第33話 転移
私がニヤリと笑うと、歓声が鳴り響いた。
「うぉぉぉぉお!」
だとか、
「きゃぁぁぁあ!」
とか、みんな歓喜している。
きっと、ここのみんなも不安だったんだろう。本当にサルバドール国に逆らってもいいものなのか。だから、みんな、そのことを正当化してくれるリーダーを求めている。
私は拳を握りしめる。
……この光景を目に刻め、私。これでもう、お前は逃げられなくなった。彼らの象徴として、戦うことを誓ってしまったんだから。
***
翌日
私たち4人はテーブルを取り囲むように立った。ガルダさんが地図を開く。
「……一応、確認しておきたいのですが、ガルダさんの魔法は、どのようなものなのでしょうか」
カムレアは聞く。
おそらく、あの、ワープみたいな魔法のことだろう。村に来る時に使ったあれ。
「はい……。あの魔法は任意の場所に転移できる魔法でございます。そして、この村は形のない村」
「形のない村……?」
「はい。この村は実在しないのです」
「え、どゆことだよ!?」
アーノルドも驚いている。だって、実在しないのなら、ここに立てているのはおかしいんじゃない? 幻覚の類ならまだしも……。
「あれは、あなたの国が敗戦した少し後でした__」
ならば、私とカムレアが必死に王都に戻っているからか。
「ある女性がやってきたのです。その方が、魔法を使って私たちが捕まらないように、この異空間に村を作って下さったのです。たしか、『キャスリーン・ガルシアの一行を待ちなさい』と言っていたので、お知り合いの方かも知れませんね」
「異空間に村を作る!? 異空間に干渉する事自体、普通の人間がやったら自殺行為だっていうのに、架空の、しかも触れる村まで作っちまうとは……。そいつ、とてつもない魔法使いなんじゃないか……?」
アーノルドはとても驚いている。
「……私にそんな、魔法が出来る女の人の知り合い、いない」
うん、よくよく考えても、そんな人は会ったことがない。そもそも乙女ゲームの世界故か、男女比が圧倒的に男の方が多いからね。
「うん、オレにもいない」
「ああ、ミルドおじさんが女装してれば話は別だが、それ以外って言うならいないぜ」
「いや、ミルド様が女装してたら、それこそ案件だから……」
私はツッコミをいれる。
「その人、どんな容姿でしたか?」
カムレアは聞く。
「えっと……。すみません。黒いマントを目深に被っていたので、顔は見えませんでしたが、茶髪でした。明るい茶色の長い髪の女性だったと思います……」
「そうですか……」
うーん、尚更いないなぁ……。
「なんか、怖いな……。そいつ、知らないんだろ?」
アーノルドは聞く。
「うん……」
明るい茶髪のロングねぇ……。
「まあそれはまた今度に。とりあえず、ということはこの村を任意の場所に出したりはできないと……?」
カムレアは聞く。
「はい。すみません。なにせ、私より強力な魔法がかかっているので……。場所に出すどころか、動かすことすら、少し難しいと……」
「そうですか。では、人を任意の場所に運ぶことは……」
「はい、できます。物でもなんでもできますが、二つとも、私が同行しなければ不可能な点と、重量が決まっているのです」
「それは、どれくらいの重さなら……」
「ああ、はい。人にして6人程度です。ですが、私も入ってしまうので、5人ですかね……」
「なら、オレたちは余裕で飛ばせますね……。はい。ありがとうございます」
カムレアとガルダさんだけで話をサクサクと進めてしまっているため、私とアーノルドは何を言っているか分からずに、ポカーンとしていた。
「それで、なるべく村の人々の士気が高い時に襲撃したいのですが……」
カムレアは何かを考えている。
「っ、村人たちも戦わせるつもりなのですか!?」
私は聞き返してしまった。
いくら私たちが戦えるからと言って、彼らを守りながら戦うのは不可能に近い。
「キャスリーン様、私どもは死んでもいい覚悟で、貴女様について行こうとしているのです。どうか、戦うことをお許し願いたい……」
「………………いいでしょう。けれど、守ってもらえるなどと思わないでください。戦場はそんなに甘いところではない」
少し強く当たりすぎたかもしれないけれど、でも、本当に命を捨てる覚悟なんて、簡単につくとは考えられなかった。
「はい。ありがとうございます……」
「……」
「……あのさ、」
アーノルドが口を開く。
「どうしたの?」
「まずどこを攻めるつもりなんだ?」
「そうですね、アーノルド様。少しは戦力が集まったとはいえ、まだまだ国になど、到底太刀打ちできないので、もう少し戦力を集めます」
カムレアは言う。
「なので、ここしばらく、戦略が揃うまでは、オレが1人で出て、様々な村を訪ねまわりましょう」
「……私も行く」
「リーン。野宿とかするかもしれないよ? 大丈夫?」
「うっ……。うん! やってやるさ!」
「分かった。なら、オレとリーンで即戦力を探しに行きます。アーノルド様とガルダさんはここでお待ちください」
「はい、分かりました……。ではその間、ここの村人たちを少しでも強化しておきましょう」
ガルダさんはうなずく。
「ちょっ、待てよ! 俺も行く!」
アーノルドは言う。
「……マジで? 大丈夫? 耐えられる? アーノルド」
私は聞く。だって温室育ちの皇子様だもん。体力も皆無だし。
「お、おう!」
「見栄を張らないの! 無理でしょう!?」
「できるもん!」
「……本当にできますか、アーノルド様。『もしもできなかったら、置いていかれる』程度の覚悟で着いてきてくださいね?」
カムレアは笑う。
うっ、案外、カムレアってSだ……。
「……」
アーノルドは迷っているようだ。すると、
「やっ、やってやるさ! きっと俺にも役に立つぜ!」
と拳を上にあげて言った。
「役に立つかなぁ〜」
私はニヤニヤする。
「なっ!」
「はい、その覚悟受けとりました! なら、一緒に行きましょう!」
「おう!」
「では、まずはここの街なのですが、山を3つ越えた先にあります。ここを出る日から1日後には着きたいのですが……」
「うん!」
私はうなずく。
「お……おう……」
(山3つを1日で越える!? なんだそれ!)
アーノルドは顔がひきつっている。
あー、だからやめておけばよかったのに……。
「あ……」
私は思い出した。
「山越えるって言うか、ガルダさんにワープで飛ばして貰えば良くない?」
「それが、私の転移は、先程も申したように自分も飛ばさないといけないのです。なので、私も付いて行くことになってしまいます。それでは、足手まといかと……」
「あぁ、たしかに、見ず知らずの土地で戦う時とか、ガルダさんを守りながら戦うのは難しいですね。ただでさえ、アーノルドがいるのに……」
私は笑いながら言う。
「ぅおい、もう一回言ってみろ〜」
アーノルドは言う。
みんなは顔を見合わせて笑った。
「はぁ、どうしよっか、じゃあ、行きだけ送ってもらって、ガルダさんはそのまま帰ってもらうとか」
「それなら、問題ございません」
ガルダさんは言う。
「じゃあそれで行こう。作戦の決行は明後日。それまでに各自、準備をしておくこと!」
『おう!』
明後日は昼ごろに投稿するかも知れません! どちらにせよ、投稿します!