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第49話 サペ

 カムレアが剣の学校に来てから2日目。


「おーい、ノア〜。起きろよ〜」

 サペはカムレアを揺すり起こす。


「……ん」

 カムレアは目を覚ます。

「おはよう、リーン……」

 カムレアはとても眠そうに目をこする。


「……? リーン?」




 ***




「いや、本当にごめん! ただの勘違いなんだ!」

 カムレアは手を合わせる。


「あ、いや、まあいいぞ! ぼくのことを見間違うとは、そのリーンという女性、余程の美しさだな!」


(いや……。正直言って、リーンはそんなに太ってないよ。むしろ細い方……)

 カムレアは、声が喉から出かかったが、昨日のように怒ってしまうと思い、ぐっとこらえる。


「えっと、オレ、今日から授業受けるんだけど、いまいち行動が分からないから、君に付いて行っていいかな?」


「ふふ、いいとも! 器の広いぼくのことだ、喜んで許可しようとも!!」


「ありがとう!」


 まず、2人は朝食を食べることになった。ガヤガヤと、とても混んでいる食堂に行く。


「おはよう!」

 サペは女の子の前に出て言う。が、無視されてしまった。


 が、サペは全く気に留めずに他の人にも『おはよう』と声をかける。


「……サペくん……」

「ん? どうしたんだ、ノア」

「いや、良く挨拶できるなって」


(もしかして、サペくん、嫌われてたり、しない?)


「? 挨拶されないなんて、()()()()だろ? ぼくの家でもぼくは挨拶されなかったぞ?」


「! そ、それって、使用人とかにも挨拶されなかったってこと?」

「? もちろん」


「……」


(それは……オレの家もだいぶ特殊だと思っていたけれど、サペくんの家も特殊だな……)


「オレはちゃんと、挨拶するから! 大丈夫だよ!」

 カムレアは言う。


「う、うん……?」



 そのまま、2人は朝食を食べ終え、着替えてから1限の授業に向かった。


「おはよう、諸君! 今日から新しい仲間を紹介する! ノアだ!」

 いかにも熱血教師のような、ゴリゴリの脳筋先生がカムレアの背中を叩く。


「っ! あ、ノアです。皆よろしく」

 カムレアは笑う。


「やばっ!」

「美男子だわ!」

 体育座りしているクラスの人たちの端の方に固まっている5、6人の女の子たちが騒ぐ。


「おーい、静かにしろー。じゃあ、今から練習を始める」





 ***




(うーん。練習の内容はほぼ知っているような物だし、実戦もしないし模擬戦もしない。本当に、『かっこつけるだけの学校』という感じだなぁ……)


「1限はこれで終わりだ。2限は教室でやるから、先生が来る頃には、席に座っているように!」

 先生は大声で言い放つと、1人で館の中に入っていった。


 すると、『だっ!』と、クラスの女の子たちがカムレアの前に集まってきた。


「ねえねえ、ノア様!」

「は、はい?」

「ご趣味などは何かございまして?」


「そ、そうですね……。それこそ剣など、好きです」

 カムレアは笑う。

「!」


「の、ノア様、教室への行き方って、まだ分かっていませんよね? なら、私がお教えいたしますわ!」

「ずるい、私が行きますわ!」

「いえいえ私が!」


(ど、どうしよう……。睨み合いを始めてしまった……。あんなに仲が良さそうだったのに……。皆、仲良くすればいいのに……)


 すると、カムレアの目にはポツンとしているサペが映った。


「っ、ごめん! オレ、サペくんに案内してもらうから!」

 カムレアはそう言うと、サペの方に行った。


「あ! ノア様!」

 女子達は悲しそうだ。


「サペくん!」

「な、なんだよ、ノア……」

「教室、案内してくれない?」




 ***




「ノア様がサペなんかと仲がよろしいなんて……」

 教室に移動中、ナミさんが言う。


「ま、まあ、仕方ないじゃないですか」

 私はニコニコしながら言う。


「ですが、嫌われ者のサペですわよ!? あんなのと付き合っていたら、ノア様もすぐに嫌われてしまいますわ! ハズキさんもそうお思いではないですか?」

 ミハさんが言う。


 急に私の名前が出て、少しビクッとする。


「あ、そうですね……」




 なにか、モヤモヤするものがあった。


 元々、サペさんの親戚に当たる私は、お飾りだとしても、剣の学校に通うことになり、初対面だけれど親戚がいることに喜びを感じていた。不安はそんなになかった。


 けれど、実際に入学してからその心情は一変した。サペさんは虐められていたのだ。今こそ虐めは大人しくなったものの、当初はだいぶ酷いものだった。


 だから、私も嫌われてしまうと思い、必死で親戚だと言うことを隠して、有名貴族の娘のナミさんと仲良くして、身を守った。


『親戚だから』と言うわけではない。ただ、サペさんのことをそこまで悪く言っていいものかと考えてしまったのだ。いつも、心のどこかで罪悪感はあった。けれど辞めたいと思っていてもやめられなかった。嫌われるのが怖かったから。


 今でも言い出せない。そんな自分が情けなかった。





 ***




 翌日


「……お、おはよう」

 サペさんは相変わらず、懲りずに周りの人々に挨拶している。隣には、一昨日越してきたらしいノア様という方も一緒だ。皆はイケメンだって言うけれど、正直恋もしたことのない私には分からない。


 そして今日も、サペさんは、当たり前のように、そこには誰もいないかのように扱われていた。


「……」

 私は今日も何もできない。ただ友人と一緒に朝ごはんを食べながらサペさんの挨拶を横目で見ているだけ。


 すると、

「ねえ、君。()()()()()()()()? 今、サペくんが君に向かって、挨拶したよね?」

 と言う声が聞こえた。


「……え?」

 私は食べていたサラダから目を離して、声のした方に目を向ける。


 すると、ノア様が発した声だと分かった。

「……!」


「す、すみません!」

 サペさんの挨拶を無視した青年は謝って、そのまま飛ぶように逃げていった。


「はぁ、サペくんも、少しは嫌なことは嫌って言ったほうがいいよ? わかった?」

 ノア様は言う。


「あ、う、うん。ありがとう……」

 サペさんはあっけに取られている。


 私も、ここにいるクラスの皆が、ノア様に釘付けになった。今まで、誰もができなかったことを、ノア様は易々とやって見せたのだ。


「す……すごい!」

 私の胸が高鳴った。感銘を受けたのだ。


 私もあんな風になりたいと、そう思った。不意に、ノア様がかっこよく見えた。


ノア様のように、私もなりたい……!

次は明後日投稿です!

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