第3話 カムレア
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4日後_
「お姉様!」
もう、母の死はだいぶ吹っ切れたような様子のアリアナが私の部屋に入ってくるなり、勢いよく目の前にやってきた。
「どっ、どうしたの、アリアナ……」
推しの顔面尊い……! てか、お母さんのこともだいぶ理解ができてきたようでよかった……。
「私、お母様が亡くなってから色々と考えたのです……やはり、私とお姉様の二人だけでこのガルシア家を守るのは難しいと思うのです。なので、少しでも身を守るために、お姉様に剣術を習いたいのです!」
「……ん? けっ、剣術?」
唐突……!
「はい! 本当のところは、お姉様にこんなことをさせたくはないのですが、人を雇うより人件費がかからなくて、少しでもこの家の出費を抑えることができると思うのです!」
「それで、最近、やめてしまわれましたが、お姉様は3歳の頃から剣術を習っていらっしゃったので! どうでしょう!」
まずい……! リーンって、剣術なんて習っていたの!? しかも3歳の頃からって、えーと、約6年ぐらいはやってたってことよね……。
これはいくら下手でも素人の動きをしたら確実に怪しまれる……。
私は武道系を習った事は中高の部活が剣道部だったぐらいで、できる自信は皆無……! どうしよう!!
「……あのさ、アリアナ。教えるのはもちろんいいんだけどさ、1ヶ月待ってくれないかな?」
「はい、もちろん大丈夫ですが……」
アリアナはきょとんとしている。
よっしゃぁぁぁああ!
後は、自分で1ヶ月の間にどこかに習いに行く! 折角節約しようとしているアリアナに悪いから、せめて安いところで!
その日の夜 自室
どうやら、やっぱりリーンは剣術を習っていたらしい。クローゼットを漁ってみたら、使い古された皮の鞘付きの練習着のようなものが出てきたし。
「アリサ〜。いる〜?」
「はい、お嬢様」
アリサはいつものように一瞬で部屋に入ってきた。
「私が前使ってた剣ってある?」
「はい、剣術に使われていた剣ですね」
「そうそれ!」
「あれは……剣術をやめるときに、お嬢様が刀身を折って捨てていませんでしたか?」
「え……。あ〜! そ、そうだったわね……。分かったわ、ありがと〜」
「いえ、では失礼します」
『ばたん』と扉が閉まる音がする。
……え? 待って、リーンってそんな気性荒かったんだ……。いや、それともそこまでするぐらい、嫌なことがあったの?
まあ、たしかに、クローゼットにしまってあった練習着も丸めてぐちゃぐちゃにしてあったけど……。
どうしよう、リーンの人柄が全く読めない……。
と、とりあえず今日は明日に備えて早く寝て、明日、安い訓練場を探さないと!
え、金は誰が出すのかって? ふふふ、実はね、リーンの部屋の本棚の本と本の間に、へそくりを発見したの! 『いざというときのアリアナのための貯金』だって! リーンって結構可愛いところあるんだね〜。
って……マジでリーンの性格が分からないじゃん。彼女って一体……。
翌日 朝
アリアナと朝食を済ませると、彼女は勉強があると先に部屋に行ってしまった。
「よし、これで街に行ける……。とはいえきっと格安は都の近くにあると見た!なぜなら人がいっぱい集まるから! よし! なんて完璧な作戦なの……! ということで、都に行くよ!」
首都 ベルワンジュール
「うわぁ……」
実際のゲームではこの都の真ん中にある城が主な舞台なんだけど、なんか、現実にある感じがしない!
「ありがとう、ここで降ろして下さい」
馬車からおろしてもらう。
「いいですか、お嬢様、本当は護衛なしなんて、僕がバレたら監禁ものなんですよ!? もう旦那様も奥様もいらっしゃりませんが、絶対に他言無用ですよ!?」
馬車を運転してくれた使用人のザルーは言う。
「ああ、もう分かってるって。大丈夫、大丈夫!」
もう旦那様も奥様もいらっしゃりませんがってなによ。そんないいかたするの?
「ああ、不安だ……。まあとにかく、僕はこの広場で待っていますから、帰りたくなったら声をかけてくださいね」
「はーい! じゃあね〜」
思いの外、すぐに一人にしてくれた。やっぱり皆、もうお父様やお母様のバックアップがなくなった私たちなんてどうでもいいのかもしれない。
そんなことを思いながら歩いていたら、おでこが誰かにぶつかった。
「いだっ!」
「ごめん!」
……ん? なんか、聞いたことある声だな。でも少し高いから違うか。
私はしりもちをつく。おでこをさすりながらぶつかった相手の顔を見る。
すると、そこには私と同い年ぐらいの、黒髪に青い綺麗な目をした、甲冑姿の少年がいた。しかも大層なイケメンである。
甲冑で腰には剣をさしていることから、おそらく騎士見習いだと思う。というか、騎士見習いだ。
……え? なんで断言できたかって? それはね、
この黒髪は見間違えるはずがなかった。この子は小さいけれど、ゲームの攻略対象の一人、カムレア・ミルトレイだっ!
私と彼は目があったままだった。私は考えているから真顔でカムレア(?)の顔を見つめているのだけど、そのせいで彼は凄い困惑しているようだ。
まさかカムレアと出会うなんて思っていなかった!
カムレア・ミルトレイ
大貴族のミルトレイ家の長男で、
この乙女ゲームにおける第三の攻略対象。
俺様系イケメンで、この国の騎士団の団長になる男。
カムレアは人気投票ぶっちぎりの1位だからなぁ……。私の推しはアリアナなんだけどなぁ……。って! 違う! 大変なことになった!
なんせおそらくゲームでもリーンとカムレアはあったことはない、はず。って、あー! 早速ゲームからズレた……!
私は崩れ落ちる。
「ねえ君、大丈夫?」
「え……」
君?あの、俺様系が君……?
「あ、はい、大丈夫です、ありがとうございます」
「敬語じゃなくていいよ、ぼくたち、多分同い年ぐらいでしょ?」
ぼく、だと、……。
「う、うん」
そうだ! まだカムレアと決まったわけではない! そっくりさんの子供かも知れない! だって俺様じゃないし!
「あの、貴方名前は?」
「ぼく?ぼくはカムレア。カムレア・ミルトレイ」
あぁぁぁぁぁぁぁぁあ!
やっぱりかぁぁぁあ!
私の希望は一瞬で敗れ去った。
「君は? 君の名前」
「え、あ〜、私は、キャスリーン・ガルシア。リーンって呼んでね」
「分かった。よろしく、リーン」
少年もといカムレアは微笑む。
「ゔっっっつ!」
イケメン(ショタ)の微笑みは辛い! 推しじゃないのにこの殺傷能力はえげつない……!
「どうしたの?」
「い、いや……あ」
私はさっきからずっとしりもちをついたままだったのを思い出しすぐに立った。恥ずかしい……。
「リーン、手を擦りむいてる」
「あ、ほんとだ」
おそらく、しりもちをついたときに同時に手をついたから、その時に擦りむいたのだろう。
「大丈夫? あ、そうだ。団長は手当てをするのが大事って言ってた。ねえリーン、今からぼく修練場に行くんだけど、リーンも一緒に行く? 行くなら手当してあげるよ!」
「え、あ、だいじょ……」
攻略対象とあんまり深く関わりたくないし……。
って、あれ……? そういえば、
修練場=剣術を練習?=あわよくば教えてもらえる?
これだっ!
「だいじょ……ゴホゴホ! だっ、だいじょうぶじゃないなぁ! うん、痛い! 痛いから、 私も行こうかな! うん!」
「う、うん? じゃあ行こうか、」
5分後
「ついたよ。ここが騎士団の修練場だ」
そこは、なんというか、まあ、とりあえず、イケメンが多かった。
まあ、実際はそんなことないだろうけど騎士ってイケメンヒィルターがかかりやすいって聞くし、現実から目を背け、全員がイケメンならいいのにという乙女特有のそれを具現化したものが乙女ゲームだからこうなるのもわからなくはない……。
「おお! 女の子じゃないか! しかも可愛い!」
騎士団から歓喜の声が多く聞こえる。
まあ確かに、リーンは現実で言うアルビノみたいな感じで、ウェーブがかかった白い長い髪に宝石みたいな赤い眼。これは可愛くないわけがないよね。
「じゃあ、リーン、君の手当てをするからこっちにきて」
カムレアは騒ぐ大人たちを無視して、建物の中に入って行った。そして医務室の前に立ち、私に先に入ってと促した。
か、完璧すぎる……。私は椅子に座る。
エスコートもレディーファーストも、流石、これが騎士! ……いや、騎士が全員コレではないだろうなぁ。主にさっきの人たちとか……。
やっぱり、これは攻略対象である所以か!全然性格違うけど!
というか、なんで性格が違うんだろう……。やっぱりなんかがあったのかな? で、あんな俺様になったのかな? 分からん!
カムレアはおもむろに何故か医務室にあったワインを開けた。
何するんだろう。……不穏……。つーかなぜ、医務室にワイン……?
そして、そのワインをコットンのような布に染み込ませる。
「手、見せて」
「う、うん……」
彼はそのまま、私の手を取り……。ここまではよかったのだが、そのまま、ワインの染みた布を手の擦りむいたところに付けようとした。
「っ! ちょっと待って!」
私は手を前に出した。
「どうしたの?! リーン?」
私が急に大声を出したからびっくりしたようだ。
そうだった、忘れていた。この乙女ゲームの設定は中世ヨーロッパの架空の国なのだ。
だから、消毒液などあるはずがないのだ。だからって、ワインを手につけようなんて、そんな奇行に走るの!?
※中世ヨーロッパではアルコールの強いワインで消毒をしていました。(実話)
「や、やっぱ大丈夫だわ、痛くなくなったっていうか、なんというか……」
「そ、そうですか?」
「うん、でもさ、その代わりお願いがあるんだよね……」
「お願い?」
「……うん」
明日も更新します! ぜひ読んでください!