第37話 薬草
「……痛え……」
アーノルドは動けるようになっていたが、少し怒っていた。
「カムレア……? リーンだけ助けるんじゃなくて、俺らもすぐに助けろ、な?」
カムレアの肩に乗せられた手にとても力が入っているのが見て取れる。
「す、すみません……。皆さんを助けても、特に戦力にならないし、そんな時間があったら、一人でも斬った方がいいと思いまして……」
カムレアは笑う。
「辛辣!! まあ、戦力にならないのは事実だけどね!」
アーノルドはツッコむ。
「ま、まあ、結局は無事だったからいいのじゃがな」
ナイルさんが言う。
「止まっていると体が固まるんだな」
アイルさんも言う。
私は倒れている男達に向けて手を合わせると、立ち上がった。
「さて、ナイルさん、アイルさん、後どのくらいで着きますかね?」
「……そうじゃな、もう少しで頂上に到達するのじゃ」
「そうですか……」
今思ったんだけど、おばさんが、山なのに一番奥にあるって言ってたのはどういうことだったんだろう? 普通は一番上とかじゃないの?
そんなことを思いながら歩いていたら、
「さて、着いたぞ」
アイルさんが言った。
私は顔を上げる。そこには__。
そこには、まだ上に続いている道が見えた。
「……え? 頂上って……」
「ああ、違うぞ。薬草があるのはこの洞窟の中だ」
アイルさんは腕組みをしていた手を解き、指を指す。
そちらの方向に目を向けると、そこには岩でできた立派な洞窟があった。
「……え、この洞窟、だいぶ中、広そうなんだが……行くのか?」
アーノルドは顔を強張らせる。
「ああ、当たり前だ。そんなこともわからんとは」
アイルさんは腕組みをし直す。
「……そうだな。分からなかったぜ! 面目ない!」
アーノルドはニコニコしているが、
[いやあれ、絶対キレてたでしょ!?]
[うん、アーノルド様、絶対怒ってた……]
私とカムレアは目配せをした。
[もうやだ……。ウチのパーティー、皆、怖い……]
[いや、リーンも人のこと言えないから!]
***
狭い岩の隙間を抜けた先には、洞窟の割には開けた場所があった。どうやらもう、行き止まりの様だ。
……なにか、違和感を感じる。けれど、その違和感は一瞬で消え去った。
洞窟の真ん中に、草が生えていたからだ。
「……これって……」
「うむ、これが薬草じゃ!」
『や、やったーー!!』
私たちはハイタッチした。
おそるおそる、薬草をちぎりカゴの中に入れる。
「なるべく早く帰った方がいいですよね?」
「そうじゃな、薬草は鮮度も大切じゃからな」
「なら……」
「急ぐしかねぇーだろ!!」
皆は走り出した。
狭い洞窟の中で走るとか……。少し、笑ってしまった。
***
「たっ……ただいま……」
私たち3人は、おばさんの家に戻り、玄関で息が途絶えたように倒れ込んだ。
後ろでは「やれやれ」みたいな感じでナイルさんとアイルさんが立っている。
あの人たち、さっきはあんなに疲れてそうだったのに……。案外、体力鬼なのかな……。
隣から、「すーすー」と、寝息が聞こえる。って、アーノルドとカムレア、寝てるじゃん!! 流石に疲れたのかなぁ……。
すると、おばさんが駆け寄ってきた。
「まあ、こんなに早くに! 心配しておりました! 少しお待ちください、お茶を……」
おばさんは台所に行こうとする。私はそのスカートの裾をかろうじて掴む。
「……はい?」
「私たちのことはいいので、先に、これを……」
私はアイルさんに薬草を受け取り、手渡す。まあ、寝そべっているままなんだけどね。
「……すみません! ありがとうございます!」
おばさんは、息子さんの方を向く。
「じゃあ、儂らも手伝うとするかのぅ」
ナイルさんとアイルさんは私たちを追い越して、息子さんの方へ行く。
私たちがうつ伏せで倒れているのを横目に、薬の調合は始まった。
手伝ってあげたいけど……。ごめんなさい! 動けん!!
***
「起きて、リーン」
「……ん」
どうやら、あのまま眠ってしまっていた様だ。目を擦りながら立ち上がる。すると、
パッと手を掴まれた。
「!?」
「ありがとうございます! 息子は、完治しました! 本当に……ありがとうございます……!」
おばさんは泣いている。
「ああ、いえ、私たちにできることをやっただけですから……」
私はニコリと笑う。
「……すみません。息子にもお礼を言わせたいのですが、まだ寝込んでいて……」
「大丈夫ですよ。じゃあ二人とも、帰ろっか」
二人は頷く。
「え、もうお帰りに……?」
「はい」
一緒に戦ってくれそうな人はいなかったし、もうここですることはないよね。
「そうですか……」
すると、ナイルさんとアイルさんが声をかけてきた。
「少しいいかい?」
「……はい?」
私たちは外に出る。
「お前たちは、なにかと戦っているんだな?」
アイルさんが言う。
「……はい」
「なら、話は早い。私たちも仲間に入れろ」
「はい。……え? え!?」
私はびっくりする。だって、アーノルドの持ちかけにあんなに激怒していた人々だもん。こんなにあっさりと……。
「何を驚いているんじゃ、さっき、儂らを守ってくれたじゃろ? それに感服したのじゃ」
ナイルさんは言う。
さっきって言うのは山賊に襲われた時の話だよね。
「ありがとうございます。ですが、私たちがしようとしていることは、国への反逆なのです。それでも……着いて来てくださいますか?」
私は言う。
「それは……」
ナイルさんは目を伏せる。
「なら、君たちの本拠地で私たちを住ませてくれ。私たちが参加する価値があるものなのかを見極めよう。……ああ、安心してくれ。機密事項は洩らさないと約束しよう」
アイルさんは言う。
「そんなことを言ったって、怪しいのは怪しい……」
カムレアがそう言いかけた時、
「いいですよ! では、一度住んでみます?!」
と、私は言った。
「……リーン?」
か、カムレアの目が怖い……!
「いいじゃない! だって、機密事項は洩らさないって言っていることだし!」
私は言う。
「おい、リーン……?」
アーノルドも言う。
「まあまあ、……けれど、本当に村の情報を流した場合は即座に殺します。それを分かってくださいね?」
私は言う。
「お、おう……」
ということで、ナイルさんとアイルさんが仲間になりました!
***
「た、ただいまぁ〜」
私たちはガルダさんのワープで帰ってきた。
「すごい……。本当にこんなことができるなんて……」
ナイルさんとアイルさんは驚いている。
「では、ここで生活して、見極めてくださいね。私たちが協力するに値する集団かどうか」
私はニコリとして言う。
「……ナイルさんとアイルさん、集落の中などで、あなたたちの様に仲間になってくれそうな人の噂など、聞いたことがありますか?」
カムレアが聞く。
「……そうじゃな。『北の魔女』とか……」
「『北の魔女』?」
アーノルドが聞き返す。
「……すみません。『北の魔女』について、もう少し詳しく」
カムレアが言う。
「ああ、『北の魔女』は私たちの集落のある街を出て北に行ったところにある森の奥に住んでいる魔女だ」
アイルさんが言う。
「では……」
カムレアは言う。
「次は……」
私は言う。
「そこに行くぞ!」
アーノルドが言う。
『おー!』
明日も投稿します! よろしくお願いします!