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番外編3 庭園

 辛い時、何かが起こった時は、よくここに来る。今日も、涙を流しながら、この庭にやってきた。


すると、


 薄い茶髪を腰まで伸ばしている、カチューシャをつけた、僕より4、5歳ぐらい年下の少女がいた。

 おかしい。いつもなら、ここには誰もいないはずだ。しかもここは、王城。普通の人ならば、入れもしない。


「あの、泣いているのですか……?」

 その少女はこちらに来て言う。


「っ!」

 しまった、こんなところで女々しく泣いているなんて王様(父上)に知られたら……。また怒られてしまう。


「いや、それは……」

 僕は急いで目元を拭い、

「なにをしているのですか……?」

 と尋ねた。


「はい、今、綺麗なお花を見ていたんです!」

 少女はキラキラした目をこちらに向けて言う。


「はい! ここの薔薇は世界一の綺麗さですから!」

 急に褒められたせいで、少し自慢してしまう。


「はい、とても綺麗です!」

「そうでしょう、そうでしょう! ……というか、ここには何故……?」

 僕は聞く。


「えっと、お父様とお姉様が王様? に、用があって、だから、私だけ、ここで、お留守番をしているんです!」

「へ、へぇ……」


 彼女の父上は王様(お父様)に謁見できる程の方なのか。だったら相当な貴族なのかも……。なら、ここに居るのも納得です。


「あ、もうそろそろ、戻りますね、さようなら!」

 少女はそう言って、走って帰って行った。


「あ、うん……」  


 そういえば、名前を書き忘れてしまったな。……まあ、もう会うことはないだろうし、別にいいか。


 僕はそう思い、城に戻った。



 ***



「たかが、前妃の息子が! よく言ったものね!」







「はぁ……」

 僕はまた、庭に来てしまった。ちょっと、誰もいないところに行きたかったからだ。

 すると、



「あ! こんにちは!」


 なんと、また、あの少女がいたのである。

「……げ」


 今度は、童話のような大きい本を一人で読んでいる。……というより、持っているの方が正しいのだろうか。彼女は本を開きながらも、首を捻っている。どうやら字が読めないらしい。


「あ! この前の、お兄さんですね!」

 目があった。


「は、はい。お久しぶりです」

「ちょうど良いところに来ました! あの、この本、読んでいただけませんか?」


 彼女はわざわざ僕の間近まできて、目をキラキラさせて答える。


 そんなにキラキラされたら断れない……。


「い、いいですよ……」

「わぁ! ありがとうございます!」


 そして僕は一生懸命、彼女に読み聞かせをした。


「面白かったです! ありがとうございました!」

 彼女はそう言って頭を下げる。


「うん、僕も楽しかった!」

 僕は、自然に笑顔になっていることに気づいた。


「今日はもう帰りますね、また会いましょう! あ、そうだ、私の名前は、アリアナ・ガルシアです!」

 少女はそう言うと、また帰っていった。


 久しぶりに、素で笑顔になれたな……。

 僕はそう思う。愛想笑いしか出来なくなっていたと思っていたけれど……。


 というか、そうだ。ガルシア家……。貴族の一つだな。なら、彼女はガルシア家の長女……? あ、いや、初めて会ったときにお姉様って言ってたから、次女なのか……?


 どちらにせよ、結構、位の高い家族であることは間違いない。っていうか、なんでいつも居るんだろう……。


 不思議と、いつもの鬱憤さは消えていて、軽い足取りで王城に戻った。


「ルーク、あなた、また部屋を片付けないで外に出たわね!?」


 王妃(お義母様)が声を張り上げる。


「……すみません」

 だって、部屋を汚したのは貴女でしょう! と言いたかったのだけれど、結局言ったところで、殴られるのがオチだろうから少し黙る。


「全く、あなたは私の子供ではないの! 分かっているのかしら! それなのにこんなに私に面倒をかけて! 本当に、めんどくさいわ!」


 お義母様はタラタラと長い話をする。が、特に何も入ってこない。


 この人が王城に来てから、僕の生活は全てが変わった。


 いや、正確にはお母様が亡くなってからだろうか。今まで優しかったお父様も、切羽詰まったようになり、あまり構ってくれなくなった。


 そのかわり、お義母様がよく、訪ねてくるけれど、来たは来たで、小言を並べるだけ。一緒に遊んでくれるわけでもなく、ただただ、僕に面倒事を押し付ける。


 しかも、第二皇子のアーノルドが産まれてからは、さらにひどくなった。きっと、僕を王様にしたくないのだろう。アーノルドを世継ぎにしたいのだろう。


「話を聞いているの!?」

『パチン!』という音とともに、鈍い衝撃が頬に伝わった。


「っ!」

 僕は頬を押さえる。


「……まあいいわ。とりあえず、この課題、全てやっておくのよ。王になるためだもの。できて当然よねぇ?」


 王妃はそのまま帰って行った。


「……」

 僕は散らかされた部屋を眺める。

「はぁ……」

 ため息が一つ出た。



 ***



「こんにちは! ……いえ、こんばんは?」

 また、少女がいた。しかも今は夜だ。こんな時間にお父様が家臣と会うとは思えない。


「なぜここに居るのですか? お父様に伝えたりは……」


「えへへ、してないです……。ただ、初めて会った時に、貴方が泣いておられたので、少し、心配になりまして……」


「なら、何も言わずに家を抜け出してきたということですか!?」


 こんな時間に出歩くのは危ないし、貴族の家の令嬢が消えたとなれば騒ぎになるだろう。


「ああ、いえ、それは……」




 ___同時 ガルシア邸。


「あの、キャスリーンお嬢様……? アリアナお嬢様に御用がございまして……。通してください……」


 メイドのアリサがアリアナの部屋の前で立ち往生しているキャスリーンに言う。


「ごめんなさい、それはできないわ。……コホン。ここを通りたくば、わたくしを倒してから行くのね!」 

 キャスリーンは『言ってやったぞ』というような満面の笑みを浮かべている。


「お嬢様……」


 ***



「ということでして……」

 ガルシア邸の令嬢は事情を説明してくれた。


「そうなんですか……。まあ、なら、大丈夫? かな……」


「はい! それでですね、私、お兄さんを元気付けるために、クッキーを作ってもらいました!」

 自慢げに少女は袋を差し出す。


「ありがとう……」

「はい! 食べてください!」

「あ、今ですか!?」

「はい!」


 僕は1つ、クッキーを口に運ぶ。

『サクっ』

「……おいしい」


「でしょーー! ウチの自慢のコックさんなんです!」

「へぇ、そうなんだ……」


 僕も自然と笑顔になった。



 ***



 翌日、僕は朝早くからお父様に呼ばれた。


「あの……」

「……来たかルーク。突然だが、そろそろ決めようと思っていた、婚約者のことだが……」

「は、はい……」


「それが、決まったのだ」

この番外編は、本来書くはずのなかった箸休め的なものなので、続き公開するのはだいぶ後になると思います。

ごめんなさい!

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