第26話 おじさん
ありがとうございます!
部屋に入る。すると、
「っ__」
誰かがいる。しかし、寝ているようだ。壁に寄りかかっていびきをかいている、小太りな小さいおじさん。ちょび髭を生やしていて、服も豪華だ。
赤いマントに金色の王冠それに、金色の杖を抱えている……。って、これ……!?
なんか既視感あるって思ったら、これって、よくある、童話とかに出てくる系の王様?
そんな格好してるのは、やっぱり王様なのかな……。
やっぱり、この国の王のサルバドール・ワーリ? いや、でも……ワーリは今、演説をしているんだよね。なにこれ……困った……。
ああ、そうだ。今は寝ていることに感謝して、先に進まないと。
私は、音を立てないようにして、そのまま階段で地下に降りる。
そして、鉄の扉に鍵を入れて、『ギィイイ』という音と共に扉を開ける。
そこには、狭い空間にテーブルと四人分の椅子と、棚があった。
この棚の2段目!
私は開ける。急がなければ、もう一人の兵士が帰ってきてしまう。……あった!
手紙を回収し、すぐに部屋を出てまた鍵をかける。そのまま、階段を駆け上がり、王様風のおじさんを横目に部屋を出る。すると……。
「あ、君! 勝手に入っちゃだめだよ! って、おい、大丈夫か!? …… 気絶してる……」
もう1人の兵士が、仲間らしき人を1人連れて戻ってきていたのだ。
しまった!
「……まあ、いいじゃないか。それと、君、名前はなんと言うのか?」
声が低く、ガタイが大きい。……男か。
兵士が連れてきた男の顔は丁度、窓の光の影になっていてよく見えない。が、服や装飾から見ても、上級の軍人だと伺える。
「そ、そうですね……。私の名前はミユといいます」
咄嗟に友達の名前が出た。ごめん、美結!
「はっ! ミユ? キャスリーンではなくてか?!」
「っ!」
名前を知っている!? なんだコイツ、すぐに離脱しないと……。
すると、男は前に出てきた。すると、顔が露わになる。
そこには、ラールド団長……いや、ラールドがいた。
「……ラールド……」
私は驚いた。が、驚く姿を見せないように、奴を睨みつけながら、ゆっくりと腰に手を近づける。
『いつでも剣を抜くことは可能だが、戦闘をする気はない』という意思表示だそうだ。
「……ほう? ははは! 貴様、随分大きく出るようになったな!」
ラールドは笑う。
「……」
「あの?」
兵士はラールドの顔色を伺っている。
「ああ、もう下がれ。ここは俺がやろう」
「は! 失礼します!」
兵士はそのまま、倒れたもう一人の兵士を抱えて去っていった。
しまったな……。ここは敵陣。そして、実力を大きく上回る敵将に出会ってしまった。この窮地をどう抜けるか……。
「あれは、貴様がやったのか?」
ラールドは、気絶した兵士のことを言っているようだ。
「は、愚問だな。……他に誰がいると言うのだ?」
私は一年前を思い出して震えている足を、奮い立たせる。
落ち着いて、私。怖くない。大丈夫……。
「それはそうと、なぜ、ここに来たのか。貴様はわざわざ敵陣の真っ只中にノコノコとやって来たということだぞ?」
ラールドは笑う。
……挑発だと分かっている。けれど、やっぱり、私はラールドが許せない。ラールドを睨みつける。
「……おや? 悔しいのか?? ははは!」
「そうだな……間接的ではあるが、貴様の妹……。名はなんといったか。まあよい。妹と旦那を殺したのは俺だからなぁ!!」
「……」
耐えろ、耐えろ、耐えろ……。そして、このまま、逃げる方法を、考えろ……!
「!」
そうだ、あの、部屋にいたおじさん!
あの人は見た目的にも貴族や下手したら王族である可能性は高い。しかも、王城で居眠りしていたんだから。それぐらいの位はあるはず……。
だから、申し訳ないけど、あの人を人質にとる……! そしたら、逃げられるかもしれない。
「はは、無駄話をしすぎたようだ。では……、まいる!!」
ラールドは私を目掛けて剣を抜き、走ってくる。
よし、今だっ!!
私は急いで扉を開けて部屋のに入り、扉を閉める。扉を閉めてなんになるという話だが、少しの時間稼ぎだ。
私は急いでおじさんを掴み、彼の首に右腕をかける。腕をかけているところに左右の頸動脈を当てる。だが、このおじさんはまだ起きなかった。
おいおい、どんだけ寝ているの……。
ラールドは扉を開けて、部屋に入ってきた。
「 ……ほう……」
ラールドはニヤリと笑う。
「この者がどうなってもいいのか!?」
「……狡猾になったな、リーンよ」
「貴方に言われたくはないですが……」
「……まあいい。其奴を人質に取られてしまうと俺らは何もできない。まあ、俺も其奴の正体を知らぬからな。去るのだ。今回限りは見逃してやろう」
ラールドは剣を鞘に入れ、戦闘態勢を破棄する。
「……そうか」
私も剣を鞘に収める。
やはりおじさんは高貴な位の者のようだ。
でも、正体を知らないって、どういうこと?
……せめて、どのぐらいの身分かは聞きたかったけれど……。
そうだ。このまま逃げても見つかるのは時間の問題になってしまう。なにせ、奴に姿を見られてしまっているのだから。
……だから、このまま、このおじさんを攫うのはどうだろうか。それなら私の切り札にもなる。これならば……!
「……その者を返してもらおうか」
ラールドは言う。
「断ろう。私はこのまま、この者を連れて行く!」
私はそう言い、勢いよく窓に飛び込んだ。
『パリン』という窓の割れる音がする。少し窓で腕を切ったようだが、そんなことを気にしている場合ではない。
私はおじさんを抱えたまま、王城の庭に出て走る。
……ここは。初めて美咲さんと出会った場所……。美咲さんはどうなったのだろう。ミルド様や第2皇子と第3皇子。グレースさんも……。
ああ、とても不安だ。彼らが死んでしまっていたら……生きていたら。私は何を思うのだろう。
そのまま走って王城を出る。だが、不幸なことに、王の演説中だった王都は、人の密集により、逃げることが難しくなっていた。
しょうがないから、演説のため、集まっている人々の中に紛れることにした。
すると、おじさんが目を覚ました。
「あ、貴方は……? キャスリーン様ではないですか!」
おじさんは目を輝かせる。
「え? え?」
なんでこの人、私のこと知ってるの? それに、なぜそんなに嬉しそうなの!?
「王城から助け出してくれたのですね! ありがとうございます。お姉様!」
……あ、そうか、そうなんだ。この人は、アリアナのことを知った上で、私を挑発しているのね。
「お姉様? どうかされましたか……?」
「……」
なんなの、こいつ……。
「……貴方誰なの」
私は少し、無愛想に見えたかもしれない。
「え? あ、の、分かりませんか……?」
故人を弄ぶ様な真似はとても苛立つ。
「知らない」
おじさんはとても動揺する。
「そうですか……。あ、では、貴女、魔法を解く方法など、ご存知ですか?」
「え、ああ」
多分ヒールでいけるよね。
「知っているけれど」
「では、私にかけられている魔法を解いてください」
こいつにヒールを知られるのは、何か良くない気がする……。癪だけど……。
「じゃあ、魔法を打ち消す薬がすぐそこの雑貨屋に売っているはずだから、買いに行くわよ」
大体どこにでも売っているからあるよね?
「は、はい!」
***
「では、この薬を私にかけてください」
「どうぞ」
私はおじさんの頭から薬をかけた。
すると、みるみるうちに背が伸びて横幅も細くなった。
「!?」
そのままあっという間に、第2皇子 アーノルド・アークリーが出来上がった。
「は……? アーノルド?」
「義姉様、久しぶりだな、アーノルド・アークリー。ここに参上した!」
お姉様って、義理のってことだったの? はぁぁあ!? ややこしいわ!
ありがとうございました! 明日は投稿をお休みするので、次回は明後日です。お楽しみに!