第30話 遺書
「はぁ……。疲れたぁ……」
私たち3人は机に突っ伏する。
「まさか、あんなに汚いなんて……」
私は言う。
「いや、まだあれだけならいいけど、虫の卵が……こびり、くっついてたのが……」
カムレアも言う。
「やめろ! さっきの思い出して、気持ち悪くなるだろ!」
アーノルドも言う。
「じゃあ、一回自分の部屋で休憩してきます……」
私はそう言い、自分の部屋に入った。
***
私は目を覚ます。そうだ。あの後、疲れて寝てしまったのだった。
「ふぁあ……」
と、あくびをして伸びをする。
「いけない、いけない……。昨日まで着ていた服を洗うの忘れてたわ……」
山を登ったりしたため、とにかく汚れた服が床に散乱していたため手に取る。
「ちょっと川行ってくるけど……あ、」
カムレアとアーノルドも洗濯物ある? と言おうとしたが、二人も、リビングで突っ伏したまま、寝てしまっていた。
「ふふ、」
私は少し笑い、起こすのも悪いからと思い、そのままあまり音を立てないようにして外に出た。
そのまま、村に一番近い川へ向かう。
「ねえ、レイラちゃん! 聞いた!?」
途中で、村の一番右に住んでいるおばさんが声をかけてきた。
「はい……? なんでしょうか」
私は笑顔で言う。
「あなたの右隣に住んでた、あの……小さい女の子がいる家!」
「……それが、なに、か……?」
私は顔が引きつるのを感じた。
右隣、小さい少女……。レベッカちゃんの家……?
「それがねぇ、死んだんだって」
「っ……!」
「それにねぇ、他にも、大勢の人が死んだそうなのよ。しかも、なんで亡くなったかは分からないそうなのよ。怖いわよね〜。まあ、ただの噂なんだけど。うふふ」
「そ、そうなのですか、それは、とても、悲しいですね……」
私の脳裏には、彼女の手がちらつく。
「そうなのよねぇ……。あら、引き止めてごめんなさい、さようなら」
「は、はい。また……」
私は次第に、早足になる。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
私は川の前でしゃがみ込む。
「……はぁ……」
水面に映る自分は、涙と疲れきった顔で、見るに耐えない。
私は服を広げる。そのまま、水につけようとして、ハッとした。
そうだ、ルーク様の手紙……! なんで忘れていたのかな、とても大事なものなのに……。
私は急いで服のポケットを探ると、右ポケットに入っていた。
あぶなぁ……。
***
そのまま、外に服を干して、家に帰り、部屋に入る。そして、手紙を両手に持つ。ゆっくり、蝋で作られた封を切った。
すると、何枚かの紙が出てきた。政治のことや、後継者のことが書いてある中で、一つの紙が目に止まった。
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リーン、君は知っていたかもしれないけれど、僕はアリアナ・ガルシアが好きだった。いつからとかは敢えて省くけれど、アリアナが好きだったのに、君との政略結婚を持ちかけて……。君を利用していたんだ。申し訳ないことをしたと思っているよ。
実はね、君が生まれて5年ほど経ったころ、キャスリーンという美しい少女がいると、王城でも話題になったものだよ。なんせ、君は髪や目の色が特徴的だったからね。
ちょうどその時、アリアナとの婚約の話が上がっていた僕は、断らない代わりに、アリアナではなく、君に変えるように君の両親に頼んだんだ。
まあ、その時はまだ君に会ったことはなかったんだけれどね。
なぜ、リーンにしたか? それは、アリアナを政治権力に巻き込みたくなかったからだ。
本当にごめん。君に初めて会った時、とても優しい子なのだろうと思ったよ。だから、本当は君も、こんなところには巻き込みたくはなかった……。ごめん。
もちろん、君のことが好きだよ。いままで、ありがとう。あまり、話せなかったかもしれないけれど。
感謝します。どうか、貴女に祝福が有りますように。
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「……」
視界がぼやけて、続きが読めなかった。
ルーク様は、アリアナを守ろうと……。そして、私も、守ろうとしてくれた……。
「私の方こそ、ありがとう。私も、大好きだよ……」
胸が張り裂けそうな思いが湧き上がってくる。
二人に声が聞こえないように、声を押し殺して泣く。
あの時、あの、男がルーク様に呪いをかけた時、もう少し早くに動けていれば、何かが変わったのかなぁ。
アリアナとルーク様が、幸せに、暮らせる。そんな選択肢はあったのかなぁ……。
ごめんね、ごめん。私さえ、いなければ……。
……違うじゃん。彼が、皇子じゃなければだ。
そうしたら、きっと、2人は__。
すると、向こうから、『ご飯できたよー!』という声が聞こえた。
「はーい!」
私は大声で言い、すぐに手紙を机の上に置いて部屋を出た。
明後日も投稿します! よろしくお願いします。




