第32話 宣言
「……さて、家割りどうする?」
私は聞く。
「それは、普通はリーンが1人家でしょ……」
カムレアは言う。
「……それが……」
「どうしたんだ?」
アーノルドは聞く。
「いや……」
言えない……! こんな広い家に一人で住むのは流石に寂しいとか、恥ずかしいし、言えない……!
「?」
2人は首を傾げて顔を見合わせている。
「ああ! もう、いい!」
私は少しめんどくさくなった。
『身体強化!』
私魔法で足だけを強くして猛ダッシュした。
「……え?」
そしてガルダさんの家に行く。
「すみませんガルダさん!」
私は勢いよく玄関のドアを開けた。
「はっはい! どうされましたか……?」
ガルダさんは驚きすぎて、一回飛び跳ねた様に見えた。
「あの、あの2つの家、くっつけてもいいですか?」
「……へ?」
***
私はガルダさんを抱えて帰ってきた。
「り、リーン。いつのまにあんな魔法を……?」
「ええ、貴方達には言っていなかったけれど、山で毎日修行してたでしょ?」
実際には走ってただけだけど……。
「う、うん」
「なんか、その後にやったら出来るようになってたの」
「へ、へぇ……」
(まあ、たしかに身体強化とかは一般的な魔法だしな。普通に使えてもおかしくない)
アーノルドは思う。
「……本当にいいんですね?」
私は言う。
「はい。王妃様のためです……」
ガルダさんは言う。
「……分かりました。ありがとう」
私はそう言うと手を前にかざした。
「な、なにするのリーン?」
カムレアは心配そうに聞く。
「……」
私は息をたくさん吸い込む。
『分子間力使用!』
そういえば、化学で習ったなぁ、分子間力……。
私がそう言うと、家が合体して大きな一つの家になった。
「!?」
カムレアとアーノルドとガルダさんは目が飛び出そうなほど目を剥いている。
「な、なんでそんな強力な魔法が使えるんだ?」
アーノルドは聞く。
「いや、それがよく分からなくて……」
私は頭に手を当てる。
「なんか、急に使える様になってたんだよね……」
まあ、ミルド様の特訓してから『幻術』で髪色変えたりもできるようになったわけだし。
私は金色の髪をいじりながら思う。
(おかしい、こんな魔法、ミルドおじさんでさえ、知らなかった……。なんでこんな魔法を使えるんだ……?)
アーノルドは考える。
「そうです、言い忘れておりましたが、今日の夜、皆様の歓迎会をするので、是非いらして下さい」
ガルダさんは言う。
「あ、はい。すみません、わざわざ……」
「ああ、いえいえ。いいのですよ」
「ありがとうございました〜」
私が言うと、一度お辞儀をしてから、ガルダさんは帰っていった。
「さて、じゃあ家が1つになってしまったので、3人で暮らすとしますね〜!」
「え、マジで?」
アーノルドは言う。
「リーン、良かったの? せっかく1人家が出来たのに……」
カムレアが心配そうに言う。
「あー、やー……別に、大丈夫、かなぁ……はは」
「あ、ガルダさん、ありがとうございました」
「いえいえ、王妃様さえ良ければなんでも……」
「あはは、」
また、ガルダさんは帰っていった。
「さ、さぁ、仕方ないから、みんなで一つの家に住もうかぁ……」
「お、おう……」
「それでいいの……?」
二人は疑問そうだけれどうまく行ってよかったぁ!
「じゃあ、早速入ろう!」
私は玄関を開ける。
もちろん、元々二つの家だったため、リビングテーブルやキッチンなどが二つ付いているになってしまった。
二階建てのようで、玄関を開けるとすぐに階段とリビングがある。
リビングの奥にはキッチンがあり、そのさらに奥に廊下がある。廊下の先には一つの部屋があった。
階段を上がると短い廊下の左右に二つ、部屋がある。
「さて、部屋割りどうする?」
私は聞く。
「あ、じゃあ俺、キッチンの奥の広い部屋がいい!」
アーノルドは目を輝かせる。
君、王族じゃないっけ……? 広い部屋なんて住み飽きてない?
と思ったが、ぐっと堪えて、
「まあ、いいけど、カムレアもいい?」
と聞いた。
「うん、オレもいいよ」
「ありがとな! じゃあ、早速荷物置いてくるぜ〜」
アーノルドは部屋に行った。
「じゃあ、二階の部屋だけど……。左のほうか右の部屋、どっちがいい? カムレアが好きな方でいいよ」
「あ、ありがと。……じゃあ右の部屋で」
カムレアはどうやらベランダのついた、窓の大きい明るい方の部屋を私に譲ってくれたらしい。
「分かった。じゃあ私が左側ね。ありがとう」
「うん、じゃあまた」
私たちもそれぞれの部屋に入った。
扉を開けると奥にベランダ、右にベッド、左にクローゼット、下にはカーペットの敷いてある、広い部屋だった。
「おお、綺麗だなぁ……」
もちろん、王城やガルシア邸に比べたら質素な作りだが、私みたいな庶民にはこれぐらいが丁度いい。
少し、横になる。
……私たちを匿った理由はなんだろう。だって、サルバドール国にバレたら、ただ、村人たちにリスクがあるだけ。
私たちを生かしておいて、特にメリットはないんじゃない?
「……うーん。なんだろうなぁ……」
結局、ガルダさん、今日歓迎会まで開くって言ってたし。
……例えば、私に叛逆軍のシンボルになって欲しいとか……。サルバドール国に潰された国の王妃とか、絶好の支持者になると思うんだよね。
なんというか、持ち上げやすいというか、大義名分が作りやすいというか……。
それに、それ以外に私の付加価値って特にないと思うし……。
そう考えると、今日の夜の歓迎会あたりで、演説とかさせられそうだなぁ……。
***
やっぱり、私の予想は的中した。
「今日はこの場を借りて、キャスリーン・アークリー様にお話をいただきたいと思います」
ガルダさんは言う。
村人たちは肉にかぶりつき、酒を飲み干しながら手を叩き始めた。
おいおい、普通に正体ばらすじゃん……。なら、私もこの格好してる意味、ないかな。
私は金髪に見せていた幻覚魔法を解く。
すると、周りはガヤガヤし出したが、気にすることなかれ!
私は他のところよりも少し高くなっている壇上に上がる。
「初めまして。私はキャスリーン・アークリー。……いえ、キャスリーン・ガルシアです」
「!」
アーノルドは驚いている。
「私は今日をもって、王妃であることを捨てる!
ただ、一人の人間として、大切な人々を殺されたから、それだけのために、私は戦います!」
私はそう言うと、自分の肩あたりに手を持ってくる。
『作成』
作ったナイフを向ける。そのまま、刃で髪を切った。
また、村人たちはガヤガヤとし始めた。
リーンの綺麗な白色の髪の毛とリボンが、はらはらと下に落ちる。私は屈んで、その一部の髪を手に握って見せ、少し笑った。
「この髪に誓おう! 私はどんなことがあろうとも、決して逃げない。ただ、幸せな結末のために、貴方達に勝利を約束しよう!!」
また、明後日に投稿です!