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第54話 生姜

遅くなると言っておきながら、早くになってしまいました! ごめんなさい!

「……い、いた……!」

 この、くっっっそ広い土地を歩き回り始めて、早30分ぐらい。ようやく見つけたぜ!


 カムレアは、屋上の、大きい月の下で剣を振っていた。


「……」

 声をかけることさえ、憚られる(はばかられる)ような立居振る舞いに、思わず息を呑んだ。


 どうしよう……。近くに置いておくだけ置いておいて、先に戻っていようかな……。


 私はそう思い立ち、カムレアが剣を振り終えたら真っ先に視界に入りそうな位置にあるベンチを発見した。


 あ、あそこならいいかも!


 私はバレぬように、ゆっくりと、前屈みに進んでいく。そのまま、ベンチまでたどり着いて、後は置くだけになったその時、


「誰がいるのか!?」

 と言う声がした。


「っ!」


 誰の発した声か、一瞬分からなかった。そこにはカムレアしかいなかったのに。それだけ、今のカムレアは、なんというか、気迫に満ちていたのだ。


 カムレアを見る。すると、誰もを圧倒するであろう鋭い目でこちらを睨んでいた。


「……!」

 こんなに怖い顔をするカムレアを見たのは初めてだった。


「わ、私だよ……あはは」

 私は立ち上がってカムレアの前に出てみせる。


「……なんだ、リーンか。どうしたんだい?」

 カムレアは、いつもの雰囲気に戻って、ニコニコしだした。


「……あ、いや、頑張ってるっぽかったから、差し入れを……」

 私は寄ってきたカムレアに、先程作ったジンジャードリンクを手渡す。


「わぁ! これ、オレのために作ってくれたの? こんな夜遅くにわざわざ? ありがとう!」

 カムレアはにこりと笑う。


「……うん!」

 私もつられて笑顔になる。


「飲んでみて!」

「うん、ちょっと待ってね」

 カムレアはタオルで汗を拭くと私の手の中にあるジンジャードリンクを受け取る。


「じゃあ、いただきます」

 カムレアはそう言い、ごくごくとドリンクを飲んだ。


 ……あ、さっき、カムレアを探し回っていたから、あんまり冷たくなかなっているかも……。


「ど、どう?」

 私はおそるおそる聞く。


 つか、全部飲み終わってる!?


「うん、おいしいよ。ありがとう」

 カムレアは優しく微笑む。


「……! そ、そう? な、ならよかったけど……」


「あ、今、剣術の練習をしてたんだよね? なら、私が付き合ってあげてもいいよ?」

 私はにやりと笑う。


「……いいよ! じゃあ、お手合わせ願おうかな!」

「うん!」


 私たちは剣を構える。そのまま、剣を合わせた。

『ガチャン!』と言う音がなる。


「上手くなったんじゃない? リーン!」

 カムレアはそう言い、剣を振る。


「はは、そっちこそ!」

 私はかろうじてカムレアの太刀を避ける。




 ***




「はぁ〜づがれだ〜」

 私はベンチに座る。


「おつかれ、リーン。久しぶりに剣を振った割には感覚が鈍ってなくてよかったよ」

 カムレアも隣に座り笑う。


「う、うるさい!」

 私は反論する。 


「あ、もう、12時を回ったね」

 私は屋上にある大時計を見る。


「うん。それに、こんなに暗い夜に大きな月が目の前にあるんだ。とても……月が綺麗だね……」

 カムレアは少し微笑む。


「! ……う、うん……」

 お、落ち着くのよ、私! 月が綺麗とか、夏目漱石じゃないんだし、つーか、この時代の人たちは夏目漱石なんて知らないし! これは他意のない、ただの感想!


「そうだね、月、蒼くて綺麗……」

 私も言い、瞼を閉じた。


「……」

 少しして、私は瞼を開ける。

 いかん、寝落ちしていた……。流石に眠いよね。私はあくびをする。すると、肩に『とん』と思い何かが乗っかった。


「?」

 私は自分の左肩を見る。どうやら、カムレアが私の肩に頭を乗っけていたようだ。


「!?」

 びっくりして立ち上がろうと、してしまったが、

 あ、危ない危ない……。カムレアを起こしちゃうじゃん……。

 私は何とかこらえた。


 な、なんか、くすぐったい……。


 その時、少しカムレアの頭が動いた。

「……っ!」

 私の心が少しだけ、弾んだ気がした。




 ***




「……嘘だろ……」

 サペは、もぬけの殻となったカムレアのベッドを見てつぶやく。

(な、何があったんだ……。朝起きたら、二人の姿がないとか……。も、もしかして、二人一緒にどこかに行ってしまったとか!? あの二人ってやっぱり……!)


 すると扉が開いた。

(ノアたちだ! よかった、帰ってきた!)

 けれど、入ってきたのはナミとハズキだった。


(しまった! ハズキさんが来ちゃった! これを見たらきっと、悲しんでしまう……!)


「あ、の……サペさん? あの二人は……?」

 ハズキは言う。


「あ、それが……」


「なにが、あったんです?」


「……その、消えてましたね……」 

 サペは頭を掻く。


「か、駆け落ちとかかしら! きゃー!」

 ナミも驚いている。


(やめてあげて! ナミさん! ハズキさんの心を抉るだけだから!)

 サペは思う。


「そ、そうですね……」

 ハズキは言う。


「は、ハズキさん……?」

 サペはおそるおそる聞く。


「い、いや! 別に何でもないんです!」

 ハズキは誤魔化す。

(いや、誤魔化さなくてもいいんだよ! バレてるから!)

 サペは心の中でつっこむ。


「と、とりあえず探さないといけませんわね! 早くしませんと、朝食のお時間が過ぎてしまいますわ!」

 ナミは言う。


「そうだね! じゃあ、3人で分かれて探すしかないだろう!」

 サペは言う。


『おー!』




 ***




 ハズキは屋上に出る。

「……あ、いた……」

 目の前には、ベンチに座って寝ている、カムレアとリーンがいた。


「……あ、の……起きてください〜」

 2人を揺すり起こす。


「……ん……あ、ハズキさん。おはようございます!」

 リーンは起きる。


(あれ!? あ、そういえば、昨日はカムレアを探して……って、なんでこんな感じで寝てるの!?)

リーンは動揺する。


「……お、おはようございます……」

(レイラさん、相変わらず、可愛いなぁ……)

 ハズキは思う。


「おーい、カムレア〜起きてよ〜」

 リーンはカムレアを揺する。


「……? あの、“カムレア”とは、どなたのことですか?」

 ハズキは言う。


「……あ」

 リーンは気づく。そうだ。今のカムレアは“ノア”だった……!

(やっちゃった! やっばぁぁぁあ! どうしよう!)

ありがとうございました! 次は明後日に投稿です!

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