第61話 資料管理
1時間早めの投稿です、
__遡ること5日前の新王都
「そうだ、昨日の部屋の居心地、どうだった?」
女が言う。ユリアの方は、まだ来ていないようだ。
「っ、うるせーな、怖すぎて、結構眠れなかったんだよ……」
アーノルドは言う。
今は採用試験を受けてから1日が経った朝。合否を言い渡されるらしく、人事部の部屋に来させられたのだ。
(……あ、敬語忘れてた)
「ごめ……」
アーノルドが謝ろうとすると、
「あー、大丈夫だそ。アタシ、そっちのアンタの方が喋りやすいからな」
と言って笑った。
「……わかった。そういえばお前、名前は?」
アーノルドが言う。
「あー、言ってなかったっけ。アタシの名前はアイラ・ソレイア。……驚いたか?」
アイラは言う。
「お、おう、よろしくな、アイラ?」
(何で驚くんだ?)
「ふふ、まあいいけど……。お兄様のサインが欲しいならいつでも言うといい。アタシが頼んでやろう」
アイラは言う。
「お、おう……」
(アイラの兄がすごい人なのか……?)
すると、扉が開く。
「!?」
「おー、やっときたか」
「遅れてごめんなさい!!」
眼鏡をかけた少女、ユリアだ。走ってきたらしく、息を切らしている。
「じゃあ、ユリアが来たところで早速始めるが、アンタは採用する。それで、今日から、仕事に入ってもらうが、……うん。『死体処理と資料管理』か、『アタシの付き人』どっちがいいか?」
「……は?」
(ま、まて……義姉様たちの役に立ちたいなら断然、資料管理だろ……でも、死体処理もやらなきゃいけないの!? え……それならどう考えても、アイラの付き人やった方が……)
アーノルドは考える。
「……はっ、すまない。少々からかいすぎたようだ」
アイラは笑う。
「???」
「もう! あーちゃん、いいから本題に入って!」
ユリアは言う。
「死体処理っていうのは冗談だ。お前には、資料管理と付き人、両方を両立させてもらう。激務になるから覚悟しておけ」
アイラは笑う。
「……おう!」
***
「まずは、今日一日、3階の資料室で管理職をしてもらう。付き人が必要な時はアタシが事前に声をかけておくこととする。よいか?」
アイラは言う。
「お、おう……」
大変そうだけど、こんな新人に資料管理とか任せていいのか……? まあ、そっちの方が俺的にはありがたいんだけどな……。
「じゃあ、資料室の中に入ってください」
ユリアが言う。
そのまま、資料室の中に入ると、図書館のような場所であった。図書館との違いといえば、カウンター以外に、座るスペースがないことと、薄暗いところぐらいだろうか。
「ここで丸一日、ぼぅっとしてれば終わるから」
アイラは言う。
「はい。それで、たまにお偉いさんとかが資料を求めてやってくるから、その時に対応すればいいくらいですかね」
ユリアも言う。
「とりあえず、ここの資料についてはこのマニュアルに掲載されているから、よく見て、人が来たら、すぐに対応できるように。あと、ちゃんと資料があるかの確認もよろしく頼む」
そう言うと、2人は去って行った。俺は渡された鍵で扉を閉める。こうすることによって、なかなか入ってこれなくなるそうだ。ここに入りに来る人は、ノックを4回するらしいので、4回ノックが聞こえたら開ける。らしい。
「……難しそうだな、俺にできるか……?」
アーノルドは少し不安になりながらも、マニュアルに目を通す。
少し経ったあと、
「じゃあ、資料を漁るか」
ちゃんとスパイ(?)活動もしなければいけなかったことを思い出し、立ち上がる。
「えっと、歴史関連はこの列……」
そのまま、まずは王家の記録を手に取った。
ページをめくる。そして、今代の王の家系図までたどり着いた。
『第11代目国王 ワーリ・サルバドール
王妃 ●●●● ネリカ・サルバドール
子 ●●●● ハイド,マイド』
「な、なんだこれ……」
そう、王妃と子の欄の初めの単語が黒く塗りつぶされて、見えなくなっていたのだ。
その下には、続けてこうあった。
『備考 1代目の王妃とその子供アイリスは追放済み』
「アイリス……? この子がワーリと追放された王妃との間にはじめて生まれた子なのか……。そして、この子も追放された……と、この2人は、なんで追放されたんだろう」
その次のページには、今代の聖騎士団というのが記されていて、下にずらりと名前が並んでいた。
「なにこれ、聖騎士団……?」
「一番隊の隊長がアシヴァル・ソレイア、二番隊の隊長がヴァラン・シュリデン。三番隊の隊長がシルビィア・レーンワイズっていう人なのか。こんなにデカデカと書かれているってことは、すごい強い騎士団なのかもしれない……」
そんな時、ノックが4回なった。
『!』
アーノルドは急いで資料を棚にしまい、扉の鍵を開けた。
「はは! お邪魔するよ!」
そう言って、1人の男が入ってきた。甲冑を着ていて、とても大きい弓を背中に担いでいる、騎士のような男だった。
「は、はい……」
アーノルドは緊張のせいか、声が小さくなる。
「うん! 今、僕は極秘の武具についての資料を探しているんだけれど、どこにあるか知っているかい!?」
(……て、テンションが高ぇ……)
「は、はい。えっと、戦争関連の棚なので、……俺が取ってきます! 少々お待ちください!」
アーノルドはテンパりながらも、一生懸命に武具の資料を探した。
「あった! すみません、遅くなりました、こちらが武具についての資料でございます」
アーノルドは慣れない敬語を使いながら、探した資料を騎士のような男に手渡す。
「ほう! これが噂の資料か! ありがとう! あと、王室の内政についての資料も貰っていいかな? いやー、ハイネックに持ってこいと頼まれてしまってね……。人気者って大変だよねぇ〜」
男は笑っている。が、アーノルドの顔は笑っていない。
「は、はい……」
なんとかして探した内政の資料も手渡す。
「わぁ、ありがとう! それと……」
「!?」
(嘘だろ!? まだあるのかよ!)
「王室秘伝の料理の資料を! 女官さんが必要だって言うものだからねぇ……。あ、あと三冊あるから頑張ってね!」
「……は? お前さぁ、複数欲しい資料があったら、全部先に言うんだよ、普通は! お前あれだろ、世間知らずなボンボンだろ? ちゃんとしっかり、人の気持ち考えろ!」
これを口走ってから少し冷静になり、『やっちまった!』と思ったアーノルドは焦りだす。しかしこの騎士は俯いてしまい、何も話さない。
「あ、あの……」
「うん! いいね、君!」
騎士は顔を上げると笑っていた。
「…………は?」
「うん! 素晴らしい! そうやって、人にしっかり口答えできる君はとても素直でいい子だね!」
騎士は笑う。
(な、なんだこいつ……うぜぇ……)
「うん! 僕は君が気に入った! 名前はなんていうんだい!?」
騎士は言う。
「え、俺はアルフィーです……」
この国には昔、アルフィーという没落貴族が居たらしい。
「アルくんだね!? 僕はアシヴァル! シヴァルでいいよ!よろしく!」
「あー、うん……」
(……ん? アシヴァルってどっかで聞いたこと……)
「ま、いっか」
ありがとうございました! 次は明後日です!