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第44話 剣の学校

「……ここが剣の学校……」

 カムレアは息を呑む。なんせ、学校らしい学校は初めてなのだ。


 そう、この建物は言うなれば愛媛県にある萬翠荘(ばんすいそう)のような、白くて綺麗な洋館だった。裏には大きな庭があるようで、素振りをしている人の声が聞こえる。


(噂には聞いていた『学校』。オレは今日から、そこに通うんだ……)

 少し、心が弾む。いつもの二人がいる時には絶対に見せないような、ニコニコした表情にウキウキとした足取りで、建物の中に入る。


「いらっしゃいませ、ノア様。紹介は『北の魔女』様から聞いております。私はヘンリー。ここの学園長のでございます」

 上物のタキシードを着た、40代ぐらいの男がカムレアを出迎えた。


 ちなみに、ノアとは、カムレアの偽名である。


「あ、ありがとうございます」

(グラウさん、顔広いな……まあ、伊達に何百年も生きてないってこと?)

 カムレアはそう思いながら、ヘンリーについて行った。 


「こちら、この学校の資料でございます。……うちの学校は全寮制なので、ノア様の部屋はこちらでございます。申し訳ありませんが、部屋の空きがなく、二人部屋となっておりますが……」


「ああ、全然大丈夫ですよ」


 カムレアはお辞儀をして、部屋の中に入った。すると、端と端にベッドと棚が置いているだけの、小さい簡素な部屋だった。


 右側のベッドには荷物が置いてあったため、もう一人の人の物だろう。


 カムレアは左側の棚の近くに荷物を置く。今は授業をやっているようだ。


「たしか、オレが参加するのは、明日からだよな……」

(今日は暇ってことか……)

 カムレアは立ち上がり、ふと、部屋を出て行く。この2ヶ月、ここで生活するのだから、地理に慣れておこうと思ったのだ。


「ここは寮の3階。寮の1階が食堂で、2、3階が生徒の住むところ。1階の一番右の渡り廊下から、教室などがある本館に行ける。また、本館の裏口からか、寮の1階の表口から校庭に出れる……」


 カムレアはさっき、ヘンリーから貰った資料を見る。


(ややこしいな……! とりあえず、食堂に顔を出してみよう)


 カムレアは1階に降りた。すると、そこには白衣を着た中年の女性たちが縦横無尽に動いていた。ある人は大きい鍋を持ち、ある人は食器を持ち、あたふたと動いている。


「……凄い活気だ……」


 一人の人と目が合う。

「おや、ごめんね、また18時に来てね」

 その人はそう言って、大きな鍋を抱えたまま、厨房に入っていった。


(も、もしかして、ただお腹が減って、時間より遥か前に来た人、食地が張った人って勘違いされた……?)


 カムレアは恥ずかしくなって赤くなる。


(も、もういいや……。次に行こう……)


 そのまま、渡り廊下を歩いていると、校庭で練習している人たちが目に写った。


 皆、剣を手に持って、汗を流して、必死に剣を打ち合っていた。


「……」


 その時、カムレアを『ゾワッ』とした感覚が襲った。


(……早く剣を振りたい……!)

 カムレアは息を呑み、腰の剣に手を置く。


「……!」

(だめだ。明日からだから、我慢しないと……)

 そそくさと廊下を渡り終えて、本館に着く。


 1階は更衣室とシャワールームが男女別である。

(女の子もいるんだ。剣の学校だし、てっきり男だけかと……)

 すると、頭の中にリーンの顔が浮かぶ。


(リーンも連れてきてあげればよかったかなぁ)


 そのまま、2階に上がる。今度は教室があった。ちょっとした購買もある。


(購買って書いてある看板がある! 入ってみよう!)

 購買に入ると、カムレアが望んでいた様なお菓子やらジュースやらではなく、剣や鞘や手入れ道具などが売っているような物だった。


(……思ってたのと違う)

 そのまま、売っている1つの剣を手に取る。装飾が綺麗で、優雅な貴族の息子とかが好きそうな、かっこいいやつだ。


「……この剣はダメだな。よく研磨されていない。こんなの、実戦で使ったら、すぐに折れてしまう……」


 ふと、値段の書いてある札を見る。


「!?」

(たっっっっか!? うそ、こんなに高いの……?)

 カムレアはおそるおそる剣を元に戻す。


(そうか、お金持ちの息子とか、実戦をしない子供をターゲットにしているから、実戦で使い物にならなくても誰もわからないし、こんなに高くても皆、疑わずにお金を出してしまうということか……)


(これは、生徒の質も伺えるなぁ……)


 少し、不安になってきたカムレアは、購買の外に出た。




 ***




 カムレアの不安は、きっと的中したのだろう。部屋に戻ると、もう1人の生徒が戻ってきていたのだ。


 中背中肉の青年。服と剣だけは妙に豪華で、高そうな戦闘着だがあまり動けなさそうな青年である。


「おう、君がボクのルームメイトか。よろしくな。ボクはナミルシア=クラシアン=ミヤリア=サペンダーだ。サペと呼んでくれ。男爵の息子だ!」

 彼は手を差し出してきた。


(名前なっが……)


「うん。よろしく。オレはノア」

 カムレアは差し出された手を握り、握手をする。


「ふーん、君、平民だね。その剣も、()()()()()()()()()()()()()()()()。新入生が明日から来ると聞いて、少し期待もしたのだけれど。流石にボクのお眼鏡に敵う相手ではなかったかな!」


 サペは自慢げに語る。


(……なんだコイツ)


 そう。カムレアが怒るのも当然。この剣はシンプル故の使いやすさと、毎日の整備をして維持している、最高峰の使いやすさを誇る剣なのだ。


 しかも、カムレアの父親からの最初で最後のプレゼントなのだ。


「……は?」

 カムレアは聞き返す。


「……ひ! ……所詮は下民だな!」

 サペは恐れつつも反論する。


「…….チッ、そこまで吠えるなら、明日の授業が終わった後、この剣でお前をボロボロにしてやるよ」


「……は、はは」

 サペは顔が引きつっている。




 ***



 夜


 カムレアはベッドの中に入る。

「……」


(い、言い過ぎちゃったー!! ど、どうしよう。サペ君、怒ってないかな……? ちゃんと謝らないと)

 右側に寝返りをうつふりをして、サペの方を向き、チラリと目を開けると、サペの顔は青ざめて、目には涙を浮かべていた。


「……サペ君? 大丈夫?」

 カムレアは立ち上がる。


「ひっ……! いや、あの、その……」


(……よし、この調子で謝ろう)

「ごめんね、サペ君! オレも言いすぎた!」

 カムレアは手を合わせて言った。


「……へ? あ、へぇ〜、しょ、しょうがないなぁ、許してあげよう!」

 サペは起き上がり、得意げに腰に手を当てる。


「よ、よかったぁ〜」

 カムレアはほっとしている。


「しょ、しょうがないなあ、全く、これだから下民は!!」

 サペは続ける。


「……は?」


「! いや、なんでもない、です……」


「うん、そうだよね! じゃあオレは寝るよ。おやすみ」

「あ、ああ、お休み……」


(ノアってやつ、怖えぇぇえ!)

 サペは内心で思った。


(サペ君と仲直りできて良かったなぁ……)

 カムレアは少し嬉しそうに眠りについた。

投稿は明後日です、お楽しみに!

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