表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/92

第46話 剣闘場

 私は小さな村の小さな宿で目を覚まし、朝食を食べた。


 さて、今日も先を急ぎたいところだけど、この村の1個先の大きい街に泊まらないと、次に宿があるのが3つ先の村になっちゃうんだよね……。


 1個先の街はすぐ着いちゃいそうだけど、流石に1日で3つの村とか街を越すのは難しいもんね。


「そうと決まれば、一個先の街、行きますかぁ!」

 私は地図をしまい、村を後にした。




 ***




 さて、んで、1個先の街に着いたわけだけど。どう言う訳か今、私は、剣闘場にいます。


 さっき、強引に客引きのおじさんに連れて行かされたんだよね。


「おい、嬢ちゃん! もうすぐ始まるぜ!」

 そのおじさんは席に座り、真ん中に構えてある舞台を見る。


いや、おじさん、客引きなのに観客席に居ていいの?


「……あ、本当だ。出てきましたね」

 私は言う。真っ黒な鎧を全身に纏った男と青年が、逆方向から、互いに剣を持って現れた。


 その途端、周りの観客席から歓声が鳴り響く。

『Fooooo!』


 ひぇ、テンション高いし、なんか怖いな……。あと、正直人を戦わせて、それを見るのの何が楽しいんだか。


 すると、


『うわぁぁあ!』

 と言う悲鳴が、下から聞こえた。これは剣闘士のいる舞台からではない。もっと下。地下からの声だった。


「……これは?」

 私は聞く。


「ああ、どうせ、剣闘士を罰しているのだろう。気にするな。それより、はじまるぞ!」

 いつのまにか酒を手にしたおじさんは叫ぶ。


「……ちょっとトイレ行ってきます」


「ん? おう」


 私は近くにあった階段を降りた。どうやら、先程の悲鳴が聞こえた地下に繋がっているようだ。


 階段を降りた先には、鉄格子つきの扉が一つ。鍵穴が二つもある。


 これは、流石に開けられない。どうしよう……。


 すると、前から兵士がやってきた。鉄格子の扉の内側だ。


「む! お客様、ここに勝手に入っては行けない決まりでして……」

 そう言う兵士の手には、拷問用具が置かれている。


「あら、間違えてしまいましたわ。……貴方、それ(拷問用具)で何をする気ですの?」

 私はこの剣闘場によく来るであろう、貴族のような喋り方で聞く。


「ああ、いえ、お客様に見られるなんて、お恥ずかしい限りですが……少し、言うことを聞かない奴隷(剣闘士)がいましてね」


「……そうですか。それは大変ですね……」

 私は笑顔で返す。


「ではすみません、失礼します。この後もぜひ、お楽しみ下さい」

 兵士はそう言うと、鉄格子の鍵穴に鍵を差し込み、扉を開けて、締めてから、私を通り越した。


 私は後ろを振り向き、その兵士に手をかざす。

「……すみません! 『イーフノース』!」

 イーフノースとは、ギリシャ語で眠るを意味するそうだ。


 え、なんでギリシャ語かって? なんか、グラウ曰く、『魔法の詠唱は、その土地の言葉が一番効果的なのです』って言ってたから、なんとなく調べておいたんだよね。よかった。


 すると、兵士は壁にもたれかかった。鍵が床に落ちる。


 私はそれを拾いかげて、鉄格子を開けた。

「……あ」

 この兵士の服を拝借しようと思っていたのだが、着替える場所もなし。ここで着替えるのは、ちょっとやだなぁ……。


「……」





 ***




 私は裸の兵士の体を近くにあった扉の奥に押し込める。ここは資料室のようなところだ。

 なんだかんだ、パッと着替えたお陰で誰も来なかったな。私は兵士姿で鉄格子の扉の中に入る。


 目深に被った銀色の兜のようなものの中に、髪を入れたため、短髪のように見える。もしかしたら男性に見えるかも。


 すると、薄暗く細い道を少し歩いたところに牢獄があった。牢獄の中には20人程度の人々がいる。


 どうやら、もう拷問は終わったようで、1人の男性がグッタリとしている。


「……大丈夫か?」

 私はあくまでも兵士として振る舞う。本当なら駆け寄りたいところだけれど。どこに監視の目があるか、わかったものじゃないし、旅の途中だから、下手こいて捕まりたくないし……。


 ああ、こういう時こそ、『ヒール』があったらなぁ。何食わぬ顔で、ここで倒れている男性の傷も治せたのに。


「ひっ!」

 男性は、そのまま後退りをした。怯えているようだ。


 うん、歩けるなら大丈夫だね。


 それにしても、服はボロボロの布を掛けただけの様な物で、手枷足枷をつけている。鞘を持っているのに、帯刀していないどころか、剣すら持っていないようだ。


 もしかして、いや、もしかしなくとも、この人たちが剣闘士……?


 よくよく目を凝らすと、牢獄の中には1人、まだ幼い少女がいた。暗い表情で座り込んでいる。膝下は傷だらけで、見ているだけでも痛々しい。


 ……酷い。あんな小さな子も戦わされているんだ。


 すると、『ガシャン』と言う鉄格子の扉の開く音がした。誰か来る!? 隠れなきゃじゃん!


 私が隠れる場所を探している間に、もう人がこちらにきてしまった。


 偉そうにちょび髭を生やしている、肥満気味の男性。くるみ割り人形の兵隊さんの服ににている服を着ている。横には豪華な金色の装飾のついた剣を差しているが、きっとお飾りなのだろう。どう見ても実戦で動けるような体ではない。横には兵士を一人連れていた。


 っていうか、どうしよう!? 絶対に怪しまれる……!


 すると、その男と目が合う。そして、

「見回りご苦労」

 とだけ言われた。


 あ、あれ……? あ、そういえば、兵士の服着てたんだった。忘れてた。

「はっ!」

 私は出来るだけ低い声でいい、敬礼する。


 その男は牢獄の前に立った。そして、隣にいる兵士に『開けろ』と命令している。


 すると、牢獄の中にいた20人程度の人々は外に出でくる。


「ああ、旦那様。もう少しでいいのです。もう少しだけ、食事の量を増やしてください!」

 一人の剣闘士が土下座する。


「もう、この子も限界なのです!」

 そう言った剣闘士の横には、痩せ細った少年が立っている。その子も剣闘士なのだろう。


「……ふん、ならば貴様の分をわかれば良かろう。いいか!? 私の金を、食料を! こんな小汚い者たちに少しでも割いているのだ! 普通ならありえない! ありがたいと思って食べるがいい!」

 旦那様と呼ばれた、そのちょび髭を生やした男は、そう言い放つと土下座した剣闘士の頭を踏みつける。


「……」


「は、はい。ありがとうございます……」


剣闘士たちは涙を流した。


 少しすると、気が済んだようで、その男はそのまま、出ていこうとする。が、足を止めて、こう言った。


「……次の猛獣と戦うのはフローア。貴様だ。しっかりと準備をしろ。喜ぶがいい。値段は少々張ったものを、貴様のために買ってやったのだ! 高価な猛獣に殺されるのを、楽しみにしておけ!」

 男は下品な笑い方をして、そのまま去っていった。


 男の横についていた兵士は、剣闘士たちを牢獄の中に押し込めて、鍵を閉めて、着いていった。


 牢獄の中で、先ほど指を指された少女、フローアは座り込んだ。

「……う、そ……」

 あの子はさっきの、膝下に凄い傷があった子だ。


「フローア……。おれが、変わる……から、」

 先程の、痩せ細った少年が言う。


「駄目。きっと、貴方が代わりに出たら、旦那様は貴方をお叱りになるわ」


「……それでも……!」


「それより! 私のお兄様を助けて……」

 少女は言う。

「きっと、私はもう病気だから、すぐに死んでしまう。けれど、お兄様は違うの! 優しくて、明るくて、とても強くて、皆の希望でしょう!?」

 少女は続けてそう言った。


「……そう、だよな。ライ兄も助けないと……!」

 少年は立ち上がる。


「おい、兵士! ここを開けろ!」

 少年は言う。


 私はすぐにでも開けたいけれど、どこで見られているか、分かったものじゃない。あくまで冷静に、


「……なぜだ?」

 と言った。


「言わなくてもわかるだろ! 今、ライ兄が、上の舞台で戦っているんだ! 戦っている人が元傭兵でアイツの右腕って言われている奴なんだ……。あんなの、ライ兄、殺されちゃうよ!」


「そうか、だが、貴様らが行ってもなんの助けにもならないだろう。……それでも行くの?」


「うるさいな! ライ兄が死ぬなら、おれ達もここで死んでやる!!」


 少年は叫ぶ。


「……ふふ、そう。君たちの覚悟、良くわかったわ」

 私は鉄格子の扉を開ける。


「おい! どこに行く気だ! 逃げるなよ!」


「うん、じゃあ、鍵はあげる」

 私はさっきの兵士から抜き取った鍵を牢獄の中に投げる。


「おい、なんの、つもりだ……?」

 少年は聞いた。

おはようございます! 今日は12時頃にもう1話、投稿するのでお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ