第45話 採用試験
1時間遅くなってすみません!
「……初めて来たな。新王都……」
アーノルドは王城を見上げる。
そう。ここ最近、サルバドール国は遷都したのだ。アーノルド達の祖国の王都であった、リーンに助けられたあの王都は、あの日、焼き払われたのだから。
(そう言えば、あそこはあそこで復興が進んでいるらしいな……)
アーノルドは城に入る。睨みを効かせた兵士たちが巡回している。
(……怖がるな俺。いつも皆に任せていたけど、俺だって強くなって、皆を守ろう)
拳を握り締めながら、突き進んだ。
王城3階の左から2番目の部屋。そこに入る。すると、女の人が二人いた。
「……ん? アンタだれ?」
頭をかきながら、軍服のようなものを着ている女の人が言う。
「こら、そんな言い方は行けませんよ」
立っている方。こちらも軍服を着ていて、資料を持っていて、眼鏡をかけている女の人がいる。
「俺は、この国の役に立ちたくて……」
「なるほど! 採用試験にお越しですね!」
眼鏡の人はずいっと前に出て言う。
(近い近い近い!)
「えっと、どの位のご出身ですかね?」
眼鏡の人は聞く。
「あ、一応、無名だが、貴族だ……です」
(危ないぞ! そう言えばリーンに、『多分、アーノルドの育ちの良さは行動を見れば分かっちゃうから、無理に嘘付かずに、適当なサルバドール国の貴族の名前を言っておけばなんとかなる!』って言われてたんだ……)
「そうですか! それでは、さっそく、面接をしたいと思いますので……少々、お待ちくださいね」
眼鏡の人はにこりとすると、部屋の外に出ていった。
「……」
(きっっっまず!)
そう。今この場にいるのは、ぐぅたらしている女の人とアーノルドだけ。彼女の方は無言で資料を読んでいる。
戸惑いながらも、アーノルドは端の方に行く。すると、彼女は口を開いた。
「……なぁ、お前。無名の貴族って言うの、嘘だろ」
「!」
(コイツ……!)
「ああ、いえ、俺の家は没落貴族でして。貴女方が知らないのも当然の貴族です……」
アーノルドは出来るだけ下手に出るように言った。
「……ふぅん、じゃあアンタ、名前を言ってみろよ」
(やっぱり、嘘を付いて、一応調べてきた貴族の名前を言うしかないか……。だが、簡単に元は取れてしまうわけだし、リスクは高いな……)
アーノルドは腹を括り、口を開いたその時。
「持ってきました〜! では、面接、始めましょう!」
扉が開き、眼鏡の人が入ってきた。
「……ん? どうされました? ……あ、もしかして、また、あーちゃんが変なこと言ったんですね!? ごめんなさい!」
眼鏡の人は謝る。
「え? あー、いや……」
「こら! あーちゃんも謝りなさい!」
眼鏡の人はもう1人の方の頭を押さえつける。
「痛い痛い! やめろ!」
「……もう。すみません!」
「あ、いえいえ、こちらこそ……」
***
結局、特技を見せたり、話したりして、面接は終わった。
「お疲れ様でしたぁ〜。明日ぐらいには合否を発表したいと思うので、明日までは王都に滞在していてもらえると嬉しいのですが……、大丈夫そうですか?」
眼鏡の人。もといユリアは言う。
「あ、はい、大丈夫です」
アーノルドは言う。
(そうは言ったものの、泊まる場所かぁ。ないな……)
「では、ありがとうございました。もう帰って結構です!」
「あ、ありがとうございました」
アーノルドは廊下に出る。
歩きながらアーノルドは、『敬語を使って会話ができた』と、誇らしげに思った。
(帰ったら、アイツらにも自慢してやろう!)
すると、
「待って」
と言う言葉が聞こえて、振り返る。すると、さっきの二人が出てきていた。
「? なんだ? 俺にまだ何か?」
(あ、やべ、敬語忘れてた)
「ああ、アンタ、まだ泊まるところ、決めてないでしょう?」
「あ、はい」
「なら、多分、アンタのスペックなら合格だろうし、1日早く、寮に入れてあげる」
ユリアではない方の人が言う。
「え、いいんですか?」
アーノルドは言う。
「……まあ、バレないようにすれば大丈夫?」
「! ありがとうございます!」
***
「って、なったのはいいんだが……。なんで女子寮なんだよ!?」
アーノルドは叫ぶ。
「え? だって、言ったじゃん。『バレないようにすれば』って。もちろん、アタシ達が男子寮に空き部屋があるとか、知ってるはずないだろう? だから、アンタの部屋はここ」
要約すると、アーノルドが今日泊まる部屋は女子寮の一人部屋。ちょうど、最近人が出て行って、空いていたんだとか。
「嫌だ嫌だ嫌だ! 俺、バレたらどうすればいいんだよ!? 女子寮に侵入して、そこで暮らしてたって言う、ただの変態になるだろう!?」
(こんなことがあったら二人に顔向けができねぇ!)
「はは、そんなのアタシ達は知らないよ。これからは自己責任で勝手にやってくれ」
「ちょっ、おい!」
眼鏡じゃない方の人はそのまま立ち去った。
「……えぇ」
すると、眼鏡の人のユリアが寄ってきた。
「す、すみません! 嫌ですよね、だってここ、独り身のお婆ちゃんが最近亡くなった部屋ですもの!」
「……まじ」
(それを君が言わなければ俺は知らなかったんだが!?)
アーノルドはつっこみたくなったが、グッと抑えた。
「それでなんですが、私の部屋に泊まります……?」
ユリアは言う。
「……は? 君さ、知らない男と一緒の部屋で生活をすると?」
「は、はい」
「やめとけ! あと、そういうこと、言わない方がいいぞ!」
「あ、え、は、はい!」
アーノルドはそのまま、その、今日泊まる予定の部屋の前に来てしまった。
「……」
(落ち着け……。大丈夫さ。幽霊なんて。きっと、大丈夫……)
おそるおそる中に入ると、綺麗な部屋が広がっていた。壁紙やベッドなども、新品のようだし、だいぶ綺麗ではないだろうか。
(いや、でも綺麗ってことは、取り替えたってことだから、血とか飛び散ってたんじゃないの!?)
そのまま、アーノルドは居心地の悪い1日を過ごした。
明後日はもしかしたら、2話とか投稿するかもです。