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第43話 それぞれの旅路

遅くなってすみません!

 そっ、そういえば、アーノルドは踊りの天才だったっけ。完全に忘れてたなぁ。


「で、でも、踊り子って女性じゃないと……いけませんよね……?」

 カムレアが聞く。


「あー、そうだったっけ? まあ、とりあえず行ってみたら分かるだろ! 俺が潜入するから、お前たちは自分磨きをしな」

 アーノルドは言う。


 じ、自分磨きって……。


「じゃ、じゃあ、オレは剣の学校みたいなの……。この近くにあります?」

 カムレアはガルダさんに聞く。


「はい……。少し調べておきます」


「あ、私も……」


「はい。リーン様は魔法学校ですね。少々お待ちください」


 ガルダさん、話がわかる大人感が凄い。

すると、ガルダさんは、家の外に出て行った。

「あ、ありがとうございます!」


「……ってことは、身内とかも誰もいない状況で、なんとかしないと行けないのか……」

 私は息を呑む。


「そうだね。……オレたちならまだマシですが、アーノルド様は責任重大です」


「おう、そうだよな……」

「本当に大丈夫? アーノルド。無理そうだったら私が変わるからね」

「あ、ありがとう」


(でも、義姉様が一番、サルバドール国に狙われている。義姉様は必ず、サルバドールに近づけさせないようにしないといけないな……)

 アーノルドは思う。


 すると、ガルダさんが帰ってきた。

「剣術の学校はあったのですが、魔法の学校がなくてですね……」

「あ、やっぱりそうなんですね」

 魔法って、使える人は少ないらしいもんね。


「じゃあ、オレはその学校に行くとして、アーノルド様は国に潜伏。リーンはどうするんだい?」


「う〜ん。……あ、私、行きたいところがあるの。だから、そこに行こうと思う」


「分かった。くれぐれも気をつけてね」

「うん、」


「じゃあ、再び会うのは2ヶ月後、ヴェルソビエ村の近くの大木の前。正午に皆で落ち合おう」

 カムレアは言う。


「……うん」

「分かったぜ」

「はい」


「では、分かれるのは明日の昼ごろ。しっかり寝て、明日に備えること!」


『おう!』





 ***





「おはよう〜」

 私は言う。昼なのに、おはようって言っちゃった。


「おー、」

 アーノルドはもう来ていて、椅子に座っていた。


「早いね」

「すぐ準備が終わったからな」

「へぇ……。アーノルド、潜入、大丈夫?」

「ああ」


 そんなことを言っている間に、残りの二人も集まった。


「お、皆きた!」

「じゃあ、飯食おうぜ」

 私たちは、皆で食べるのは最後になるかもしれない昼食を、しっかり味わった。



「……じゃあ、皆、絶対生きて、成長して帰ってこようね」

 私は言う。


「ああ、一番強くなってやるよ!」

 アーノルドは言う。


「いや、アーノルドは潜入なんだから、強くはならないでしょ」

 私は突っ込む。


「あ……」


「……皆、元気で、生きて帰ること。絶対に」



 ***




 ガルダさんは、近くまで送ってくれると言ったが、そうすると旅の醍醐味がなくなってしまうし、拒否してよかった。


 私は歩き始める。


 そう、私が向かうのは、旧ガルシア邸宅。その、北にある森。そこに行って、あの時にあった妖精に『ヒール』が使えなくなった理由などを聞き出せたらなぁ〜と、思ったのだ。


『ヒール』あった方が、もちろん便利だしね。


 ……え? 絶対、1ヶ月は余るって? まあまあ、そしたら、どこか転々と旅を続ければいいさ。『私だけもう村に戻ってました』とかになったら、ちょっと恥ずかしいし。


 そんなことをぶつぶつと思っていると、ふと、気づいた。


 まず、ここからだと、めっっっちゃ歩いて、王都を経由してガルシア邸宅に行かなきゃ行けないから、王都で起きたあの事件の後が見れる……。


『王都で起きた事件』とは、王の演説を聞きに行き、アーノルドと会って、都が1日にして血の海になった、そんな悲しい出来事の跡である。


……あの後、都は遷都したって聞いたから、今は王都じゃないのか。


「……やだなぁ」

 私は呟く。


 だって私のせいで、あんなことになったのだ。現実逃避していたかったのに。わざわざ、見せつけられるなんて、ちょっと、辛い。


「まあ、今日は2番目の村まで行ければ上出来かな……」



「……はぁ」


 ……私だって、なりたくて王妃になったわけじゃない。なりたくて、戦の前線に出たわけではない。自分から、望んで沢山の罪のない人を殺したわけじゃない。わざわざ、こんな生活なんて、続けたくない。旅だって嫌い。疲れるし汚れるし。


 嫌なことばかりなこの世界なんて、生きている意味もないんじゃない……?


「……あぁ、だめ」

 私は頭を押さえる。一人だけだと、どんどん嫌なことを考えてしまう。



「死にたいな……」


 周りを見渡す。建物は一つも無い、広大な野に遠くに見える山々。近くには澄み渡った川がある。


「……喉乾いた」

 私はフラフラと川の近くまで行く。そして、ガルダさんが作ってくれた蓋付きで底もついている木の筒のような物に、たっぷりと水を入れた。


 そしてまた、歩き始める。


 少し歩いたところに、桃の木があった。一つ、取って口に運ぶ。

 じゅわっと、口の中に甘さが広がる。とてもおいしかった。


 もう何個か取って、そのまま、その木の下に座り込んだ。ちょうど、木陰になっていて、強い日差しを遮ることができる。


 私は木にもたれかかり、

「__海が見たい」

 とつぶやいた。


 私は小学生まで、海が見える小さな町に住んでいた。春も夏も秋も冬も、友達と海の近くを走って、スーパーは駅前のイオンしかなかったから、よく寄って、お菓子を買って、笑いながら帰った。


「……あの頃に戻りたい」

 ふと、言葉が出る。


 まだ、何も知らなかった、あの頃。何もしなくても笑い合えていたあの頃。


 叶わないことを口にするのは好きじゃなかった。

『どうせ無理なんだから、グダグダ言っているほうが無駄じゃない?』

 って、思っていた私が、こんなこと言うのは不思議だけれど。



 少しして。立つ気力が湧いたから、私は立ち上がり、また、歩き出す。




***



一つの村を通過して、だいぶ経った頃。


『ぐぅ〜』

 お腹が鳴る。

「……お腹すいたぁ」


 空を見上げると、もう夕陽が沈むころ。ちょうど、二つ目の村に着いたころだった。


「よし、目標達成!」


 あとは、宿を見つけること! 最悪、野宿でもいいんだけど……。


『だめだよ、リーン! 君みたいな女の子が、一人で野宿なんて! 危ないから、絶対にだめだよ?』

 と言い、私に大量のお金を渡してきたカムレアの顔がチラつく。


「……ちゃんと探そう」


 村に入る。すると、少し行ったところに無事、宿が発見された。


「よかったぁ……」




 ***




「ふぅ、お腹いっぱい〜」

 私はベッドに飛び込む。宿のご飯は、山菜とか、珍しい美味しいものがたくさんあった。


 ……そうだ。ガルシア邸宅に行った後、時間が余るから、その時に、海のある街に行こう。


 眠くなってしまった私は、布団をかける。ランプを消して目をつむる。


 宿屋の綺麗なベッドは、少し硬くて、寝心地が悪かった。

投稿は明後日です!

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