眠れない夜。
客室のベッドに横になりながら、
明日の修行とやらについて考ていると、
ノックが聞こえた。
「蒼空さん?今よろしいでしょうか?」
「あぁ、入っていいぞ。」
レインが部屋に入ってきて、
俺の横に腰掛けた。
「蒼空さん、明日からの事はもう聞いてますか?」
「修行とか言われたけど、何なんだそれ?」
「蒼空さんの身体能力は素晴らしいですが、
それだけでは魔族達と戦う事もままなりません。
なので、剣術と魔術を明日から学んで頂きます。」
「それが必要ならやってやる。
それと、光の事はどうなる?」
「光さんは叔父様率がいる
パラレルナイツが総動員で事に当たっています。」
「パラレルナイツ?何だそれ?
あの叔父さん騎士軍軍団長とかじゃなかったか?」
「王国騎士軍軍団長が国での立場ですが、
叔父様は別の肩書きがあるんです。
この世界はシーズン王国含め人国が五カ国あり、
種族間の国々も含めたその数は十四カ国あります。
パラレルナイツとは、
この十四つの国々から選抜で選ばれた騎士達です。」
「国同士の同盟は無いが、中立的な軍を作ることでその辺は上手く緩和してる訳だな。」
「どうゆう事でしょうか?」
「王様が言ってたろ?
情報漏洩を避ける為に国同士の同盟、
連合は作れないって。
でもそうなるとパラレルナイツって部隊は、
一人一人が剣術や魔術を見せない、
あるいは見えない様に使ってるのかもな。」
「パラレルナイツに選ばれた最強の騎士達には、
命の契約を結んでるんです。
自国や他国の禁止事項を破ると死に至る契約です。
なのでパラレルナイツ同士はお互いの手の内を知っても口外できませんしすれば死んでしまいますから。」
「なんつー契約だよ、、でもまぁ、
とりあえず光はパラレルナイツに任せるとして、
俺は俺で強くなる為に頑張るしかないか。」
俺は思いの他怖くなってしまっていた。
明日からの事も、元居た世界の事も、
今になって気になって不安になってたまらない。
そんな俺を励ますかのように、
俺の手を握ってくれた。
「大丈夫ですよ、蒼空さん。
光さんは叔父様が必ず見つけてくれます。
必ず元の世界へ帰すと約束致します。
だから安心して休んで下さい。」
「なんだが悪いな、、
カッコつけて結局ビビってちゃダサいよな。」
「そんなこと無いです。
見ず知らずの私やこの世界の為に、
ここへ一緒に来てくれたじゃないですか。」
『レインは俺を過大評価し過ぎだよ。』
心の声は筒抜けのハズだ、
でもレインは何も言い返しては来なかった。
だから俺はレインに、
「ありがとう。」
その一言だけ伝えた。
しかしなんだか眠い、、
そろそろ寝ようと思い、レインに声を掛ける。
「レインそろそろ寝るよ。
お前もそろそろ部屋戻ったらどうだ?」
レインは不思議そうな顔をし、
とんでもない事を言った。
「部屋へ戻るも何も、
ここは私の部屋何ですけど、、」
俺は言葉の意味を理解するのに数秒かかった。
そして慌ててベッドから跳ね起き、
「ちょっと待て!ここは客室じゃないのか!?」
「えぇ、私の部屋ですよ?」
「俺は客室へ通されたはずなんだが、、」
「蒼空さんがこの部屋に招いたのは
私なので気になさらないで下さい。」
あろうことかレインは少しも気にした素振りもなく
笑顔で答えてくる。
「気にするだろ、、つーか、
今更だけどレイン?お前幾つだ?」
「私は15ですよ?
蒼空さんより2つ下になります。」
あまりにも綺麗な顔立ちをしていて、
まさか自分より年下だとは考えもしなかった。
「そーか、、レイン、
これでも俺は健全な男子高校生なんだ。
さすがに同じベッドで寝る訳には、、」
「何をそんな気にしてるのですか?
とりあえず私は着替えますね。」
着ていたローブを脱ぎ捨て、
豊かな膨らみと、
きめ細やかな肌が露になる。
「うわぁぁぁ!!」
俺は咄嗟に布団に潜り込み、
見たものをそして煩悩を振り払うために、
全力で寝に入る。
そんな俺の気苦労も知らずに
レインは気にもせず真っ白なワンピースに着替え、
ベッドへ入り混んでくる。
「そんなに叫んでホントに大丈夫ですが?」
「お前に言われたくねー!!」
俺は今夜は眠れないそう覚悟したのだった。
そして、、
鳥のさえずりが聞こえる。
あぁ、俺は結局一睡も出来なかった。
一方で隣に寝ているレインは、
すやすやと気持ちよさそうに眠っている。
「ホントにコイツはどんな神経してんだか、、
この世界に男女間の恥じらいは無いのか?」
独り言をブツブツ言いながら、
とりあえずベッドから起きて、
バルコニーに出て街と朝焼けを見ていると、
背後からいきなり声を掛けられた。
「お前が異世界人か?」
「だったらなんだ?」
「俺は暗黒圏の魔王の一人、病王のヴェノム。
ここでお前を殺すのは簡単そうだな?」
「そうだろうな。
何せ俺は、戦う術を持っちゃいないからな。」
「異世界人、随分余裕そうに喋るな。
お前は死ぬのが怖くないのか?」
「何言ってんだか、、、
死ぬのが怖くない訳ないだろ?
でも、不思議なくらい心の余裕はあるな。」
「フン、まぁ良い、
お前にもう一人の異世界人の事を教えに来た。」
「光の事か!?」
ついムキになり初めて魔王ヴェノムの顔を見る。
病王の名に似つかわしくないぐらいの、
健康的な人間がそこに立っていた、
しいて言えば、肌の色が普通の人間とは違い、
浅黒いという事ぐらいで。
「その光とやらの事は知らないが、
どうやら呪王フルーフが関与している。」
「なぜそれを俺に教えるんだ?」
「魔王が魔王を落とすのに理由などない。」
何か裏を感じながらも、
俺は気に止める程度に留めた。
「そうか。
じゃあその情報はありがたく貰っておくわ。」
「せいぜい強くなる事だな。
ホントにこの世界を救うつもりならな。」
ヴェノムはそう言い残し、
霧のように消えた。
「朝からまさか魔王に会っちまうとは、、
憂鬱でしかねーよ。」
俺は心でなく小言を本気でこぼすのだった。