第35話 使えない
私は、青いリボンで髪の毛をポニーテールに縛る。 そして、
「はい、そこまでです!」
アーノルドの後ろに立つ。要するに、走り回っている両者の間に入ったということだ。
「おい、そこの女! どけ!」
一人の男が怒鳴る。
「……リーンをそこの女だと? ……ねぇ、何を言っているんだい?」
カムレアが和やかにその男に蹴りを1つ、お見舞いし、アーノルドを襲っていた集団を笑いながらボコボコにしていく。
え、えげつな……。
「カムレア! 自分で峰打ちって言ってたこと忘れないで!!」
私は叫ぶ。
「……あ」
カムレアは少し手を止めると、縄で槍を持った集団を縛った。
「うん、これで身動きは取れないだろう」
いや、その縄はどっから取ってきたのよ!?
わたしは内心、そう思いながら、
「アーノルド無事?」
と言った。
「無事なわけねーだろ!!」
アーノルドは叫ぶ。
「さっきまであんなに仲良さそうだったのに、急にどうしたの?」
私は聞く。
「……なんか、サルバドール国に恨みとかないか? って聞いたら、『不届き者!!』っていって、襲われそうになって、走って逃げてきた」
「あー、意外と国への忠誠心は高かったのね……」
「それにしても、流石にそれは過剰ですね……」
カムレアはこちらに来て言う。
「……うん。流石に襲うとかは、もう、ちょっと、やりすぎな気がするなぁ……」
「と、言いますか、もう日が暮れてしまいます。どこか泊まる場所を探さなければ」
カムレアは言う。
「え、そんなにお金持ってきてないよ?」
私は財布を確認する。
「それって……。やばいんじゃねぇの!?」
アーノルドは慌て出した。
「だっ、だって、一泊するぐらい、こっちに長居するなんて思ってなかったんだもん!」
「いや、まぁ、俺もそう思ってたけどな……」
「どうします……?」
「どうしよう……」
「どうするか……?」
私たちはふと、縄で縛られている人たちの方を見た。
「……」
***
「いやぁ〜、ありがとうございます! まさか、タダで泊めてもらえるなんて!」
私は肉をナイフで切りながら言う。
「本当にそうです。ありがとうございます」
「おう! ありがとな!」
「ひ、酷いものを見た……」
「まさか、こんなにむしり取られるなんて……」
集落の人々は倒れ込んでいる。
「いやぁ〜。美味しいですねぇ、このお肉」
私は言う。
「ああ、うまいなぁ」
そう! 私たちはあの後、「すみません、オレたち、泊まる場所がないんですよね〜。あ、こういう時、どうすべきか知ってます?」とか言って、さっき襲ってきた人たちを説得て見事! 泊まれる場所(村長の家)を確保したのです!
「あれ、貴方達、なんで被害者ヅラしているんですかね? 貴方達が襲ってきたことを、国に報告してもいいんですよ?」
カムレアはニコニコしている。
「ひぃぃぃ!」
集落の人々は立ち上がり、姿勢を正している。
「お、俺、あいつ、怖い……」
アーノルドは驚いている。
「うんうん、とてもわかる」
私も光の速度で頷く。
「ま、まあ、私もカツアゲした側だから、あんまり言えないけど、その辺にしといたら……?」
私はカムレアと集落の人々の間に割って入る。
「……たしかに、ちょっとやりすぎた」
「うんうん、偉い偉い!」
「あ、の……」
集落の人々の中の1人が手を挙げた。
「どうしたんですか?」
私は聞く。
「……馬刺し、食べます?」
「……え? ……あ、馬刺し? 食べます!」
なぜ急に馬刺し!?
「はい! では、持ってきます!」
その人は、そのまま逃げるように外に出て行った。
「うーん、脅しすぎたんじゃない?」
私は聞く。
「た、たしかに。怖がってたかも……」
カムレアは顎に手を当てる。
「いや、どう考えても怖がってただろ」
アーノルドはツッコミを入れる。
「うーん、なんか一宿一飯の恩って言うし、なんか楽しめることとか、ないかなぁ?」
「あー、なるほどな」
「すみません」
私は残りの人々に話しかける。
「何か頼み事とか、ないですか?」
私は聞く。
「……そうですね……。とてもおこがましいことなのですが、私の息子が怪我をしてしまって……。薬草が必要なので取りに行きたいのですが、大変な辺境の土地にあるので、なかなか手が回らなくて……」
「あー、はいはい。怪我しちゃったってことだな?」
アーノルドは言う。
「リ……。レイラ、これは……」
カムレアは私の方を向く。
「うん! 私の(ヒールの)出番だね!」
***
「ということは、貴女、魔法が使えるのね? しかも、あの伝説の魔法、『ヒール』が?」
おばさんが言う。
「はい。そうですね。……おじゃまします」
私はおばさんの家に入る。
入った瞬間に、前に置いてあるベッドが目に入ってきた。そこには、少年が、包帯をぐるぐる巻きのミイラの様な姿で寝ていた。すこし、包帯からはみ出ている部分が焼け爛れているのが見えた。
「っ……」
だいぶ、重症な様で、息は荒く、包帯で顔は見えないが辛そうに感じる。
「これは……」
早く直してあげたい。そう思い、急いでベッドに近づく。そして、手をかざし、目をつむった。
緑色の光が部屋全体を包む。
『……ヒール』
すると……。
何も……起きなかった。
「……え?」
焼け爛れた後はまだ、何も治っていない。
「……嘘? なんで……?」
私は困惑する。だって、何も起こらないなんて、そんなはずはない。
「す……すみません……。あ、の……」
私はおばさんに、ぎこちない顔で言う。
治らなかった……。治らなかった、治らなかった、治らなかった……。
「……あら、どうされました?」
おばさんは首を傾げている。
「え、その……」
「ええ、緑に光るのはとても驚きました。素敵な手品をありがとうございます。やはり、私たちで薬草は取ってきたいと思います」
……え?
もしかして、私、そもそも信用されてなかった!?
「え、その、怒らないのですか?」
「? はい。だって貴女、この子と同い年ぐらいでしょう? 子供と同じぐらいの歳の子が、魔法ならまだしも、伝説の魔法『ヒール』を使えるはずがないでしょう?」
た、たしかに……。普通に考えると、勝手に集落に押し入ってきた人が、息子治す! って言って、伝説の魔法を使えるとか言い出したら、信用するはずないよね……。
「では……。やはりお詫びとして、私たちが薬草を取りにいきましょう」
私は言う。
この場に二人いないけど、勝手に決めても、まあ、許してくれるよね!
「……でも、山奥ですし、それと、山賊がでるのです! 危ないので……」
「あ、その辺は全然。大丈夫っす」
私は言う。
「なっ……。ならば、いいでしょう。けれど、この集落の者を数名、遣わせますので……」
(なんでそんなに、この子は役に立ちたそうなんだろう……)
なんか、『なんでそんなに、役に立ちたそうなんだろう?』とか、思われてそうだな……。
違います! ただ、急に、集落に押し入ったのが、申し訳ないなぁと!
ああ、絶対勘違いされてる……。
活動報告にも書いた通り、7月9日〜16日の一週間は連続(毎日)投稿します!
でも、時間はバラバラになるかもしれませんので、そこら辺はご容赦ください!