第28話 悲哀
ありがとうございます!
少女の腕を見て絶句する。
何も声はでない。
何も感じてはならない。
「あぁ、あぁぁぁぁあ!」
けれど、涙は流れる。
「おい! 今はそんな場合じゃないぞ! 悲しいかもしれんが、とにかく逃げるんだ!」
アーノルドは言う。
「……はい……」
私もアーノルドの後に続き、ひたすらに走る。少しでも王城に遠ざかるように。
……アーノルドは、慣れているんだな。
彼は、少女の腕を見ても、前に立ち続けて、常に助かる方法を探していた。
そうか。アーノルドはもう、一度、味わっているんだ。この惨劇を。地獄を。
まだ、私達の国があって、サルバドール国と戦争をしていた頃。私とカムレアが、一度死にかけてから、必死に王都へ向かっていたあの日。
そう、あの日も、
***
あの日も、ここは地獄だった。
敵にやられていく市民たち。そして、俺も__。
***
一年前、王城
「お逃げください! もうすぐ敵がこの王城まで、攻めてきてしまいます!」
護衛兼執事が言う。
「おう、じゃあ、俺たちも逃げるぞ!」
俺はエフレインに言う。
「兄様……。私のことは置いていってください。僕ならば、魔法で少しぐらいの敵の足止めはできますから」
エフレインは目を伏せる。
「は!? 何を言っているんだ、エフレイン。弟を置いていく兄がいるか!」
「……ですが、このまま行けば、皆、共倒れです」
「それは……」
俺も、目を逸らす。
「……これは命令だ、ソーレン。兄様を連れていますが逃げろ。私がここで、敵を足止めする!」
「……はい。御武運を……」
ソーレンは目をつむり、エフレインに深くお辞儀をした。
そのまま、ソーレンはすごい力で俺の手を引っ張る。
「おい、やめろ!」
俺はソーレンの手を振りほどく。
「アーノルド! いい加減、腹を括れ!! 貴様は自らの愚かさで、無駄な犠牲を出すというのか!!」
ソーレンは叫んだ。
「っ! すまん、ソーレン。行こう!」
俺たちは駆け出した。
「……全く。兄様はソーレンさんがいないとダメなんだから。まあ、幼い頃から、ずっとお世話をしていただいていた、ソーレンさんに頭が上がらないのは僕も同じですね」
エフレインは目をつむる。そして、後ろを向く。
「……さて、まずは結界を張りましょう。この第3皇子、エフレインが相手だ。気安く通れると思うなよ!」
***
「アーノルド様! ここは炎で崩壊する恐れがあります。迂回しましょう!」
「了解!」
俺たちは必死に城を走って、城下町に出た。だが、その惨状はとても酷いものだった。
焼け爛れた顔の女が倒れていた。どうやら、爆発の近くにいたのだろう。
なにかを口にしている。が、喉を潰しているのだろう。掠れた音しか聞こえなかった。
「っ……」
敵に一切遭わないことを考えると、どうやら、敵はもう城に攻め込んだのだろう。
「エフレイン……」
俺はつぶやいていた。
「今は、前を見据えるのです。ただ、前を見て、逃げることのみを考えて下さい」
ソーレンは言う。
「ああ」
すると、後ろから走ってきた敵兵に、俺は捕らえられた。
「ぐわっ!」
地面に叩きつけられる。
「アーノルド様!」
くそ、全く気づけなかった……。
「早く、逃げろ……」
「……」
「いいから、早く……」
俺は意識を失った。そして、目を覚ましたらあの姿になっていたわけだ。
ソーレンの行方は今もわからない。
またどこかで会えたらいいと思うが、そんなことを言っていられる現状でないことも分かっているのだ。
***
現代
私たちはなんとかして村に戻った。村に入った瞬間に、一瞬で足の力が抜けて、立てなくなってしまった。それだけ消耗していたのだろう。
「はは、足の感覚がないや……」
私は笑う。
「そうだな。ちょっと……疲れ……た……」
アーノルドはそのまま目をつぶった。どうやら寝てしまったようだ。
助けを呼ぶ元気もないまま、村の門の前で座り込む2人。すると……
「リーン!」
誰かの声が聞こえた。
「無事だったのですね!?」
カムレアの声だ。
はは、今はリーンじゃなくて、レイラだって……。
そう言おうとしたが言葉が出てこなかった。そのまま、私も眠りに落ちた。
***
「……ん?」
朝日に顔を照らされて、私は目を開けた。天井には見慣れた風景。古びた木の天井があった。
そういえば、アーノルドは!?
周りを見渡す。すると、私の部屋の扉が少し開いていて、リビングの様子が見える。そこにカムレアがいた。まだ私が起きたことに気づいていないようで、朝食を作っている。それも、目視できる範囲内でも3人分。
よかった、アーノルドも無事なのね。
おそらく、隣のカムレアの部屋で寝ているのだろう。
私はベッドから起き上がり、リビングに行った。
「カムレア……」
すると、カムレアは振り向く。
「リーン、どれほど心配したか、分かっているのですか!? いいですか、今後一切、無断でいなくなるようなことはしない。分かりましたか?」
「ご、めんなさい……」
「というか、なぜアーノルド様がいるのですか!? あれ、アーノルド様ですよね?」
「う、うん。なんか、しろで……いや、普通に近くに落ちてて……」
危な! 城に行ったことバレるかと思った!
「白? よくわかりませんが……」
すると、アーノルドも起きてきた。
「ああ、おはよう」
アーノルドは言う。
「お、おはようございます……」
「おはようございます」
カムレアは、まだ少し動揺しながらもお辞儀をした。
その後、カムレアの用意した食事を食べながら、アーノルドは話し出した。
「そういえば、サルバドール国に復讐する話なんだけど、カムレアは賛成しているのか?」
「ぶっ!!」
私は食べていたキャベツを吹き出しそうになる。
おのれ、アーノルドめ!! すぐに秘密をバラされた!
「……リーン……?」
カムレアは笑顔の圧で、私に聞く。
「あ、いや、あの……」
「どういうことかな……?」
「その……」
「すみません!」
私はとにかく謝った。
「どういうこと?」
「あ、それ、は……」
***
「なるほど。たしかに奴らは外道だけれど、貴方たちが復讐すると? はは、笑わせないでください。貴方たちにそんなことができるとでも? レイラ、貴女1人で
ラールドを倒せますか?」
「そっ、それは……」
「当然、無理です。貴方たちは戦いを甘く見過ぎだ。特に、アーノルド様、貴方は戦えない。それなのに、復讐? 大きく出たものですね」
「なっ、なんだと!? じゃあ、今から特訓してくるからな!? 見とけよ!」
アーノルドはそのまま、外に飛び出ていった。
「……カムレア、アーノルドの扱い、上手いね……」
「はは、いえ。彼はああいうこと言ったら怒りそうかなと……」
「そ、そう?」
「……リーン。オレはなにも、サルバドールの連中をを憎むなとは言っていない。当然だ。奴らは君にとって、憎まれて当然のことをしたんだから。ただ、武力を行使するのは間違っていると思うんだ。なぜなら……」
今日は朝に登場人物の紹介&設定集を一章の最後に割り込みで投稿したので、まだの方はぜひ、見てください!