、貴方も自己紹介、すれば?」
リーンは笑う。
「え、俺も正体明かすの? まだ言わないほうが……」
「いーから!」
「……はいはい、同じく元第二皇子、アーノルド・アークリーだ」
アーノルドは言う。
「……嘘だ! 何を言っているんだアル! 貴様はアルフィーという……」
「それは偽名なんだ、本名はアーノルド、な?」
「……証拠はあるのか!?」
「えっとね、なんかあったかな……まあ、信じられないならいいけど」
リーンは言う。
「あ、あれがあるじゃん、見せてやれよ」
アーノルドは言う。
「あれ? ……あー! あれね、ちょっと待って……」
リーンは魔法でガルダさんの村の家にある書物を出す。
(ふふふ、これぞ、最近編み出したド●えもんの四●元ポケット魔法!! 小さいものしか取り出せないけど、やっぱり便利だわ〜)
「これ、見て」
リーンはその書物のとあるページを素早く開くと、アイラに渡す。
「……これは……?」
すると、そこには写真とともにアルビノのような少女が写っていた。
「これが私。ここにちゃんと、『第一王妃 キャスリーン』って書いてありますよね? それにこの写真、顔、私でしょ?」
リーンは言う。
「……な……」
アイラは驚いているのか、声が出ていない。
「ついでに、これがアーノルドです」
リーンは指を指す。
「ついでにってなんだよ!?」
***
「……どう? 納得、しました?」
リーンは言う。
「……たしかに……貴女は隣国の王妃のようですね。非礼を詫びましょう。それなら一つ、お聞かせ願えないでしょうか」
アイラは丁寧な言葉遣いで言う。
「ええ、いいですよ」
「おい、俺に関しては何も言わないのかよ!」
「……貴女は、なぜ、生き残っているのですか? たしか、ラールドおじさまが……」
「ラールド!? 貴女、ラールドと知り合いなの?」
リーンは思わず大きな声で言う。
「? ええ、ラールドおじさまは、よく、父親が家に招いていました。彼と仲良くしておくといいことが起きるとか……」
(それって、ラールドの権力の関係上ってことだよね、アイラさんのお父さん、子供になんつーこと吹き込んでるのよ……)
「ああ、えっとね、私は逃げたの、ラールドから。だから、殺されてはいないの」
「そうなのですか、おじさまが、直々に王様に申し立てて、首までご用意しておられましたので、驚きました」
「そうなんですね」
(……おかしい。なんでラールドは私のことを逃したのに『殺した』と王に報告して、代わりの首まで用意したのだろう。ここで『逃した』と言えば、包囲網が敷かれ、私たちを捕らえるのは容易だったに違いない。おかしい。これではまるで……)
リーンの頭の中に不安がよぎった。
(……まっ、そんなことはあるわけないか……)
続きは明後日です!




