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第48話 傭兵と息子

遅くなってごめんなさい!

「さて、えっと、剣闘士がいるところを探さないと……」

 見ると、先程、戦っていたところ。ライ兄と呼ばれていた男の子のところに集まっているようだ。


 私は下に降りて、そこに行く。


『ライ兄』は倒れていた。気絶しているのだろう。

「あ、さっき助けてくれたお姉ちゃん!」

 先程の少年はこちらを指さす。


『ありがとう!』

 剣闘士達は言う。


「……うん」


 ……もしかして……少年って一人しかいないし、

「あの、貴方がシリア?」

 私は先程の少年に聞く。


「? ああ、なんでアンタ、おれの名前知ってるんだ? そうだよ。おれの名前な、よく、女と勘違いされるんだよ! 本当に迷惑だぜ!」

 少年は笑う。


「……そうなんだ」

 私は笑顔で言う。


「……まあいいや。とりあえず、あの傭兵はどうなったのか、アンタ知らないか? ライ兄を傷付けやがって! おれ、絶対に許さねぇ! ライ兄、このまま起きなかったら、どうしよう……」



「……あの傭兵、殺してやる……!」

 少年、シリアは激昂している。


「……」


「どうしたんだ?」

「いや、なんでも……」

 私は目を伏せる。どうしても、少年と目を合わせることができなかった。


 こんなの、傭兵さんの努力はどうなるの? 今まで、(息子)のために、嫌で、辛いことをたくさんしてきたんだよ?


 ……でも、実際に、傭兵さんが剣闘士をたくさん殺したのは事実なんだ。たとえ、どんな理由があっても、やってはいけないこと……。


 私はギュッと拳を握りしめた。

 大人の剣闘士たちの方に歩いていく。

「……あの、これから貴方達はどうするのですか?」


「ああ、きっと、ここにいる皆で暮らすでしょう。大人は総出で働いて。貧しくても、幸せならいいのです」

 男性は優しく笑う。


 不思議と、先程、傭兵さんが言っていたことを思い出した。

『幸せでした』


 私の頬を涙が流れる。そのことに、頬を触って気付いた。

「……あ、あぁ、」


「お、おい、どうしたんだよ、お姉ちゃん!」

 少年は聞く。


「……君たちは、きっと幸せになってね」

 私は笑う。


 すると、傭兵さんが降りてきた。

「っ! あいつ!」

 少年は険しい顔をする。


「……」

 私は少年の前に手を出す。

「! お姉ちゃん! なんでだよ!」

「ごめんね、私の顔に免じて、許してあげて欲しいの」


 すると、傭兵さんは近くまで来た。どうやら、少年には気づいていないようだ。まあ、産まれてからすぐ、会えなくなったのだ。気づかないのは普通なのかもしれない。


「……っ、結局、どうしたんですか?」

 私は出来るだけ平穏を装って言う。


 きっと、傭兵さんに気づかせても、少年はひどい言葉を浴びせるだろう。それなら、気付かせない方が、いいと思ったからだ。


「ああ、男爵は兵士に差し出すことにしました。やはり、もう、人は殺したくないと、思いまして」


「……そうですか」


 どうやら、剣闘士たちの方はライ兄が起きたので、このまま、違うところにいくようだ。


「それで……私の息子は……?」


「それが、すみません、見つけられなくて……」


 私は悲しそうな顔をする。

 すると、少年がこちらにやってきた。


「お姉ちゃん、ありがとう!」

「……ええ、どういたしまして……」


 本当に、少年が感謝すべきなのは私じゃないの……。本当は……。


 すると、後ろから少女の声が聞こえる。

「おーい、シリア! 置いていくわよ!」

「おー、分かった〜!」


 すると少年は、そのまま走って行ってしまった。

 私は傭兵さんの顔を見る。


 その顔は、兜で隠されていて、分からないが、不思議と表情はよく分かった。


「あ、の、追いかけなくていいのですか……?」


「……はい。きっと、私のことを知らない方が、シリアも幸せになれるでしょう。シリアが楽しく暮らせていけるのならば、私はそれで満足です」


 傭兵は優しい声でそう言った。


「私は彼の仲間を、家族を傷つけてしまったのですから」


 もう、シリアのことを息子とは呼ばなくなった傭兵さんは、全て、分かっているようだった。


 シリアが自分を嫌っていることも、あの剣闘士たちとシリアの間には家族ほどの絆があることも。


 だからきっと、今、傭兵さんが言った『家族』の中に、自分は含まれてはいないのだろう。


「そう、ですか……」


 なんと言葉をかけたらいいか分からなかった。ただ、立ち尽くす傭兵さんを見ていた。





 ***




 翌日


 私たちは剣闘場の前で落ち合った。

「では、私はこれから男爵を兵士に突き出してくるので」

「あれ、前から思ってたんですけど、男爵って罪に問われるのですか?」

「ああ、はい。彼は剣闘士たちのことを除いても、色々、悪いことをしていたので」




「リーン様はどうするのですか?」

「えっと、ある館に行こうと思っています。私にとって、思い入れのある屋敷でして」

「なるほど。……とてもいいですね」


傭兵さんは男爵を突き出した後、どうするのだろう。行く当てとか、ないんじゃないかな。


そんなことを聞こうと思ったが、口をつむぐ。



「……傭兵さん。今から私の言うことは、人を殺さないと決めた貴方にとって、とても酷なことだ。だから、受けるか受けないかは貴方の自由です」


「はい……」


「傭兵さん。……貴方も反逆軍に加わりませんか?」

 このことを言ったのは、彼がもし、嫌だと言っても、絶対に黙ってくれるだろうと踏んだからだ。


「……反逆軍、ですか?」

「……はい。貴方もこの国に辛いことをされた被害者ですので」


そう。傭兵さんもこの国の男爵に妻を殺され、息子を拐われた。この国を恨む動機には十分すぎるのではないか。


傭兵さんは考え込む。

「……すみません。少し、考えさせてください」


「ええ。いいですよ。なら……こうしましょう」

私は続ける。


「私はその館に行った後、この街に戻ってきます。そこで待ち合わせをしましょう。なので、その時に、貴方の考えを聞かせてください」

私は言う。


「……わかりました。リーン様はいつ頃、こちらに戻られますか?」

「……えっと、多分……」


この先、村が12個。1日に3つずつ歩いていければなぁって思っていたから……。今日を含めて着くまでに4日。そして、()で1日と、帰りが同じ分。


つまり……


「8日後……でしょうか」

まあ、間に合いそうになかったら、身体強化で走りまくればなんとか……。


「分かりました。では私は王都に行き、男爵を兵士に引き渡し、ここに滞在していましょう」


「……大丈夫ですか? お金あります?」

私は聞く。なんせ彼は、ずっと囚われの身というか、無償で身を粉にして働かされていたからだ。


「ああ、はい。少しずつですが、給料は貰っていたのです。それを全く使っていないので……」


「ならよかったです。では、私はもうそろそろ行きますね。ではまた、8日後に会いましょう!」


私たちは別れを済ませて、私は街を出た。

「さぁて、歩きますかぁ!」

次は明後日です!

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