第51話 絶体絶命
遅くなってすみません!
「では、一週間後からは直々に騎士団の団員様たちから剣術を教わるいい機会だ。しっかりと備えるように!」
先生は言う。
「き、騎士団だって……?」
カムレアは呟く。
(サルバドール国の騎士団って言ったら、たしか、運営している上層部にはあの、ラールドがいたはずじゃないか!? ……と言うことは、ラールド直属の部下に素顔を晒すってこと!? むり、絶対に無理だ……!)
(ど、どうしよう……。とりあえず、リーンとアーノルド様に報告したい……! でも、アーノルド様はスパイとして潜入しているわけだし、余裕がないかもしれない。だとしたら、まずはリーンだね……。
かと言っても連絡手段がない。リーンからなら、遠隔魔法とかなんとかで通信が取れるはずだけど、オレからは連絡手段は皆無! これは、まずいんじゃ……)
***
寮内
「どうしよう……」
するとサペがカムレアに声をかけてきた。
「なあ、どうしたんだよ、ノア。何か悩み事か? さっきから、ずっと変だぞ?」
「ああ、いや、えっとね、あはは」
(どうしよう。ここで誤魔化すのはかえって逆効果かな……)
「……実はね、その、今日先生が来週から騎士団の人が来るって言っていたじゃん」
「ああ」
「自分的に、その、会うと気まずいっていうか……。そう! オレ実はね、どうしても剣術を学びたくて、家出をして、この学校にやって来たんだ。
けれど、俺の家は職業的に、騎士団と繋がりがあって、その騎士団の人に顔を見られたら、また連れ戻されてしまうかもしれないんだ……。君はどうすればいいと思うかい!?」
カムレアは訴える。
(よし! なんとなくだけれど、我ながらうまく嘘をつけた気がする!)
「そ、そんな……!」
サペはとても、衝撃を受けている。
(うっ、少し言いすぎたかな? 罪悪感が……)
「そんなの、ノアが可哀想じゃないか! 待ってろ!」
そういうと、サペは部屋を飛び出して行ってしまった。
「あ、ちょっと、サペくん!」
カムレアは追いかけて、部屋の外に出る。すると、目の前にまだ、サペがいた。本人的には走っているつもりなのかもしれないが、この速度はまさしく……
(おっそ! いや、普通に歩いている時の方が早いじゃん!)
すると、サペはこちらを振り向く。
「女子達は優等生だから、そういうの、詳しいとおもって、だから、彼女たちにも聞いてみようと……」
「ありがとう。じゃあ、オレも一緒に行くよ」
***
「そっ、そんな……。ノア様に、そんな過去があったなんて……!」
ハズキは泣いている。他の女子たちも涙目になっている。
「……黙っていてごめん」
(申し訳ない……! こんな嘘ついて、皆、すごい信じてくれたし! うわぁぁあ! オレの心の中の良心がチクチクと痛む!)
「それで、えっと、その、レイラさんって言う人に相談したいのですわね?」
ナミさんが確認する。
(ごめん、リーン。偽名使って)
「あ、うん。レイラはこういうの、詳しいから。ここだけの話、彼女、魔法使えるんだよね……」
『!』
「それって!」
「うん、すごいことだよね。だから、まず、彼女に事の発端を話したいんだ」
「なるほど……」
(魔法使えるって言うのはすごいけど、ノア様とその、レイラさん、どういう関係なんだろう……)
ハズキは思う。
(って、聞けるわけないんだけどね……)
***
「はぁ、はぁ、し、死ぬかと思った……」
オレは呟く。
「? どうしたんだい? ああ、あれか、決まらなかったからか……。ごめん、役に立たなくて……」
「い、いや、そんなことないよ!」
(そう。彼らと考えているとき、実際に、解決法を思いついたのだから)
「そう? まあいいや、じゃあ、ぼくは寝るね。おやすみ」
「うん、おやすみ」
(作戦はこうだ。
まず、あの、学校にあった購買。たしかあそこにあったはずだけれど……。そこに行って伝結晶を買う)
【伝結晶】 石(結晶)に喋った事を、届けたい人の
脳内に直接伝えることができる、優れも
のの魔法道具のこと。値段が高い割に一
度しか使えない(一度使うと爆発す
る)から、少し不人気。
要するに、電話のようなものである。
(そして、それを使ってガルダさんに言葉を伝える。
リーンではなく、ガルダさんに送るのは、ガルダさんにリーンをこの学校に連れてきてもらうから。だって、リーンにだけ連絡をしても、彼女は自分を転送できないわけだし、だいぶ、時間がかかると思ってね。
それで、リーンがこの学校に来たら、魔法か何かでオレの姿を変えてもらう。
よし! 作戦はバッチリだ!)
カムレアはベッドの上で仰向けになり、ガッツポーズをする。
(騎士団の人が来るのは来週からって聞いたけど、不足の事態も考えられるし、思い立ったが吉日だ! 明日から実行するぞ!)
そう。明日は待ちに待った土曜日。学生の皆は暇なのです。
(そういえば明日、休みかぁ……。ノア様を遊びに誘いたかったけれど、なんか、色々大変そうだし……。断念するしかないかなぁ)
ハズキはそんなことを思っていた。
***
カムレアは起きて、サペと朝食を取り、購買にやってきた。
「……すみません、店員さん。伝結晶って売っていますか?」
「はい。一つ、『ものすごい高い額!』です」
店員さんはニコリとして言った。
「……なっ、」
(よ、予想はしていたけれど、やっぱりものすごい高い額だ……! アレを使うしかないのか……!?)
そう。アレとは、グラウお手製のお金。つまり、偽……わっ、なにするやめr……である。
(どうしよう……でも、これは本当に一大事だもんね。申し訳ないけれど……)
カムレアは息を呑み、決意をする。
(ごめん、店員さん!)
そして、偽札を出そうとすると……。
「ああ、分割して払います? でしたら、1ヶ月に『普通に払える額』になります。12ヶ月に分割でどうでしょうか?」
「……! あ、ありがとうございます……」
カムレアは大事そうに綺麗な結晶を抱え、購買を出る。
(かっ、買えた……! 自分のお金で! よ、よかった〜さらに犯罪を重ねてしまうところだったよ……)
そして、あたりをキョロキョロする。
(なるべく、他人には聞かれなさそうな場所で……)
だが、こんなに綺麗な建物の中に、そんな場所はなかった。トイレには常に誰かが入っているし、よくありがちな旧校舎など、存在しない。
(……困った。こうなれば仕方ない!)
そう。校庭である。この広さなら、カムレアの姿は見えたとしても、至近距離にいかなければ声は聞こえない。
それに、ここはお遊びの学校なので、休日に校庭に出て、練習をしている人なんて言ったら、ほぼ皆無だ。
(まあ、授業の質はまあまあいいんだけどね……)
そのまま、校庭に出て門に近いほう。つまり、寮などから遠い方にある、小さな木の下に腰掛ける。
(ここならば……!)
「……えー、ガルダさん……ガルダさん。聞こえますか。カムレアです。緊急で、この学校にリーンを連れてきて欲しいのです。理由は聞きたくなるかも知れませんが、少し我慢していただいて、とりあえず、リーンを……」
すると、どこからともなく、よく、聞いたことのある、親しみなれた声がした。
「ほう? リーンがなんだと……?」
「っ!」
カムレアは振り向く。すると、
「……ラールド……」
カムレアは睨む。
「……いい目をするようになったな、カムレアよ。いや、『_____』と呼んだ方が良いか?」
ラールドはカムレアを見下ろしながら言い、鼻で笑う。
「っ……。その、名前は……」
カムレアは頭を押さえる。とても、痛かった。ずんずんと痛みが増していく。
「や、やめろ……! なんで、お前が、そんなこと……!」
「ほう? 知らなかったのか? 魔法が効かないという時点で、すでに俺は分かっていたがな……」
「……うるさい! だまれ、だまれ、黙れ……!」
両手で頭を掴む。痛い、痛い、痛い……。
そのまま、カムレアは倒れ込んだ。
ありがとうございました! 次は明後日です!