第64話 一人称
色々な事情で12時投稿となりました。ごめんなさい!
「……」
しばらく、沈黙が続いた。
「あのさ、少し質問してもいいか?」
アーノルドは言う。
「ああ。構わないが……」
アイラは言う。
「お前、アシヴァルの妹?」
「!? そうか、やはり気づいていたのだな! アタシのお兄様が聖騎士団の1番隊隊長だと!」
急にアイラは目を輝かせる。
どうやら、『いつでもお兄様のサインが欲しかったら貰ってきてやろう!』と盛大に自慢したのに、一向に頼まれる雰囲気がなかったことを気にしていたようだ。
「な、なんでお前、そんなに食い気味なんだよ……」
「い、いや! 別になんでもないぞ……」
「でさ、もしも大丈夫そうなら、お前たちの両親が死んだ日のこと、話してくれないか?」
アーノルドは言う。
「……わかった……。頑張ってみよう……」
そして、アイラが話したことは、やはり、アーノルドが見たあの夢と同じだった。
「……そ、それで……ワーリ王が……お母、さ、ま、を……」
アイラの手は震えだした。
「おい! もう話さなくていいぞ、大丈夫だ」
アーノルドは言う。
「あ、あ、」
アイラは目に涙を浮かべる。
「ごめんな、無理させて。でも、今度から無理なものは無理って、はっきり断るんだぞ」
そう言っている途中、アイラはアーノルドに抱きついた。
「!? ちょ、アイラ!?」
「嫌……嫌嫌嫌嫌!」
どうやら、今のアイラには周りが見えていないようだ。涙を流して理性を失っていると言うべきか。
「……全く……」
普段ならすぐにでも引き剥がそうとするアーノルドだが、今回は自分のせいなので、そのまま大人しく突っ立っていることにした。
「おい、大丈夫か?」
アーノルドがそう声をかけた時、アイラがやってきてから締めるのを忘れていた扉が勝手に開いた。
「あれ? 鍵空いてるじゃん……失礼す……るよ?」
そこにいたのはアシヴァルだった。驚いて固まっている。たしかに、仲良くなったばかりの友人に、妹が抱きついているところを目撃してしまったら、誰だって固まるだろう。
「あ、アシヴァル!? こ、これは! 違うんだぞ! おいアイラ! もういい加減済んだだろ、離れろ〜!」
アーノルドは言う。
「え? え? いや、え?」
アシヴァルはまだ、正常な思考を取り戻せていない。
「お、おい、アシヴァル……大丈夫か……?」
やっとアイラを引き剥がしたアーノルドは言う。
「……あー、いや、えっと……まって、君たちはどういう関係だい?」
アシヴァルは言う。
(まじか、濁すのかと思ってたけど、結構率直に聞いてきた!!)
「あ、いや、ただの仕事仲間というか……」
アーノルドは言う。
「ああ、僕の友人だよ」
アイラは泣いていたなんて微塵も思わせない微笑みをして言う。
(こいつ、もしかして兄にカッコ悪い姿を見せなくないとか思ってるんじゃないだろうな……)
(ん? 今こいつ、『僕』って言った……? 待った! どういうことだ!? 僕? 僕ってなんだよ!!)
アイラとアシヴァルの方を見ると、なんともそんなこと、聞きづらい雰囲気を醸し出している。
(どうする!? よくない考えが頭をよぎってしまった。もしかしてだけど……こいつ、男!?)
アーノルドがそんなことを必死に考えているうちに、アシヴァルは帰ってしまったようだった。
(嘘だろ……結構巨乳だなーって思ってたんだが……もしかして、布とか敷き詰めているだけ……? いや、それはそれでやばいやつじゃねぇか……)
「あれ? アシヴァルは?」
アーノルドは言う。
「なんか、邪魔しちゃ悪いって、苦笑いしながら帰っていったぞ」
アイラは言う。
「な!?」
(やっぱり、それってとてつもなく勘違いされてるってことじゃねーか!)
「なんでだろうか……」
とか言っているアイラを横目にアーノルドは考える。
(どうしよう……どうやって聞くべきだ……? デリケートな問題かもしれん。考えろ、考えろ俺!!)
「あのさ……」
アーノルドは言う。
「ん? どうしたんだ?」
「お前、さっきまで一人称、『アタシ』だったよな? なんで急に『僕』になったんだ……?」
「……あ」
急に、アイラの顔が真っ赤に染まる。
「『あ』?」
「あ、いや、その……実はだな、その……」
目がぐるぐるしている。俗に言う、テンパっているというやつだ。
「言いたくなかったらいいぞ、別に」
アーノルドは言う。
「あ、別に、そういうわけじゃ……」
「じゃあなんだよ?」
アーノルドは不思議そうに言う。
「い、いや、その、あの……」
「???」
「じ、実は! 女のアタシが僕なんて使っていたら、気持ちが悪いだろ……?」
アイラは目を伏せる。
(なんだ……そんなことか、たしかに『僕』って言わらたら最初は驚くよな……)
「別にいいんじゃねーの? たしかに最初はちょっと驚いたけど、気持ち悪いとは思わねーよ」
アーノルドは言う。
「そ、そうなのか……?」
アイラは聞く。
「ああ、全然。……そうだな、まだ抵抗があるなら、俺といる時は『僕』を使って、知らない人がいる時には『アタシ』とかを使えばいいんじゃねぇの?」
アーノルドは言う。
「……そうだな、ありがとう」
アイラは笑顔で言う。
「お、おう……それと、お前の一人称の件を知っているやつはどれぐらいいるんだ?」
「え、えっと、お兄様とユリアぐらいだろうか……」
アイラは手を頭に当てる。
「そ、そんなに少ないのか……じゃあ、改めてよろしくな、アイラ」
アーノルドは言う。
「ああ、よろしくたのむ」
アイラは微笑む。
***
夜 男性寮にて
(そういえばアシヴァルに誤解、解いてねぇ! ……まあいっか……)
***
今日はアイラの付き人をする日だ。アーノルドは朝ご飯を食べた後、アイラとユリアのいる部屋に向かった。
「あ、おはようございます。アルフィーさん!」
ユリアは資料を抱えながら言う。
(そういえば俺、アルフィーだったな……)
「おはようございます」
アーノルドもお辞儀する。
奥には椅子に座って足を組んでいるアイラがいた。
「げっ」
アーノルドは自然と声が出た。
「『げ』とはなんだ『げ』とは! 今日、お前は僕の付き人なんだからな!」
「お、おう……というか、付き人って言っても、今日お前何するんだよ……」
アーノルドは言う。
「それはな……ふふ、聞いて驚くがいい! 今日、僕は
視察に行くのだ! 出張だぞ!」
アイラは得意げに言う。
「初めての勤務で出張って……ってことは、資料管理室は誰が管理するんだよ」
「それはな、ユリアがやってくれる」
(それなら俺が資料管理室で勤務するから、ユリアさんに付き人を頼めばいいんじゃないですかね!?)
そんなことを考えたが、どうせ言っても聞かないだろうと口を閉ざす。
「よし、じゃあ行くぞ出張!!」
「おー」
はぁ、敵の内情を探るつもりが何やってんだか……。義姉様とカムレアは真面目にやっているんだろうに……ごめんな……
アーノルドの言う通り、その頃、リーンとカムレアは明日に来る騎士団への備えをしていたわけだが。
そんなこんなでアーノルドとアイラの三日に渡る出張が始まる!
明後日投稿です




